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送別会

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もう三月も終わる。そんなある日の夜、送別会は行われている。
異動するのは、田中を含め三名いる。
それぞれが一言挨拶をして会は盛り上がりのピークを迎えていた。

真司も異動する職員全員と、ちらほらと話をした。

「なぁ、山下」

田中がこそっと話し掛けてきたので、真司は首を傾げた。
田中の視線の先には、林田がいる。林田の周りには職員が集まり、その場はものすごく盛り上がっていた。

「林田さん、好きな人がいるんだって」

「え?」

そんな話、初めて聞いた。
田中がより声を潜める。

「その相手が課長らしいんだよ」

「えぇ、課長?」

真司は静かにワインを味わっている課長をそっと盗み見る。
課長には高校生くらいの一人娘がいたはずである。妻は若い頃、病気で亡くしたのだと誰かから聞かされたのを思い出していた。

「林田さん、課長に告白すりゃいいのにな」

田中はなんとももどかしそうだ。
今更、お前がそれを言うかと言いたくなったのをなんとか堪える真司である。

「まぁ本人達が決めることだから」

真司がそう濁すと、まぁなと返ってきた。

「そうそう、山下。俺の実家、農家だから今度米送るわ」

「いいのか?」

「美味いかどうかはともかくだけどな」

ふふん、と田中が笑う。

「そこー、二人で飲んでないで一緒に飲みましょうよー!課長もー!」

若い女性職員に言われたら断るわけにはいかない。二人はそれに従った。
課長も微笑んでグラスを持つ。

明日は土曜日だ。
少しくらいなら飲み過ぎても平気だろう。

(あれ?千晶はどこ行った?)

きょろきょろしていると、くい、と袖をひかれる。
千晶だった。

『千晶、大丈夫か?』

小声で尋ねると頷かれる。

『林田さんとお話してました』

こんな答えが返ってきて驚く。

『そうか』

詳しい話は後で聞こう、真司はそう決めた。千晶もそのつもりらしい。
ビールのグラスをぐいと傾けている。

(本当、美味そうに飲むよな)

思わず感心してしまった真司だった。

ーーー

「いやー、飲み過ぎたな」

「美味しかったですね」

二人は手を繋いで夜道を歩いていた。
街灯もない暗い道だ。
狭い道のせいか、車もあまり走らない。
時折するエンジン音を頼りに二人は歩いている。

「林田さんと何話したんだ?」

千晶は一瞬考えて、話し始めた。

「林田さんに、どうやってあのお店を知ったのか聞いたんです。
そしたら」

「そしたら?」

「俺が林田さんを嫌ってるのかと思っていたって言われちゃって」

へへ、と千晶は笑う。

「俺、前は皆に冷たかったですもんね」

「千晶にだって事情があったんだし、仕方ないよ」

「それで林田さんに、昼間にあの店に行くと美味しいスイーツが食べれますよって教えておきました。
それだけです」

「十分じゃないか!」

「そうですか?」

千晶が首を傾げている。

「林田さんもきっと嬉しかったと思うぞ」

「だといいんですが…」

千晶は確実に前進している。
真司はそれが嬉しかった。

「今度女性陣とケーキバイキングに行く約束もしていて。真司さんが一緒に来てくれたら嬉しいんですが…」

「あぁ、行く。
千晶はすごいな」

「全部、真司さんのお陰ですよ」

そんな千晶を真司は抱き締めていた。
小さい細い体で千晶はしがみついてくる。

(千晶が好きだ)

少し雪が降ってきている。
だがすぐに雨に変わるだろう。
このままでは風邪を引いてしまう。

「帰ろうか」

「はい」

二人は家路を急いだ。
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