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おまけ
千晶さんと遊園地
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春が過ぎ去り、いよいよ初夏になろうとしている。4月も下旬。もうすぐゴールデンウィークだ。大型連休の前は世の中が浮かれるような気がする。
当然、千晶も浮かれている一人だった。
(連休、真司さんとどこかに行きたい!
でもどこに?
水族館…はいつでも行けるし…どこか近場で沢山楽しいところ…)
昼休み、千晶はスマートフォンで簡単に作れる夕飯のレシピを探しながらそんなことを思っていた。
同じ職場で働く真司と付き合っていることは、会社の人間には伏せているので、二人はいつも別々に昼食を取っている。
実際、二人が付き合っていることはほとんど周りにはバレているのだが、千晶は全く気が付いていない。
(真司さんが楽しめる場所がいいよな。
いつも俺の都合ばかり押し付けている気がするし。あれ…真司さんって何が好きなんだ?)
千晶は固まった。血の気が引くような感覚がある。
(待てよ、俺って真司さんの好きなものも知らないのか?付き合ってもうすぐ三年目なのに?)
千晶はほとんどパニック状態に陥りながら個人的につけている日記帳を開いた。
真司の好きなものがそこに書かれているかもしれない。そう思ったのだ。
(だめだ…どうしよう)
三年前からざっと手繰ってみた千晶だったが、目ぼしいものは何も無かった。
スマートフォンの時計がもうすぐ休憩が終わることを告げて来る。
千晶は泣きそうになりながら歯を磨くために席を立った。いつもの習慣である。
「千晶、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
席に戻ると真司に声を掛けられた。
「真司さん、ごめんなさい」
「な、何を謝ってるんだ?
弁当美味かったぞ?」
「後で話します」
「おう」
真司が自分の席に戻る。こちらを気にしている様だが、千晶は気まずくて、彼の方を見られなかった。
そんなことをしているうちに、午後の就業時間が始まった。
千晶はなんとか頭を切り替えて仕事をした。だが、ふとした瞬間にモヤモヤに襲われる。
千晶はそれを頭を振ることで解消した。
(真司さんは優しいからいつも俺の話を聞いてくれる。でも俺は…)
【自分は今まで、真司に対して思いやりが足りていなかった。】
千晶の頭の中で、こんな言葉がぐるぐる回っていた。
ドスっと脇腹を死角からナイフか何かで深く抉られたようだった。
(真司さんに後でちゃんと謝らなくちゃ)
千晶はそう決めて、今日の最後の仕事に手を付けた。
これをある程度片付ければ明日から少し楽になるはずだ。
千晶は改めて深呼吸した。
ーーー
「千晶、悪い。待たせたな」
「お疲れ様です、真司さん」
二人はいつも会社を別々に出ている。
千晶がそうしたいと真司に頼んだのだ。
未だに同性愛に関しては偏見や好奇の目で見られることが多い。
千晶はそれが嫌だった。
そんな自分を赦せない自分も嫌だった。
「千晶?どうした?」
「真司さん、俺って駄目ですよね」
千晶の瞳から大粒の涙が溢れてくる。
真司がそんな千晶を優しく抱きしめてくれた。いつも彼はそうである。
自分をこうして支えてくれるのだ。
「千晶、何かあったのか?」
千晶は答えられずしばらく泣いていた。
当然、千晶も浮かれている一人だった。
(連休、真司さんとどこかに行きたい!
でもどこに?
水族館…はいつでも行けるし…どこか近場で沢山楽しいところ…)
昼休み、千晶はスマートフォンで簡単に作れる夕飯のレシピを探しながらそんなことを思っていた。
同じ職場で働く真司と付き合っていることは、会社の人間には伏せているので、二人はいつも別々に昼食を取っている。
実際、二人が付き合っていることはほとんど周りにはバレているのだが、千晶は全く気が付いていない。
(真司さんが楽しめる場所がいいよな。
いつも俺の都合ばかり押し付けている気がするし。あれ…真司さんって何が好きなんだ?)
千晶は固まった。血の気が引くような感覚がある。
(待てよ、俺って真司さんの好きなものも知らないのか?付き合ってもうすぐ三年目なのに?)
千晶はほとんどパニック状態に陥りながら個人的につけている日記帳を開いた。
真司の好きなものがそこに書かれているかもしれない。そう思ったのだ。
(だめだ…どうしよう)
三年前からざっと手繰ってみた千晶だったが、目ぼしいものは何も無かった。
スマートフォンの時計がもうすぐ休憩が終わることを告げて来る。
千晶は泣きそうになりながら歯を磨くために席を立った。いつもの習慣である。
「千晶、大丈夫か?顔色悪いぞ?」
席に戻ると真司に声を掛けられた。
「真司さん、ごめんなさい」
「な、何を謝ってるんだ?
弁当美味かったぞ?」
「後で話します」
「おう」
真司が自分の席に戻る。こちらを気にしている様だが、千晶は気まずくて、彼の方を見られなかった。
そんなことをしているうちに、午後の就業時間が始まった。
千晶はなんとか頭を切り替えて仕事をした。だが、ふとした瞬間にモヤモヤに襲われる。
千晶はそれを頭を振ることで解消した。
(真司さんは優しいからいつも俺の話を聞いてくれる。でも俺は…)
【自分は今まで、真司に対して思いやりが足りていなかった。】
千晶の頭の中で、こんな言葉がぐるぐる回っていた。
ドスっと脇腹を死角からナイフか何かで深く抉られたようだった。
(真司さんに後でちゃんと謝らなくちゃ)
千晶はそう決めて、今日の最後の仕事に手を付けた。
これをある程度片付ければ明日から少し楽になるはずだ。
千晶は改めて深呼吸した。
ーーー
「千晶、悪い。待たせたな」
「お疲れ様です、真司さん」
二人はいつも会社を別々に出ている。
千晶がそうしたいと真司に頼んだのだ。
未だに同性愛に関しては偏見や好奇の目で見られることが多い。
千晶はそれが嫌だった。
そんな自分を赦せない自分も嫌だった。
「千晶?どうした?」
「真司さん、俺って駄目ですよね」
千晶の瞳から大粒の涙が溢れてくる。
真司がそんな千晶を優しく抱きしめてくれた。いつも彼はそうである。
自分をこうして支えてくれるのだ。
「千晶、何かあったのか?」
千晶は答えられずしばらく泣いていた。
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