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回想①

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ー拓哉・心情ー

瑠馬先生と旅行に行くのは知っていたけれど、まさか二週間もの間、行くことになるとは思わなかった。

宿だって相当お金が掛かるのに…なんて思っていたら、先生は安い民宿を乙先生に教えてもらっていたらしい。
外国から来た旅人を安価かつ長期で受け入れてくれるあれだ。

母さん達には瑠馬先生が話を通してくれた。というかあれだった。
いわゆる一般的にいう「娘さんを下さい」のやりとりだった。
それを今から振り返ってみようと思う。

あの日、瑠馬先生と俺は、G県でどのように行動するかお茶を飲みながら話し合った。
(事件現場はG県だった)

二週間あるとは言っても事件を調べるには短い。
うまく事が運ばなくても、調べるのはその二週間だけにしようということになった。
で、問題はその後だ。
家に帰るために俺は瑠馬先生に車で送ってもらっていた。

「ねえ、たっくん?」

「どうしたんですか?」

「今日、ご両親はお家に居る?」

「はい。母ならいると思います。
父さんは多分仕事でいないかな」

「そっか」

先生がなんだか緊張している?なんだろう?なんてこの時は思っていた。

「ねえ、たっくん」

「先生?」

「僕と結婚を前提に付き合って欲しいな!」

「え?」

ようやく言葉の理解が追い付いてくる。先生と結婚?
もしかしてプロポーズされた?

「俺でいいなら」

「ほんとっ?!」

瑠馬先生が笑う。
紫色の瞳がキラキラしている。

(綺麗だな)

「土日ならお父上は居るのかな?
ちゃんと挨拶したいんだ」

「先生、本当に俺で良いんですか?」

「たっくんは嫌かな?」

「そんなことあるわけないです。
嬉しい」

先生の気持ちがすごく嬉しい。
人を好きになるってこんなに幸せな温かい感情になるんだ。

「たっくん、後で僕も電話を入れるけれど、君からも僕がご挨拶したいっていうことをご両親に伝えておいて欲しいんだ」

「分かりました」

母さんや父さんはなんて言うかなあ。ちょっと心配だ。
でも俺は瑠馬先生が好きだ。
堂々と付き合いたい。
悪いことなんてしてないんだから。

「じゃあまたね、たっくん」

「ありがとうございました。また」

先生に手を振ると振り返される。
先生の車が見えなくなるのを見送って俺は家に入った。

「拓哉、お帰り」

台所で母さんが夕飯の支度をしている
。今日はなんだろう?

「ただいま」
 
「宏美から聞いたけど恋人が出来たの?」

「へ?!」

母さんが切り終えた野菜をフライパンで炒め始める。
(宏美は姉ちゃんの名前だ)
姉ちゃんは前から知っていたもんな。

「確か、瑠馬先生って言ったわよね?
拓哉はどうなの?」

「うん、好きだけど。あの、先生が挨拶したいって」

「あらあら。お父さんにも言っとかないとね」

(こんなにスムーズに行くのか!)

「拓哉、向こうのご両親にもちゃんとご挨拶に行くのよ?
失礼のないようにね」

「はぁーい」

母さんも父さんもどちらかと言えば放任主義だ。
それを当たり前だと思っていたから、あまり寂しいとも思わなかった。

「拓哉、良かったわね」

母さんが嬉しそうに笑ってくれて、俺も嬉しくなった。
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