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紬VS

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目を覚ました何かは、黙って僕を睨み付けていた。水面に浮かぶように立っている様はまるで神のようだった。

僕はその表情を見て、思わず後ずさってしまった。何故ならその表情に見覚えがあったからだ。

「君は…ビャクヤなの?なんで…なんで?」

「ツムギ…」

「紬!!退け!!」


アカツキさんが叫ぶ。
僕はなんとか後ろに退いた。そのぎりぎりをレーザーのようなものが走り抜ける。
それはあっさり地面を打ち砕いた。

「ツムギ…」

ビャクヤが手を振りかざす。
また攻撃してくるつもりなんだ。

「くそっ!」

アカツキさんが銃をビャクヤに向けて構えている。

「駄目だ、撃っちゃ!あれは、ビャクヤなんだから!!」

「じゃあどうしろってんだ!」

アカツキさんの気持ちは分かる。
彼は僕を守ろうとしてくれている。

「ビャクヤ!お願い!やめて!!」

「ツムギ…」

ビャクヤがまた手を振り上げる。
僕はその攻撃をなんとか避けた。

「ビャクヤ!皆でお家に帰ろう?
パンケーキ食べるよね?」

僕は自分の感情を抑えきれなかった。目からボロボロ涙が溢れた。彼女と戦いたくない。

ビャクヤはきっと、誰かに操られている。
あの子は優しい子だ。
誰かを理由もなく傷付けるなんて出来ない子だ。

「ビャクヤ!!」

僕の頬を攻撃が掠める。
血が垂れてきた。
もし僕が死んだら、ツムギも死ぬのか?

「ツムギ…タイ…」

ビャクヤの攻撃は止まない。
僕は走りながら考えていた。

ビャクヤのこの状態がバーサーカーモードだとしたらきっと解除薬が使える。
音波手榴弾もあと一発残っている。
でも、それを投げている隙がない。

ビャクヤの攻撃はそれだけ激しい。

「ビャクヤ!お家に帰ろう!皆待ってる!
キリトだって」

「キリト…ミンナ…ミンナ…?」

ビャクヤに隙が生まれた。僕は音波手榴弾を投げた。

「グギャアアアア!!!」

ビャクヤが蹲って苦しんでいる。
僕は彼女に近付いた。
残った薬はこの一回分だけだ。

「頼む!!」

僕は彼女の口に薬液を流し込んだ。

「ウウウ…」

ビャクヤが苦しんでいる。まさかうまくいかなかったのか?
僕の考えは外れていたのか?

「ビャクヤ…」

僕は彼女をそっと抱き締めた。

「イタイ…イタイ…」

ビャクヤが泣いている。
僕の頭に映像が流れ込んできた。

ビャクヤが大人から一方的に虐げられていたことや、暴力を受けていたことがそこから分かった。

「ビャクヤ、辛かったよね。痛かったよね」

僕の腕の中で、ビャクヤの体が小さくなる。
人間の時の姿に戻ろうとしているんだ。

「ムギ…ダイスキ」

ビャクヤは人間の姿に戻っていた。

「紬!!」

アカツキさんが端末を持ってやってくる。
僕はビャクヤを抱えて湖から出た。

「このバカヤロが!!なんて無茶しやがる!」

アカツキさんに怒鳴られる。

「ごめんなさい。どうしてもビャクヤを助けたくて」

「ビャクヤを救えてもお前が無事じゃなきゃ意味ないだろーが!!すげえ怪我してるぞ!」

「一応救急医療パッケージを呼んでおいた」

ラッセさんが端末の中から言う。
何か黒い物が空からすごい速さで近付いてくる。
あれは、もしかしてドローン?

どさり、と荷物を落として、また飛んで行ってしまった。
荷物をアカツキさんが拾い上げる。

「とりあえず紬の応急手当をするか」

ビャクヤもあまり具合が良くなさそうだ。
顔色が良くない。
早めに街に戻った方が良さそうだ。


フォゼットの科学技術は医療にも活かされているらしい。出血や痛みがすぐ収まった。
アカツキさんがビャクヤを背負う。

僕達は森を後にした。
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