上 下
7 / 84
2

ツムギの日常

しおりを挟む
「っ!!!」

目を開けると見慣れた天井だった。
体中に汗をかいている。
今は夏、確かに暑いけれどそれだけじゃない。それは多分、さっきまで見ていた夢のせい。でもいつも忘れてしまう。
すごく大事な夢なのに。
忘れてしまうのには、きっと理由がある。
私にはそんな確信がある。

私はゆっくり起き上がって頭痛に顔をしかめた。まだ熱っぽい。
数日前に私は夏風邪を引いてしまった。
薬を飲んでいるのになかなか良くならなくて不安になる。

「ムギー!ご飯を持ってきたぞ!」

「待て待て、まずお茶を淹れてやらないと」

「それは僕がやるよ!」

「つか、お前ら全員、うるせえし」

ガヤガヤと部屋の外から声がして、私は笑ってしまった。
大好きなお兄様達だ。
コンコンとノックされて、私は答えた。

「ムギ!もう起きていて大丈夫なのか?」

この人が一番上の兄、トーマス兄様。明るくて熱血漢な人。いつも元気で優しい。


「ムギ、お茶を飲むだろう?」

この人は二番目の兄、ヘンリ兄様。
頭が良くて、私に勉強を教えてくれる。

「ムギちゃん、薬持ってきたよ!」

この人が三番目の兄、サンデ兄様。
面倒見が良くて、私を何かと気にかけてくれる。

「つかさぁ、ムギ。お前無理しすぎたんじゃね?」

この人が四番目の兄、ユイ兄様。
私とは双子だ。
みんな、私を愛してくれる。
生まれた時から、私はとても大事にされてきた。
だから、私も皆に何か返したい。
でも何で返したらいいのかさっぱりわからない。

私の家は古くから続く名家らしい。
だから伝統や、厳しいしきたりがある。
それについてはとてもうるさいお父様だけど、それ以外では私を愛してくれる。
お母様はいつもニコニコしている。

「こらこら。全員でレディの部屋に押し掛けるなんていけませんよ」

お母様が私の様子を見に来てくれたらしい。お兄様達、しゅんってしてる。

「ムギ、もう少しでよくなりますからね。
お兄様達もムギがいなくて寂しいんですよ。怒らないであげてね」

「ありがとう、お母様。お兄様達も」

そう言って笑ったらお兄様達は顔を赤くした。

私はお兄様達が用意してくれたお茶を飲んでご飯を食べた。
最後に薬を飲む。
早く治ると良いな。

「ムギー、俺にも話せねえことなん?」

ユイ兄様がベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせている。
ユイ兄様、学校嫌いだからなぁ。サボるのならここはうってつけの場所だ。私は苦笑いして答えた。

「最近、夢を見るの」

「夢え?どんな?」

「よく覚えてない。多分、海…かな?」

「この辺りに海なんてないけどな」

「だよね」

ユイ兄様は優しい。口は悪いけど、私にいつも寄り添ってくれる。

「それ、思い出しても大丈夫な夢なん?
すげえ怖いやつかもじゃん」

「うん。そうだよね。
でも思い出したいの」

「ま、ムギがそう言うなら協力する」

「ありがとう」  

「そういやさぁ」

ユイ兄様が何かを言い掛けた瞬間、ノックされた。

「やべっ!」

ユイ兄様はベッドの下に隠れる。
それを確認して、私が答えるとドアが開いた。

「ツムギ、お前に縁談が来た。
隣国の伯爵様のお家だ。喜びなさい」

ついに私にも家を出る時が来たらしい。
私は知らない男性の物になる。それはとても怖かった。

「お父様、お相手の方がどんな方なのか教えてください」

そう頼んだらお父様も頷く。

「先の戦争で前線で戦われていた勇敢な人だと聞いている。
片目を負傷しているそうだ。いや、見事だな」

お父様はどちらかといえば古いタイプの人間だ。戦争での負傷は名誉だと思っている。
戦争なんて下らない。
失うばかりだ。
でも私は何も言えなかった。

「そういえばユイはどうした?
またサボってるのか、全く」

お父様が部屋を出ていく。
ユイ兄様がヒョイ、と顔を出した。

「あー、くそじじい本当疲れるわ。
でもムギ、ついに結婚するんだ?」

「うん、そうみたいだね」
 
ユイ兄様がベッドに上って私を抱き締めた。

「ムギなら大丈夫。俺が保証するよ、なんかあったら駆け付けてやるから」

「ありがとう」

風邪が治ったら、一度向こうの方と食事会をすることになった。
相手がどんな方なのか見当もつかない。
優しい方だったらいいな。

楽しみなような不安なようなこの気持ち。
何故か夢の事を思い出す。
私はあの時、海で何をしていたの?
怖い夢かもしれない、でもやっぱり知りたい。でもどうやって?
私は自分の気持ちに戸惑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

処理中です...