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病院
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「ビャクヤは寝ましたか?」
ある日の夜のことだった。
キリト様がビャクヤを寝かし付けてくれている。
私達は明日、コール先生のいる診療所に診察のために出掛けることになっている。
私はそのための支度をしていた。
あれから体調は安定していたし、それほど心配していない。ビャクヤも元気だ。
「うん、寝た。ムギももう寝よう」
「はい」
私はベッドに上がって寝そべった。
お腹に変化はまだ見られない。
妊娠していることにまるで気付かなかった。
「ムギ、子供がいるとこんなに家が賑やかになるんだな。知らなかったよ」
「本当に。ビャクヤは毎日可愛いし返したくなくなってる」
「うん。わかるよ…」
でも、それは無理なんだろう。
ビャクヤにも帰るべき場所があるんだろうから。キリト様の沈黙がそれを物語っている。
「明日の診察は予約だけど、早めに出ようか。先生達に何か差し入れを買っていこう」
「はい」
「おやすみ、ムギ」
彼に頭を撫でられる。
「おやすみなさい、キリト様」
私は夢の中にいた。久しぶりにここに来た。紬がいる。
「紬?大丈夫?」
「僕、子供なんてって思っていた。でもこんなに可愛いなんて知らなかったよ」
「うん。私も一緒だよ」
「その…キリトとああいうことをするのは、正直抵抗があったけどね」
「でも、赤ちゃんが私の中で育っているわ」
紬にぎゅっと抱き締められる。
「ツムギ、僕達みんなで子供を育てようね」
「うん」
紬からこんなに前向きな言葉が聞けるなんて思わなかったから嬉しい。
子供の持つ力は絶大だ。
「紬、疲れてる?」
「ううん。僕、気が付いたんだ。
僕達の幸せは自分で掴み取らなきゃって」
「うん、そうね!そうよね!」
私は彼に向かって頷いた。
紬は変わってきている。
この調子だ。
「ありがとう、ツムギ」
気が付くと、私の目の前にビャクヤがいた。
「ムギー!あさー!」
最近、起きるとこうしてビャクヤがいる。
私は彼女を抱き締めていた。
彼女の体温にホッとした。
「おはよう、ビャクヤ」
「ムギ、ぱんけーき!」
「うん、病院が終わったら焼いてあげる」
「びょーいんこわい…」
突然ビャクヤが震えだした。
どうしたんだろう。
「ビャクヤ、どうしたの?」
「こわい、やだ、こわい」
「ムギ、どうしたの?」
あ、という間もなくビャクヤがベッドの下に隠れてしまった。
「ビャクヤ、病院が怖いって」
「そうなんだ」
キリト様と二人でベッドの下に隠れているビャクヤに話し掛ける。
ビャクヤはまだ震えていた。
「ビャクヤ、出ておいで。
朝ご飯食べよう」
ぐぎゅるる、とビャクヤのお腹が鳴る音がする。
「ビャクヤ、これからパンケーキ焼くよ」
「ほんと?」
「本当だよ、だから出ておいで」
ビャクヤは真っ青な顔で出てきた。
私とキリト様はお互いを見て頷きあった。
病院は小さな子供にとって特に嫌いな場所だ。
でもこの怖がり方は普通じゃない。
キリト様がビャクヤを抱き上げてあやしている。
とりあえず今はパンケーキを焼くのが先だ。
(あんなに怖がるなんて何があったんだろう)
ビャクヤの住んでいた場所は…。
ある日の夜のことだった。
キリト様がビャクヤを寝かし付けてくれている。
私達は明日、コール先生のいる診療所に診察のために出掛けることになっている。
私はそのための支度をしていた。
あれから体調は安定していたし、それほど心配していない。ビャクヤも元気だ。
「うん、寝た。ムギももう寝よう」
「はい」
私はベッドに上がって寝そべった。
お腹に変化はまだ見られない。
妊娠していることにまるで気付かなかった。
「ムギ、子供がいるとこんなに家が賑やかになるんだな。知らなかったよ」
「本当に。ビャクヤは毎日可愛いし返したくなくなってる」
「うん。わかるよ…」
でも、それは無理なんだろう。
ビャクヤにも帰るべき場所があるんだろうから。キリト様の沈黙がそれを物語っている。
「明日の診察は予約だけど、早めに出ようか。先生達に何か差し入れを買っていこう」
「はい」
「おやすみ、ムギ」
彼に頭を撫でられる。
「おやすみなさい、キリト様」
私は夢の中にいた。久しぶりにここに来た。紬がいる。
「紬?大丈夫?」
「僕、子供なんてって思っていた。でもこんなに可愛いなんて知らなかったよ」
「うん。私も一緒だよ」
「その…キリトとああいうことをするのは、正直抵抗があったけどね」
「でも、赤ちゃんが私の中で育っているわ」
紬にぎゅっと抱き締められる。
「ツムギ、僕達みんなで子供を育てようね」
「うん」
紬からこんなに前向きな言葉が聞けるなんて思わなかったから嬉しい。
子供の持つ力は絶大だ。
「紬、疲れてる?」
「ううん。僕、気が付いたんだ。
僕達の幸せは自分で掴み取らなきゃって」
「うん、そうね!そうよね!」
私は彼に向かって頷いた。
紬は変わってきている。
この調子だ。
「ありがとう、ツムギ」
気が付くと、私の目の前にビャクヤがいた。
「ムギー!あさー!」
最近、起きるとこうしてビャクヤがいる。
私は彼女を抱き締めていた。
彼女の体温にホッとした。
「おはよう、ビャクヤ」
「ムギ、ぱんけーき!」
「うん、病院が終わったら焼いてあげる」
「びょーいんこわい…」
突然ビャクヤが震えだした。
どうしたんだろう。
「ビャクヤ、どうしたの?」
「こわい、やだ、こわい」
「ムギ、どうしたの?」
あ、という間もなくビャクヤがベッドの下に隠れてしまった。
「ビャクヤ、病院が怖いって」
「そうなんだ」
キリト様と二人でベッドの下に隠れているビャクヤに話し掛ける。
ビャクヤはまだ震えていた。
「ビャクヤ、出ておいで。
朝ご飯食べよう」
ぐぎゅるる、とビャクヤのお腹が鳴る音がする。
「ビャクヤ、これからパンケーキ焼くよ」
「ほんと?」
「本当だよ、だから出ておいで」
ビャクヤは真っ青な顔で出てきた。
私とキリト様はお互いを見て頷きあった。
病院は小さな子供にとって特に嫌いな場所だ。
でもこの怖がり方は普通じゃない。
キリト様がビャクヤを抱き上げてあやしている。
とりあえず今はパンケーキを焼くのが先だ。
(あんなに怖がるなんて何があったんだろう)
ビャクヤの住んでいた場所は…。
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