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紗輝の長い1日5
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イルカショーの行われるプールは思っていたより大きかった。座れるようになっているスペースもだいぶ広い。ちらほらと俺達と同じように場所取りをしている人たちがいる。
「紗輝くん!イルカショーわくわくするな!」
こんなにきらきら笑って喜ばれると連れてきた甲斐がある。
「よかった、喜んでもらえて」
センセはなぜかうつむいてしまった。
どうしたんだろ?
「紗輝ちゃーん!ここならよくみえるよー!」
まりんちゃんが手を振っている。
「センセ、いこっか?」
手を差し出すとセンセはそっと手を掴んでくれた。可愛い。
座ってイルカショーが始まるのを、ただ待っているのも暇なので、近くの売店で食べ物を買ってきた。
さっき食べたのに、目の前にあると食べられてしまうのが不思議だ。
センセはたこやきを頬張っている。
「むぁ、んまいな」
「真ちゃん、まりんもたこやき食べたいな」
「ああ、食べるといいぞ」
そんなこんなでイルカショーの時間が迫ってきた。座席も人がたくさんで立ち見の人もいるようだ。
「もうすぐ始まるな!」
腕時計をセンセはちらりと見る。
そしてついにイルカショーは始まった。
イルカの躍動感はものすごかった。
でも俺が気になったのはセンセのことだった。きらきらした笑顔を俺に向けて、すごいな、って笑う。
あぁ、好きだなぁ。
センセが本当に大好きだ。
最後にイルカに触れるコーナーがあり、センセは大きく手を振り上げた。
センセ、大人はだめなんじゃ、と言いかけたらマイクを持ったお姉さんが手招きしている。
え、まさか。センセは立ち上がる。
お姉さんは確かにセンセを呼んでいる。
センセはすごいスピードで走っていった。
そんなに早く走れるんですね。
びっくりしたわ。
センセが水槽の前に立って自分の名前を言っている。
拍手が起こる。
「では、イルカさんと握手してみましょう!」
お姉さんに促されるままにセンセは、イルカの方を向く。
「真ちゃん選ばれてよかったね」
まりんちゃん優しいなぁ。
センセはにこにこしながら座席に戻ってきた。
「どうだった?」
まりんちゃんの言葉にセンセは更に笑った。
「すべすべだったぞ!」
イルカショーも終わって、俺達は水族館の館内にいた。
「あ、まりんお手洗いいってくるー」
「俺もいくぞ」
「ん、ここで待ってるね」
まりんちゃんとセンセをトイレのそばで待つことにした。
腕時計を見ると二時過ぎだ。
確かラッコの餌付けショーがあったような気がする。
パンフレットを眺めて確認する。
「おまたせ、紗輝くん」
センセはすぐに戻ってきた。しばらく待ってもまりんちゃんが来ない。
センセもおかしいと思ったようだ。
「まりんちゃんに電話し、あ」
そう、まりんちゃんの荷物は俺が預かっていた。もちろんスマホもこの中だろう。
「まりんちゃん、他の出口から出ちゃったのかも」
そういうとセンセは頷いた。
「よし、探そう」
俺達はトイレの前の通路を進んだ。
そこは通り抜けられるようになっていて、まりんちゃんはそっちから出てしまったらしい。
でも彼女の姿は見えない。
「センセ。どうしよ、館内放送で呼んでもらう?」
「いや、ここは広いから、まりんちゃんがそこまで来れるかわからないし、彼女も恥ずかしいだろう」
じゃあ、どうしたら。
俺が途方に暮れているとセンセは言った。
「まりんちゃんは俺達が探していることをわかっていると思う。
スマホもないし、余計な」
「でもどこにいるのかなんて」
「まりんちゃんは多分順路通りに先にすすんでいるんじゃないか。
わからない場所に引き返すより、矢印の通りに進んだほうが安心だからな」
そうだとすれば、彼女は出口にいる、ということになる。
「センセ、急ごう!」
「あぁ!」
まりんちゃんはきっと不安を感じているはずだ。大人びた印象の子とはいえ、まだ小学生なのだから。
順路通りに、通路を早歩きで進む。
この水族館は本当に広い。
「真ちゃん!!紗輝ちゃん!!」
もうすぐ出口というところに泣いているまりんちゃんがいた。
「迷子になっちゃったよー!」
わぁぁぁ、と彼女は泣き出す。
ひとりですごく不安だったと思う。
センセはまりんちゃんの頭を撫でた。
「よく出口で待っていられたな。
とってもいい判断だったと思うぞ」
「まりんね、迷子の子を見つけてお母さんを探したの、そしたらまりんも迷子になっちゃって」
そんなことが。
彼女はしゃくりあげながらこう続けた。
「お母さんが、真ちゃんは名探偵だから、困ったことがあっても大丈夫って言ってたから」
それはそのとおりだ。
こうして実際にまりんちゃんの居場所を特定しているのだから。
「よかった、まりんちゃんが見つかって」
センセはまたまりんちゃんの頭を撫でる。
「真ちゃん、紗輝ちゃん、心配かけてごめんなさいー!」
まりんちゃんはしばらく泣いていたけどだんだん落ち着いてきたようだ。
「まりんちゃん、水族館の中を見てみないか?
楽しそうだぞ」
「うん、見る」
良かった、まりんちゃんに元気が戻ってきたようだ。
順路を引き返して俺達は水族館を見学した。
ラッコの餌付けも無事見ることができた。
一番最後に来たのは当然、お土産のコーナーだ。
「紗輝くん、クッキーが美味しそうだな!」
もちろんなんでも買ってあげる所存です。
「まりんちゃんはなににする?」
俺が尋ねるとまりんちゃんはしばらく考えていた。
そして、イルカのキーホルダーを指差す。
「まりん、これがいいなー!」
イルカはガラスで出来ている。
キラキラしてきれいだ。
おんなのこってなんでこういうのが好きなんだろう?
センセはお菓子を何箱か俺の持っていたかごに入れた。
「紗輝くん、本当にお金はいいのか?」
真剣なセンセに笑ってしまう。
「センセ、俺も社会人だよ?そのくらい大丈夫だよ」
「そうだけど」
突然もじもじし始めるセンセ。
今日はなんか変だよなー。
会計を済ませて、俺たちは水族館をあとにした。
まりんちゃんを最寄り駅まで送る。
「紗輝ちゃん、真ちゃん!またね!」
今日はいろいろあったなぁ。
思い返せば長かったかも。
「紗輝くん」
突然センセに声を掛けられる。
どうしたんだろ?
センセは俺の腕をがっちり掴んで歩き出した。
しばらく行くと公園に着く。
「紗輝くん、今日は本当にありがとう」
ぺこり、とセンセに頭を下げられた。
そして、じっと見つめられる。
「紗輝くん、俺は君が好きだ。
君が俺を好きになってくれる前から君が好きだったんだと思う」
え、なにこれ、告白じゃん。
「センセ?」
俺が声をかけるとセンセは、ぎゅっと唇をかんだ。
「紗輝くんに好きだって言われたのにはっきりしてなくて本当にすまない。
俺は男だし、君が思っているよりちゃんとしてないから」
そこまで言われて俺は何かが切れた。
ぎゅ、とセンセを抱きしめる。
「俺はどんなセンセだって大好きだからね。
もっといろんなセンセが見たいよ」
「紗輝くん」
センセの顔が近くにあったから抱き寄せてキスした。
「っ、んぅ、ん」
苦しそうだけどやめるわけない。
「ぷあ」
涙目のセンセが可愛くて思わずにやけてしまう。
「センセ、俺と付き合って」
そっと、手を握って俺はひざまずいて甲にキスする。
センセは慌てていた。
「紗輝くん、俺、君を好きでいていいのか?」
「当たり前でしょ」
センセの顔が真っ赤になっていく。
夕日のせいだけではない。
「俺、紗輝くんの恋人になれるのかぁ」
ふにゃぁとセンセは笑った。
可愛いしかない、尊い。
「センセ、浮気しちゃだめだよ」
「むぅ、紗輝くんは俺を信用してくれないのかー」
軽口を言い合いながら院へ帰った。
「センセ、夕飯」
そこまで言いかけて気がつく。
センセ爆睡してる。
今日は疲れたよね。
そっと寝顔にキスして俺は台所で夕飯の仕度をはじめた。
完
「紗輝くん!イルカショーわくわくするな!」
こんなにきらきら笑って喜ばれると連れてきた甲斐がある。
「よかった、喜んでもらえて」
センセはなぜかうつむいてしまった。
どうしたんだろ?
「紗輝ちゃーん!ここならよくみえるよー!」
まりんちゃんが手を振っている。
「センセ、いこっか?」
手を差し出すとセンセはそっと手を掴んでくれた。可愛い。
座ってイルカショーが始まるのを、ただ待っているのも暇なので、近くの売店で食べ物を買ってきた。
さっき食べたのに、目の前にあると食べられてしまうのが不思議だ。
センセはたこやきを頬張っている。
「むぁ、んまいな」
「真ちゃん、まりんもたこやき食べたいな」
「ああ、食べるといいぞ」
そんなこんなでイルカショーの時間が迫ってきた。座席も人がたくさんで立ち見の人もいるようだ。
「もうすぐ始まるな!」
腕時計をセンセはちらりと見る。
そしてついにイルカショーは始まった。
イルカの躍動感はものすごかった。
でも俺が気になったのはセンセのことだった。きらきらした笑顔を俺に向けて、すごいな、って笑う。
あぁ、好きだなぁ。
センセが本当に大好きだ。
最後にイルカに触れるコーナーがあり、センセは大きく手を振り上げた。
センセ、大人はだめなんじゃ、と言いかけたらマイクを持ったお姉さんが手招きしている。
え、まさか。センセは立ち上がる。
お姉さんは確かにセンセを呼んでいる。
センセはすごいスピードで走っていった。
そんなに早く走れるんですね。
びっくりしたわ。
センセが水槽の前に立って自分の名前を言っている。
拍手が起こる。
「では、イルカさんと握手してみましょう!」
お姉さんに促されるままにセンセは、イルカの方を向く。
「真ちゃん選ばれてよかったね」
まりんちゃん優しいなぁ。
センセはにこにこしながら座席に戻ってきた。
「どうだった?」
まりんちゃんの言葉にセンセは更に笑った。
「すべすべだったぞ!」
イルカショーも終わって、俺達は水族館の館内にいた。
「あ、まりんお手洗いいってくるー」
「俺もいくぞ」
「ん、ここで待ってるね」
まりんちゃんとセンセをトイレのそばで待つことにした。
腕時計を見ると二時過ぎだ。
確かラッコの餌付けショーがあったような気がする。
パンフレットを眺めて確認する。
「おまたせ、紗輝くん」
センセはすぐに戻ってきた。しばらく待ってもまりんちゃんが来ない。
センセもおかしいと思ったようだ。
「まりんちゃんに電話し、あ」
そう、まりんちゃんの荷物は俺が預かっていた。もちろんスマホもこの中だろう。
「まりんちゃん、他の出口から出ちゃったのかも」
そういうとセンセは頷いた。
「よし、探そう」
俺達はトイレの前の通路を進んだ。
そこは通り抜けられるようになっていて、まりんちゃんはそっちから出てしまったらしい。
でも彼女の姿は見えない。
「センセ。どうしよ、館内放送で呼んでもらう?」
「いや、ここは広いから、まりんちゃんがそこまで来れるかわからないし、彼女も恥ずかしいだろう」
じゃあ、どうしたら。
俺が途方に暮れているとセンセは言った。
「まりんちゃんは俺達が探していることをわかっていると思う。
スマホもないし、余計な」
「でもどこにいるのかなんて」
「まりんちゃんは多分順路通りに先にすすんでいるんじゃないか。
わからない場所に引き返すより、矢印の通りに進んだほうが安心だからな」
そうだとすれば、彼女は出口にいる、ということになる。
「センセ、急ごう!」
「あぁ!」
まりんちゃんはきっと不安を感じているはずだ。大人びた印象の子とはいえ、まだ小学生なのだから。
順路通りに、通路を早歩きで進む。
この水族館は本当に広い。
「真ちゃん!!紗輝ちゃん!!」
もうすぐ出口というところに泣いているまりんちゃんがいた。
「迷子になっちゃったよー!」
わぁぁぁ、と彼女は泣き出す。
ひとりですごく不安だったと思う。
センセはまりんちゃんの頭を撫でた。
「よく出口で待っていられたな。
とってもいい判断だったと思うぞ」
「まりんね、迷子の子を見つけてお母さんを探したの、そしたらまりんも迷子になっちゃって」
そんなことが。
彼女はしゃくりあげながらこう続けた。
「お母さんが、真ちゃんは名探偵だから、困ったことがあっても大丈夫って言ってたから」
それはそのとおりだ。
こうして実際にまりんちゃんの居場所を特定しているのだから。
「よかった、まりんちゃんが見つかって」
センセはまたまりんちゃんの頭を撫でる。
「真ちゃん、紗輝ちゃん、心配かけてごめんなさいー!」
まりんちゃんはしばらく泣いていたけどだんだん落ち着いてきたようだ。
「まりんちゃん、水族館の中を見てみないか?
楽しそうだぞ」
「うん、見る」
良かった、まりんちゃんに元気が戻ってきたようだ。
順路を引き返して俺達は水族館を見学した。
ラッコの餌付けも無事見ることができた。
一番最後に来たのは当然、お土産のコーナーだ。
「紗輝くん、クッキーが美味しそうだな!」
もちろんなんでも買ってあげる所存です。
「まりんちゃんはなににする?」
俺が尋ねるとまりんちゃんはしばらく考えていた。
そして、イルカのキーホルダーを指差す。
「まりん、これがいいなー!」
イルカはガラスで出来ている。
キラキラしてきれいだ。
おんなのこってなんでこういうのが好きなんだろう?
センセはお菓子を何箱か俺の持っていたかごに入れた。
「紗輝くん、本当にお金はいいのか?」
真剣なセンセに笑ってしまう。
「センセ、俺も社会人だよ?そのくらい大丈夫だよ」
「そうだけど」
突然もじもじし始めるセンセ。
今日はなんか変だよなー。
会計を済ませて、俺たちは水族館をあとにした。
まりんちゃんを最寄り駅まで送る。
「紗輝ちゃん、真ちゃん!またね!」
今日はいろいろあったなぁ。
思い返せば長かったかも。
「紗輝くん」
突然センセに声を掛けられる。
どうしたんだろ?
センセは俺の腕をがっちり掴んで歩き出した。
しばらく行くと公園に着く。
「紗輝くん、今日は本当にありがとう」
ぺこり、とセンセに頭を下げられた。
そして、じっと見つめられる。
「紗輝くん、俺は君が好きだ。
君が俺を好きになってくれる前から君が好きだったんだと思う」
え、なにこれ、告白じゃん。
「センセ?」
俺が声をかけるとセンセは、ぎゅっと唇をかんだ。
「紗輝くんに好きだって言われたのにはっきりしてなくて本当にすまない。
俺は男だし、君が思っているよりちゃんとしてないから」
そこまで言われて俺は何かが切れた。
ぎゅ、とセンセを抱きしめる。
「俺はどんなセンセだって大好きだからね。
もっといろんなセンセが見たいよ」
「紗輝くん」
センセの顔が近くにあったから抱き寄せてキスした。
「っ、んぅ、ん」
苦しそうだけどやめるわけない。
「ぷあ」
涙目のセンセが可愛くて思わずにやけてしまう。
「センセ、俺と付き合って」
そっと、手を握って俺はひざまずいて甲にキスする。
センセは慌てていた。
「紗輝くん、俺、君を好きでいていいのか?」
「当たり前でしょ」
センセの顔が真っ赤になっていく。
夕日のせいだけではない。
「俺、紗輝くんの恋人になれるのかぁ」
ふにゃぁとセンセは笑った。
可愛いしかない、尊い。
「センセ、浮気しちゃだめだよ」
「むぅ、紗輝くんは俺を信用してくれないのかー」
軽口を言い合いながら院へ帰った。
「センセ、夕飯」
そこまで言いかけて気がつく。
センセ爆睡してる。
今日は疲れたよね。
そっと寝顔にキスして俺は台所で夕飯の仕度をはじめた。
完
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