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町の声
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「いらっしゃい!」
「おや、シズクちゃんじゃないか!」
「女将さん、大将!お久しぶりです!」
僕たちがシズクに案内されて入ったのは、商店街の一角にある小さな食堂だった。
まだ昼食には早いせいか店内にいるお客さんはまばらだ。
でもいいにおいがするー!お腹が鳴りそうだ。メニューが壁一面に貼られている。
「もしかして逸花様?!」
女将さんが僕に気が付いたのか声を上げる。
「まぁー!可愛らしい方だこと!娘に来てほしいくらい」
僕は彼女を見つめて笑った。
「逸花です、よろしくお願いします」
「ああ!可愛らしい!まさかウチみたいな店に逸花様が来てくださるなんてねえ」
「シズクちゃん、すげえじゃねえか!」
大将さんが言う。
「いやぁ、ふふ!」
シズクが照れている。また新しいシズクの一面が見られたなぁ。
「さ、好きな席に座っておくれよ。お兄ちゃんもいっぱい食べるんだよ!」
「ありがとう」
僕たちは厨房に近いテーブル席に腰掛けた。
女将さんがお水を持ってきてくれる。
さて、何を食べようかなぁ。
テーブルの隅にスタンドに挿してあるメニューを僕は取り出した。
机にそれを広げる。
「姫様、ここはなんでも美味しいですが、泰そばが一番美味しくて定番ですよ」
「では、それにします。トキ様は?」
「じゃあ俺もそれにする」
「トキは大盛りにしましょうか、あとここは餃子も美味しいんですよ」
シズクはこのお店が大好きらしい。あれもこれもとメニューをお勧めされた。
でもあんまり頼んで食べきれないのは困るので、やんわり制止しておく。
「シズクさん、それくらいにしましょうか」
シズクはハッとなって真っ赤になった。
「すみません、姫様」
それを見ていたらしい女将さんが笑い出す。
「逸花様は本当にしっかりされてるんだねえ!」
「姫様に助けられてばかりですよー」
シズクが恥ずかしそうに言う。そんなことはないんだけどな。
それからしばらくして、頼んだものが運ばれてきた。わぁ、美味しそう。
何より湯気がたっているのがいい。冷たい食べ物ばかりでは、やはり寂しい。
「わ、美味そう!」
トキも嬉しそうに声を上げた。
僕は目の前に置かれた丼を覗き込んだ。
スープがキラキラしてる!
すごい、黄金色だぁ!
厚い焼豚に葉物野菜、そして魚のすり身が麺の上に載っている。
「いただきます」
僕は割り箸を割って食べ始めた。
あちちっ。
ふうふうしないとね。
麺は細くてつるつる食べれてしまう。
合間に分厚くて大きな焼豚にかじりつく。
美味しい。すごく美味しい。
「やっぱり大将のおそば、大好き」
シズクが嬉しそうに言う。
シズクが朝に帰ってきたのは久しぶりだろうし、ここに寄れただけでもよかった。
食べ終わったらこのまま僕たちは王都へ帰らなければいけない。
僕はふと思って女将さんに話しかけた。
「あの、もうすぐ春華ですが、なにか困ったこととかありませんか?」
春華を見に来る人たちで、この商店街も賑わいを見せるのは確実だった。こんな時くらいしか地元の声は聞けない。
女将さんはそうだねえ、と考える。
「今は何よりどこも人不足なんだよ。
うちももう一人くらい店員が欲しくてね。これから春華でお客が来るのに」
女将さんがため息をつく。
なるほど。
それは大変だ。サービスが充実していなければリピーターだって得にくくなる。
これもお父さんたちに相談したほうが良さそうだな。
そっと頭の片隅に留める。
まだまだ課題は多い。僕に出来ることはなんでもやりたい。
ご飯をお腹いっぱい食べた僕たちはお代を払って、(お代を受け取れないなんてはじめは断られた)駅に向かう市バスに乗り込んだ。
「逸花、疲れたか?」
僕の前の席に座ったトキが振り返って聞いてくれる。僕は頷いた。
「うん、疲れた。すごく眠たい」
トキが優しく頭を撫でてくれた。
「帰りの電車は眠っていけよ」
「うん」
バスに揺られるうちに僕はうとうとしていたらしかった。
気が付くとシズクの背中におぶわれていた。シズクの髪の毛からいい匂いがする。
どうやら電車が来るのを待っていたようだ。
「姫様、起きられましたか?」
「ん、ごめんなさい、すぐおります」
「大丈夫ですよ。もう少しお休みになってください」
確かにまだ眠たい。今おりてもフラフラしたら危ないし、僕はもう少しこのままでいることにした。
「ありがとう、シズクさん」
「おやすみなさい、姫様」
僕はまた眠ってしまっていた。
「おや、シズクちゃんじゃないか!」
「女将さん、大将!お久しぶりです!」
僕たちがシズクに案内されて入ったのは、商店街の一角にある小さな食堂だった。
まだ昼食には早いせいか店内にいるお客さんはまばらだ。
でもいいにおいがするー!お腹が鳴りそうだ。メニューが壁一面に貼られている。
「もしかして逸花様?!」
女将さんが僕に気が付いたのか声を上げる。
「まぁー!可愛らしい方だこと!娘に来てほしいくらい」
僕は彼女を見つめて笑った。
「逸花です、よろしくお願いします」
「ああ!可愛らしい!まさかウチみたいな店に逸花様が来てくださるなんてねえ」
「シズクちゃん、すげえじゃねえか!」
大将さんが言う。
「いやぁ、ふふ!」
シズクが照れている。また新しいシズクの一面が見られたなぁ。
「さ、好きな席に座っておくれよ。お兄ちゃんもいっぱい食べるんだよ!」
「ありがとう」
僕たちは厨房に近いテーブル席に腰掛けた。
女将さんがお水を持ってきてくれる。
さて、何を食べようかなぁ。
テーブルの隅にスタンドに挿してあるメニューを僕は取り出した。
机にそれを広げる。
「姫様、ここはなんでも美味しいですが、泰そばが一番美味しくて定番ですよ」
「では、それにします。トキ様は?」
「じゃあ俺もそれにする」
「トキは大盛りにしましょうか、あとここは餃子も美味しいんですよ」
シズクはこのお店が大好きらしい。あれもこれもとメニューをお勧めされた。
でもあんまり頼んで食べきれないのは困るので、やんわり制止しておく。
「シズクさん、それくらいにしましょうか」
シズクはハッとなって真っ赤になった。
「すみません、姫様」
それを見ていたらしい女将さんが笑い出す。
「逸花様は本当にしっかりされてるんだねえ!」
「姫様に助けられてばかりですよー」
シズクが恥ずかしそうに言う。そんなことはないんだけどな。
それからしばらくして、頼んだものが運ばれてきた。わぁ、美味しそう。
何より湯気がたっているのがいい。冷たい食べ物ばかりでは、やはり寂しい。
「わ、美味そう!」
トキも嬉しそうに声を上げた。
僕は目の前に置かれた丼を覗き込んだ。
スープがキラキラしてる!
すごい、黄金色だぁ!
厚い焼豚に葉物野菜、そして魚のすり身が麺の上に載っている。
「いただきます」
僕は割り箸を割って食べ始めた。
あちちっ。
ふうふうしないとね。
麺は細くてつるつる食べれてしまう。
合間に分厚くて大きな焼豚にかじりつく。
美味しい。すごく美味しい。
「やっぱり大将のおそば、大好き」
シズクが嬉しそうに言う。
シズクが朝に帰ってきたのは久しぶりだろうし、ここに寄れただけでもよかった。
食べ終わったらこのまま僕たちは王都へ帰らなければいけない。
僕はふと思って女将さんに話しかけた。
「あの、もうすぐ春華ですが、なにか困ったこととかありませんか?」
春華を見に来る人たちで、この商店街も賑わいを見せるのは確実だった。こんな時くらいしか地元の声は聞けない。
女将さんはそうだねえ、と考える。
「今は何よりどこも人不足なんだよ。
うちももう一人くらい店員が欲しくてね。これから春華でお客が来るのに」
女将さんがため息をつく。
なるほど。
それは大変だ。サービスが充実していなければリピーターだって得にくくなる。
これもお父さんたちに相談したほうが良さそうだな。
そっと頭の片隅に留める。
まだまだ課題は多い。僕に出来ることはなんでもやりたい。
ご飯をお腹いっぱい食べた僕たちはお代を払って、(お代を受け取れないなんてはじめは断られた)駅に向かう市バスに乗り込んだ。
「逸花、疲れたか?」
僕の前の席に座ったトキが振り返って聞いてくれる。僕は頷いた。
「うん、疲れた。すごく眠たい」
トキが優しく頭を撫でてくれた。
「帰りの電車は眠っていけよ」
「うん」
バスに揺られるうちに僕はうとうとしていたらしかった。
気が付くとシズクの背中におぶわれていた。シズクの髪の毛からいい匂いがする。
どうやら電車が来るのを待っていたようだ。
「姫様、起きられましたか?」
「ん、ごめんなさい、すぐおります」
「大丈夫ですよ。もう少しお休みになってください」
確かにまだ眠たい。今おりてもフラフラしたら危ないし、僕はもう少しこのままでいることにした。
「ありがとう、シズクさん」
「おやすみなさい、姫様」
僕はまた眠ってしまっていた。
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