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ツムギ

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今から遡ること、数年ー。
小等部の庭にて。

「ユイ兄様、そんなところで何をしているの?」

双子の妹、ツムギが不思議そうな顔をしてこちらを見上げている。
我が妹ながら可愛い顔をしている。


俺は木の上からツムギに黙るように指示した。
人差し指を唇に当てる。
ツムギは笑って頷いた。
そして木の根本に座って歌い出した。

俺は授業がダルくて抜け出したのだ。
内容が簡単すぎてつまらない。
やるならもっと難しいことがしたい。
ツムギはそんな俺を探しに来てくれたらしい。
俺はいつもこの木の上で過ごしている。
そこから空を眺めるのが好きだ。
雲が流れていったり、鳥たちが泳ぐように飛んでいく。
ツムギの澄んだ歌声が庭に響く。

ツムギは生まれた時から明るくて可愛い女の子だった。
俺も可愛がられて育ったけれど、ツムギの比じゃない。
ツムギは誰からも愛される、そんな子だ。

「ムギ、歌じょーずだね」

そう思って褒めたらツムギが真っ赤な顔をして俯いてしまった。
俺はよく、こうしてツムギを困らせてしまう。そんなつもり全然ないのに。 

「ご、ごめん。ムギ」

慌てて謝ったらツムギがコロコロと笑い出した。

「私、嬉しかったの」

かっわいいなぁ、ウチの妹。
俺達はもうすぐ小等部を卒業する。

ツムギは小等部を卒業したら、家で花嫁修業がある。だからもう一緒に学校には通えない、それがものすごく寂しい。
もし、ツムギが結婚したら間違いなく離れ離れになるし、俺もますます忙しくなるのは間違いない。

(貴族ってやぁねえー)

「ユイ兄様、何を考えてるの?」

ムギがそう尋ねてくる。鋭いんだよね、割と。見た目、ぽけーっとしてるのにね、良い意味で。

「ムギは何を考えてるの?」

質問を質問で返したらツムギが笑っている。

「ユイ兄様ってばずるーい」

あ、予鈴の鐘が鳴ってる。

「私、もう行かなくちゃ。ユイ兄様は体調が悪くて帰ったって先生に言っておくね!」

「ありがとう。速攻帰るわ」

ツムギがまた笑っている。
手を振られたので振り返した。

(ムギがいなくなったら学校行く意味ないわあー。中等部からはテキトーに理由つけてサボりますかね)

俺は木から飛び下りた。
将来、ツムギが結婚したら寂しいなあ。
でも俺がツムギの兄であることに変わりない。

(ムギを泣かすようなやつだったらとりあえずぶん殴る)


ーーー
現在


(本当にムギの結婚が決まるとはね)

俺は自分の部屋でお気に入りのぬいぐるみを抱き締めてくつろいでいた。
今日も絶賛サボり中だ。
家最高だよね。

ツムギから転生の話を聞いた時、本当に驚いた。しかも相手の男も同じように転生しているときた。

(もうそれは運命じゃん。俺なんかに止められんわ)

それでも今年はツムギが一緒にキャンプに来てくれることになったし、ちゃんと兄貴しないといけない。

ツムギの為に俺ができることをしよう。
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