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ツムギの日常

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「っ!!!」

目を開けると見慣れた天井だった。
体中に汗をかいている。
今は夏、確かに暑いけれどそれだけじゃない。それは多分、さっきまで見ていた夢のせい。でもいつも忘れてしまう。
すごく大事な夢なのに。
忘れてしまうのには、きっと理由がある。
私にはそんな確信がある。

私はゆっくり起き上がって頭痛に顔をしかめた。まだ熱っぽい。
数日前に私は夏風邪を引いてしまった。
薬を飲んでいるのになかなか良くならなくて不安になる。

「ムギー!ご飯を持ってきたぞ!」

「待て待て、まずお茶を淹れてやらないと」

「それは僕がやるよ!」

「つか、お前ら全員、うるせえし」

ガヤガヤと部屋の外から声がして、私は笑ってしまった。
大好きなお兄様達だ。
コンコンとノックされて、私は答えた。

「ムギ!もう起きていて大丈夫なのか?」

この人が一番上の兄、トーマス兄様。明るくて熱血漢な人。いつも元気で優しい。


「ムギ、お茶を飲むだろう?」

この人は二番目の兄、ヘンリ兄様。
頭が良くて、私に勉強を教えてくれる。

「ムギちゃん、薬持ってきたよ!」

この人が三番目の兄、サンデ兄様。
面倒見が良くて、私を何かと気にかけてくれる。

「つかさぁ、ムギ。お前無理しすぎたんじゃね?」

この人が四番目の兄、ユイ兄様。
私とは双子だ。
みんな、私を愛してくれる。
生まれた時から、私はとても大事にされてきた。
だから、私も皆に何か返したい。
でも何で返したらいいのかさっぱりわからない。

私の家は古くから続く名家らしい。
だから伝統や、厳しいしきたりがある。
それについてはとてもうるさいお父様だけど、それ以外では私を愛してくれる。
お母様はいつもニコニコしている。

「こらこら。全員でレディの部屋に押し掛けるなんていけませんよ」

お母様が私の様子を見に来てくれたらしい。お兄様達、しゅんってしてる。

「ムギ、もう少しでよくなりますからね。
お兄様達もムギがいなくて寂しいんですよ。怒らないであげてね」

「ありがとう、お母様。お兄様達も」

そう言って笑ったらお兄様達は顔を赤くした。

私はお兄様達が用意してくれたお茶を飲んでご飯を食べた。
最後に薬を飲む。
早く治ると良いな。

「ムギー、俺にも話せねえことなん?」

ユイ兄様がベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせている。
ユイ兄様、学校嫌いだからなぁ。サボるのならここはうってつけの場所だ。私は苦笑いして答えた。

「最近、夢を見るの」

「夢え?どんな?」

「よく覚えてない。多分、海…かな?」

「この辺りに海なんてないけどな」

「だよね」

ユイ兄様は優しい。口は悪いけど、私にいつも寄り添ってくれる。

「それ、思い出しても大丈夫な夢なん?
すげえ怖いやつかもじゃん」

「うん。そうだよね。
でも思い出したいの」

「ま、ムギがそう言うなら協力する」

「ありがとう」  

「そういやさぁ」

ユイ兄様が何かを言い掛けた瞬間、ノックされた。

「やべっ!」

ユイ兄様はベッドの下に隠れる。
それを確認して、私が答えるとドアが開いた。

「ツムギ、お前に縁談が来た。
隣国の伯爵様のお家だ。喜びなさい」

ついに私にも家を出る時が来たらしい。
私は知らない男性の物になる。それはとても怖かった。

「お父様、お相手の方がどんな方なのか教えてください」

そう頼んだらお父様も頷く。

「先の戦争で前線で戦われていた勇敢な人だと聞いている。
片目を負傷しているそうだ。いや、見事だな」

お父様はどちらかといえば古いタイプの人間だ。戦争での負傷は名誉だと思っている。
戦争なんて下らない。
失うばかりだ。
でも私は何も言えなかった。

「そういえばユイはどうした?
またサボってるのか、全く」

お父様が部屋を出ていく。
ユイ兄様がヒョイ、と顔を出した。

「あー、くそじじい本当疲れるわ。
でもムギ、ついに結婚するんだ?」

「うん、そうみたいだね」
 
ユイ兄様がベッドに上って私を抱き締めた。

「ムギなら大丈夫。俺が保証するよ、なんかあったら駆け付けてやるから」

「ありがとう」

風邪が治ったら、一度向こうの方と食事会をすることになった。
相手がどんな方なのか見当もつかない。
優しい方だったらいいな。

楽しみなような不安なようなこの気持ち。
何故か夢の事を思い出す。
私はあの時、海で何をしていたの?
怖い夢かもしれない、でもやっぱり知りたい。でもどうやって?
私は自分の気持ちに戸惑っていた。
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