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葛藤

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あれから、眠っているビャクヤを起こして、体を洗ってあげた。はじめは熱いお湯を怖がって暴れた彼女だったけれど、体を優しく擦ってあげたら、だんだん気持ちがいいことに気が付いたらしい。
それからは大人しくしていてくれた。
彼女が家に来て、すでに数日が経過している。

伸び放題になっていた髪の毛はキリト様が肩までの長さに切ってくれた。

そうしたら彼女はとても可愛らしくなった。今まで身に着けていた服は全て脱がせて、キリト様の妹さんの服を借りた。

そんな彼女はどんどん言葉を覚えていっている。この様子から、最近まで人間に育てられていたのではないかとキリト様は睨んでいるようだ。
彼女はどうして一人になってしまったんだろう。キリト様はその辺りも探ってくれると言ってくれた。
こんなに小さい可愛い女の子が一人でいなくなったらきっと大騒ぎになっているだろう。
キリト様はもうすぐお昼を食べに帰ってくる。
なにか有益な情報が分かればいいのだけど。

「ムギ、これおいしい」

ビャクヤはもりもりパンケーキを頬張っている。どうやら大好きになってくれたようだ。

「よかった。パンケーキ、まだあるからね。あ、そうそう」

私は冬から貯蔵していた玉ねぎで温かなスープを作っていた。ビャクヤの前に出す。

「熱いからふうふうして飲んでね」


「ふー?」


ビャクヤが首を傾げている仕草が可愛らしくて、私は彼女の頭を撫でた。

「そうそう。そうやってふーってするの」

「ん…」

少し緊張した面立ちで彼女はしばらくスープに息を吹きかけていた。
そしてスープをゆっくり飲む。(まだ彼女は動物みたいに顔をカップに突っ込んでしまう)

「ビャクヤ、スプーンを使おうね」

「すぷ…?」

彼女にスプーンを持たせたらしばらくそれを観察していた。

「ムギ…」

私は彼女の後ろに立ってスプーンを支えた。

「こうやって持つの」

彼女の腕を掴んで、スプーンでスープを掬ってみせる。

「キャハハ!」

彼女が笑っている。使い方が分かって嬉しくなったらしい。
ビャクヤは頭のいい子だった。だからこそここまで生き延びることができたんだろう。

「ムギ、おいしい!」

スープも上手く作れたようだ、よかった。

「ただいまー」

キリト様が紙袋を手にやってくる。

「お帰りなさい、キリト様」

「キリト!」

ビャクヤが椅子から飛び下りてキリト様に抱き着く。キリト様がそんなビャクヤを受け止めている。

「おとと。ビャクヤ、危ないよ」

「ムギ!すぷーんおしえてくれた!」

キリト様がビャクヤを抱き上げている。

「ムギ、いつもありがとう。ほら、ビャクヤもちゃんとお礼言って」

「ありがとう、ムギ!」

「二人共…」

なんだか面映い気持ちになる。

「キリト、これはー?」

ビャクヤがキリト様が持っていた紙袋を触っている。

「これはムギのだよ。ビャクヤのは今度」

「ムギのー!」

ビャクヤが楽しそうに笑っている。
彼女が来てから毎日が少し騒がしくなって明るくなった気がする。

(ビャクヤを返さなくちゃいけないの?)

紬が私に問いかけて来た。
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