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ラッセ
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しばらく街中を歩くと、とびきり大きな建物があった。ガラス張りのビルですごく綺麗だ。
思っていた通り、そのビルの出入り口は自動ドアだった。
フォゼットの科学力は凄まじい。
「ここ、インフラが整ってるんだね」
「まあそこがフォゼットの売りだからね。でも情報規制は厳しいし、国民の言論についても制限がかけられてる」
「わ…わぁ…」
なんだか住み続けるのは難しそうな国だ。
便利なのはいいけれど窮屈そう。
「まぁ慣れれば快適なんじゃないかな。
俺はやだけど」
「僕もやだよ」
エントランスの真ん中に受付がある。
これだけ見れば普通の企業のようだ。
「いらっしゃいませ」
応対してくれた女性は機械人形だった。
本物の人間と区別が付かない。
キリトは淀みなく言う。
「ラッセに会いたい」
「かしこまりました」
彼女が突然キーボードを凄まじい速さでタイプし始める。
「鍵を見せてください」
僕はトミーさんから預かった鍵を彼女に渡した。それをじっくり数十秒は眺めて彼女は言う。
「承認しました。エレベーターで13階へどうぞ」
再び鍵を手渡される。
まだ鍵が必要なんだ。
「むぎ、こっち」
キリトに手を掴まれる。エレベーターが4つ並んでいる。ここにも人間と一緒に機械人形がいる。
僕達はちょうどやって来た一番左のエレベーターに乗り込んだ。
「えーと13階と」
キリトがボタンを押す。エレベーターなんて随分長い間乗っていない。
静かにエレベーターは昇り始めた。
途中、何回かエレベーターが止まって人を吐き出していく。
もちろん、乗り込んでくる人もいる。
13階に着いたので降りる。
僕達以外誰も降りなかった。
なんだか怖くなってきたぞ。
「むぎ、こっち」
僕が怖気づきそうになったのを気が付いたのか、キリトが僕の肩を優しく叩いてくれた。
「むぎ、大丈夫だよ」
「ありがとう、キリト」
一番奥に向かうとドアがぽつん、とある。
キリトはそのドアに鍵を差し込んだ。カチリ、と開く。僕達は中に入った。
「来たか…」
そんな声がする。この部屋には窓がない。明かりもないから薄暗かった。
「トミーが俺を頼るなんて珍しいな」
部屋にあった大きなモニターに映像が写し出される。一人の女性が映っている。
トミーさんと年齢は同じくらいだろう。
「あなたがラッセ?」
キリトの問いかけに彼女は口の端を持ち上げる。面白い、と言わんばかりだ。
彼女は言う。
「キリトってお前か。なんだ、思っていたよりいい男じゃないか。トミーが入れ込むのも分かるな。
そうだな、まずは質問に答えよう。
俺はラッセ。まぁ偽名だがな。
で、何が知りたいんだ?ここに来ている時点でお前達はもう引き返せないけど」
どうやら僕達は気づかない内に相当危ない橋を渡ってしまっているらしい。
「ロゼ・コーポレーションってなんだ?どこにある?」
キリトの言葉に彼女は溜め息を吐いた。
あまりいい質問じゃなかったらしい。
「それは俺には答えられない。
ここにいられなくなっちまうからな。
言える範囲で言うなら、フォゼットは認知していない」
僕の中で絶望感が湧いてきた。ここまで来てほとんど何も分からないなんて。
「分かった、ありがとう。ラッセ」
「他のことなら手伝えるかもしれない。
気が向いたらいつでも来てくれ」
ラッセさんが通信を切ったのかモニターの映像がプツっと消えた。
「キリト、どうするの?」
「大丈夫だよ」
キリトは笑った。
思っていた通り、そのビルの出入り口は自動ドアだった。
フォゼットの科学力は凄まじい。
「ここ、インフラが整ってるんだね」
「まあそこがフォゼットの売りだからね。でも情報規制は厳しいし、国民の言論についても制限がかけられてる」
「わ…わぁ…」
なんだか住み続けるのは難しそうな国だ。
便利なのはいいけれど窮屈そう。
「まぁ慣れれば快適なんじゃないかな。
俺はやだけど」
「僕もやだよ」
エントランスの真ん中に受付がある。
これだけ見れば普通の企業のようだ。
「いらっしゃいませ」
応対してくれた女性は機械人形だった。
本物の人間と区別が付かない。
キリトは淀みなく言う。
「ラッセに会いたい」
「かしこまりました」
彼女が突然キーボードを凄まじい速さでタイプし始める。
「鍵を見せてください」
僕はトミーさんから預かった鍵を彼女に渡した。それをじっくり数十秒は眺めて彼女は言う。
「承認しました。エレベーターで13階へどうぞ」
再び鍵を手渡される。
まだ鍵が必要なんだ。
「むぎ、こっち」
キリトに手を掴まれる。エレベーターが4つ並んでいる。ここにも人間と一緒に機械人形がいる。
僕達はちょうどやって来た一番左のエレベーターに乗り込んだ。
「えーと13階と」
キリトがボタンを押す。エレベーターなんて随分長い間乗っていない。
静かにエレベーターは昇り始めた。
途中、何回かエレベーターが止まって人を吐き出していく。
もちろん、乗り込んでくる人もいる。
13階に着いたので降りる。
僕達以外誰も降りなかった。
なんだか怖くなってきたぞ。
「むぎ、こっち」
僕が怖気づきそうになったのを気が付いたのか、キリトが僕の肩を優しく叩いてくれた。
「むぎ、大丈夫だよ」
「ありがとう、キリト」
一番奥に向かうとドアがぽつん、とある。
キリトはそのドアに鍵を差し込んだ。カチリ、と開く。僕達は中に入った。
「来たか…」
そんな声がする。この部屋には窓がない。明かりもないから薄暗かった。
「トミーが俺を頼るなんて珍しいな」
部屋にあった大きなモニターに映像が写し出される。一人の女性が映っている。
トミーさんと年齢は同じくらいだろう。
「あなたがラッセ?」
キリトの問いかけに彼女は口の端を持ち上げる。面白い、と言わんばかりだ。
彼女は言う。
「キリトってお前か。なんだ、思っていたよりいい男じゃないか。トミーが入れ込むのも分かるな。
そうだな、まずは質問に答えよう。
俺はラッセ。まぁ偽名だがな。
で、何が知りたいんだ?ここに来ている時点でお前達はもう引き返せないけど」
どうやら僕達は気づかない内に相当危ない橋を渡ってしまっているらしい。
「ロゼ・コーポレーションってなんだ?どこにある?」
キリトの言葉に彼女は溜め息を吐いた。
あまりいい質問じゃなかったらしい。
「それは俺には答えられない。
ここにいられなくなっちまうからな。
言える範囲で言うなら、フォゼットは認知していない」
僕の中で絶望感が湧いてきた。ここまで来てほとんど何も分からないなんて。
「分かった、ありがとう。ラッセ」
「他のことなら手伝えるかもしれない。
気が向いたらいつでも来てくれ」
ラッセさんが通信を切ったのかモニターの映像がプツっと消えた。
「キリト、どうするの?」
「大丈夫だよ」
キリトは笑った。
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