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感情
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私達はただあてもなく歩いていた。まだ何も話していない。
「キリト様…私は前にあなたにお会いしていますか?」
ずっと疑問に思っていたことを聞いたらキリト様は少し考えて頷いた。
「そうですね。会っています」
「やっぱり!私ったら忘れてしまっていて」
「大分前のことですから」
キリト様はそう言って黙ってしまった。
なんだろう、この人とはすごく仲良くしていたような感覚がある。
でもキリト様のことを私は今まで思い出せなかった。
キリト様に会ったのも大分前らしいし、なんだか不思議だなぁ。
「ツムギさんは神を信じますか?」
「神…様ですか?」
キリト様が急に聞いてきたので、私は驚いた。私は考えて答えた。
「そう…ですね。神様はいらっしゃると思います。でも私達より少し離れた場所にいるのだと思います。だから声が届かないこともあるのでしょう。
悲しいことですが、今こうしている時も誰かが苦しんでいます」
「ツムギさんはお強いですね」
「わ、私は何も…」
ぎゅ、とキリト様に優しく抱きしめられた。
甘い香りがする。
香水だろうか?
「私は先の戦争で何度も命を失いかけました。そして敵とされる自分と同じ人間を何十人と殺した。そんな私がこうしてのうのうと生き永らえている」
キリト様はとても傷付いている。
私は彼の背中を撫でた。
この人は今、とても揺れている。
「キリト様だけの責任ではありません。
戦争がいいものではないことは皆分かっています。でも避けられないこともあるんです」
「ツムギさん…いえ、ムギとお呼びしても?」
「はい。キリト様には前からそう呼ばれていましたよね?」
そう笑いながら言ったら、キリト様は泣きそうな顔をした。彼が表情を初めて変えた瞬間だった。
私達はまた街中を歩き出した。
キリト様は私が歩きやすいようにとても気を付けてくれた。
「ムギ、私をおかしいとは思いませんか?」
「なんででしょうか?」
キリト様はしばらく言葉を探しているようだった。
「私には感情というものが、よく分からないのです。喜んだり悲しんだりするのが人間だというのに私にはそれがない」
「キリト様は、感情をいつか見付けられると思いますよ。大丈夫。私がお手伝いしますわ」
「ムギ…」
一緒に歩いていて思ったけれど、キリト様は確かに感情の起伏が少ない人だった。感情がないと感じる原因は、戦争で受けた傷も大きく関わっているんだろう。
キリト様の為なら、私はなんでもしよう。自然とそう思っていた。
「ムギ…こっちへ」
ぎゅ、と抱き寄せられる。
そのすぐ横をスピードを出して走る馬車が駆け抜けていく。
キリト様は私をまた守ってくれた。
また…?
私は内心首を傾げた。
今日は不思議なことが多く起きる。
私はやっぱり前にキリト様と一緒にいたことがある。
「キリト様、ありがとうございます」
「ムギ、あなたのことは必ず俺が守ります」
キリト様が私の目を見つめて言う。
嬉しかった。前にもこんな幸せな感情になった。
それが、いつのことだったかは思い出せなかったけれど。
「キリト様…私は前にあなたにお会いしていますか?」
ずっと疑問に思っていたことを聞いたらキリト様は少し考えて頷いた。
「そうですね。会っています」
「やっぱり!私ったら忘れてしまっていて」
「大分前のことですから」
キリト様はそう言って黙ってしまった。
なんだろう、この人とはすごく仲良くしていたような感覚がある。
でもキリト様のことを私は今まで思い出せなかった。
キリト様に会ったのも大分前らしいし、なんだか不思議だなぁ。
「ツムギさんは神を信じますか?」
「神…様ですか?」
キリト様が急に聞いてきたので、私は驚いた。私は考えて答えた。
「そう…ですね。神様はいらっしゃると思います。でも私達より少し離れた場所にいるのだと思います。だから声が届かないこともあるのでしょう。
悲しいことですが、今こうしている時も誰かが苦しんでいます」
「ツムギさんはお強いですね」
「わ、私は何も…」
ぎゅ、とキリト様に優しく抱きしめられた。
甘い香りがする。
香水だろうか?
「私は先の戦争で何度も命を失いかけました。そして敵とされる自分と同じ人間を何十人と殺した。そんな私がこうしてのうのうと生き永らえている」
キリト様はとても傷付いている。
私は彼の背中を撫でた。
この人は今、とても揺れている。
「キリト様だけの責任ではありません。
戦争がいいものではないことは皆分かっています。でも避けられないこともあるんです」
「ツムギさん…いえ、ムギとお呼びしても?」
「はい。キリト様には前からそう呼ばれていましたよね?」
そう笑いながら言ったら、キリト様は泣きそうな顔をした。彼が表情を初めて変えた瞬間だった。
私達はまた街中を歩き出した。
キリト様は私が歩きやすいようにとても気を付けてくれた。
「ムギ、私をおかしいとは思いませんか?」
「なんででしょうか?」
キリト様はしばらく言葉を探しているようだった。
「私には感情というものが、よく分からないのです。喜んだり悲しんだりするのが人間だというのに私にはそれがない」
「キリト様は、感情をいつか見付けられると思いますよ。大丈夫。私がお手伝いしますわ」
「ムギ…」
一緒に歩いていて思ったけれど、キリト様は確かに感情の起伏が少ない人だった。感情がないと感じる原因は、戦争で受けた傷も大きく関わっているんだろう。
キリト様の為なら、私はなんでもしよう。自然とそう思っていた。
「ムギ…こっちへ」
ぎゅ、と抱き寄せられる。
そのすぐ横をスピードを出して走る馬車が駆け抜けていく。
キリト様は私をまた守ってくれた。
また…?
私は内心首を傾げた。
今日は不思議なことが多く起きる。
私はやっぱり前にキリト様と一緒にいたことがある。
「キリト様、ありがとうございます」
「ムギ、あなたのことは必ず俺が守ります」
キリト様が私の目を見つめて言う。
嬉しかった。前にもこんな幸せな感情になった。
それが、いつのことだったかは思い出せなかったけれど。
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