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「ん…」
目を開けるとシャナの顔が間近にあった。
「とうさん?生きてる?全然起きないから驚いた」
俺は寝起きが特別悪い。スマートフォンのアラームを10個くらい掛けないとガチで起きれないのだ。モアグリアにいた時はルネが必ず起こしてくれていたからな。
「とうさんって眠り姫だったんだな。かあさんのキスで目を覚ましてたって本当だったんだ」
シャナが心底感心したように言うから俺は慌てた。
「眠り姫とかそんないいもんじゃないから!」
「じゃあなに?」
じゃあなに、ってなんだ。まあ考えてみるけど。
「三年寝太郎…とか?」
シャナが不満そうな顔をする。え、今の回答じゃ納得いかなかったのか?
「とうさん、父親にこんな言い方はどうかと思うけど、とうさんはやっぱり眠り姫だと思う。三年寝太郎は三年っていう期限があるからそもそも当てはまらないし」
論破されたような気がするな。
「もう眠り姫でもなんでもいいよ。とりあえず事件の現場に行こう。何か犯人の痕跡が残っているかもしれないし」
シャナがため息を吐く。
「鑑識が散々調べてるよ…俺は嵌められたんだ」
「シャナ、お前が戦う前から逃げるなんて、とびすけが心配するぞ」
俺の言葉にシャナは気が付いたような顔をした。
「とびすけにまた会いたい」
「そうだろ?大丈夫。俺も一緒に行くから」
「とうさんがこんなに頼りになるなんて知らなかった」
シャナが笑みを浮かべている。息子のためだ。出来る限りのことはやってあげたい。
「だいたい、なんでマヨイは刺されたんだ?」
俺はそこからもう知らないのだ。シャナが説明してくれる。どうやらマヨイは学校のマドンナ的存在だということだ。確かに美人だもんな。でもマヨイはシャナのそばを離れない。なびかないマヨイを不満に思った誰かが犯人なのではないかとシャナは言った。マヨイに刺さったナイフを抜いてしまったのは思わずだったという。まあ焦るし気持ちは分かるよな。シャナは頭を抱えている。
「マヨイを守れなかった。これじゃとびすけも」
「大丈夫だよ、シャナ。お前は勇者なんだから」
「とうさん、でも」
「シャナ、お前はどうしたい?」
俺はシャナの肩に手を置いた。
「お前は、このままでいいのか?」
「よくない。解決してとびすけの所に帰りたい」
そうだ。とびすけたちも心配している。俺たちは家を出た。朝とは言え静かだな。昨日から他の人を見かけない。ここは元々俺がいた世界じゃないのかもしれないな。俺たちは駅から電車に乗った。もちろん誰もいないのは変わりない。電車が動くのは不思議だ。
現場はこの付近にある高校らしい。その場所に近付くにつれて、シャナの顔色がだんだん悪くなってきている。事件が起きた場所に行くんだ、無理もない。
「シャナ、大丈夫か?」
「うん」
シャナが頷く。全然大丈夫じゃなさそうだな。
「ねえ、とうさん。俺たちはなんで生まれたんだ?勇者と魔王になるためにか?」
俺は首を横に振った。
「幸せになるために生まれたんだ。幸せの価値基準はそれぞれ違うけどな」
シャナが黙る。考えているようだな。
「とうさんは召喚されてどう思った?」
「そりゃびっくりしたさ。でも新しい人生だって切り替えたからな」
俺は正直、日本の生活に嫌気が差していたしな。でももちろん日本にだってちゃんと良さがある。
「とうさんはやっぱりすげえ」
シャナが笑う。この子の笑顔はかなりレアだからな。
俺たちは電車を降りて、高校に向かった。生徒らしき姿もない。やっぱりこの世界には俺たちしかいないようだ。
「昨日まであんなに騒がしかったのに」
シャナが辺りを見回しながら言う。俺はシャナに案内を頼んだ。
「ここだよ」
そこは二階の視聴覚室に向かう廊下だった。
「普段はほとんど誰も通らない場所なんだ」
「ふーん、ん?」
俺は廊下に即座に這いつくばった。なんか落ちてる。物陰にあったから鑑識が気付かなかったのか?
黒い毛?いや、茶色にも見えるな。
「とうさん?どうしたんだ?」
シャナが困惑している。俺は毛をシャナに見せた。
「なんだそれ?」
「犯人のかもしれない」
「え?!」
ブブ、とノイズが端末から鳴り出す。ルネからだ。
「鑑定するから画像頂戴」
「頼むよ、ルネ」
「かあさん?!まさかこの世界と繋がってるのか?」
「うん。だから大丈夫だ」
俺がそう言うと、シャナが頭を抱えている。
「結果が出たよ。鬼のものみたい」
「鬼?!人間じゃないのか?!っていうかこの世界は本当になんなんだ?」
シャナがいよいよ混乱し始めているな。俺はオーラを広げるように出した。これなら探査が可能だからな。
「ショーゴ、装備を。シャナもね」
「ありがとう」
不思議なことにいつの間にか装備を身に着けている俺たち。
この世界には異質に見える鎧と剣。でも相手が鬼なら油断は出来ないな。異世界でも鬼はかなりの実力を誇る。オーラに巨大な何かが引っかかった。その瞬間、地響きが起こり足元がグラグラと揺れる。
「シャナ、行くぞ!」
「分かった」
俺たちは校舎を出た。そこにいたのは天を突くような黒い鬼。咆哮をあげている。ビリビリと空気が震えた。
「魔王!!魔王めえええ!!」
黒い鬼が叫んでいる。もしかしてこいつ。シャナを見ると頷かれた。
目を開けるとシャナの顔が間近にあった。
「とうさん?生きてる?全然起きないから驚いた」
俺は寝起きが特別悪い。スマートフォンのアラームを10個くらい掛けないとガチで起きれないのだ。モアグリアにいた時はルネが必ず起こしてくれていたからな。
「とうさんって眠り姫だったんだな。かあさんのキスで目を覚ましてたって本当だったんだ」
シャナが心底感心したように言うから俺は慌てた。
「眠り姫とかそんないいもんじゃないから!」
「じゃあなに?」
じゃあなに、ってなんだ。まあ考えてみるけど。
「三年寝太郎…とか?」
シャナが不満そうな顔をする。え、今の回答じゃ納得いかなかったのか?
「とうさん、父親にこんな言い方はどうかと思うけど、とうさんはやっぱり眠り姫だと思う。三年寝太郎は三年っていう期限があるからそもそも当てはまらないし」
論破されたような気がするな。
「もう眠り姫でもなんでもいいよ。とりあえず事件の現場に行こう。何か犯人の痕跡が残っているかもしれないし」
シャナがため息を吐く。
「鑑識が散々調べてるよ…俺は嵌められたんだ」
「シャナ、お前が戦う前から逃げるなんて、とびすけが心配するぞ」
俺の言葉にシャナは気が付いたような顔をした。
「とびすけにまた会いたい」
「そうだろ?大丈夫。俺も一緒に行くから」
「とうさんがこんなに頼りになるなんて知らなかった」
シャナが笑みを浮かべている。息子のためだ。出来る限りのことはやってあげたい。
「だいたい、なんでマヨイは刺されたんだ?」
俺はそこからもう知らないのだ。シャナが説明してくれる。どうやらマヨイは学校のマドンナ的存在だということだ。確かに美人だもんな。でもマヨイはシャナのそばを離れない。なびかないマヨイを不満に思った誰かが犯人なのではないかとシャナは言った。マヨイに刺さったナイフを抜いてしまったのは思わずだったという。まあ焦るし気持ちは分かるよな。シャナは頭を抱えている。
「マヨイを守れなかった。これじゃとびすけも」
「大丈夫だよ、シャナ。お前は勇者なんだから」
「とうさん、でも」
「シャナ、お前はどうしたい?」
俺はシャナの肩に手を置いた。
「お前は、このままでいいのか?」
「よくない。解決してとびすけの所に帰りたい」
そうだ。とびすけたちも心配している。俺たちは家を出た。朝とは言え静かだな。昨日から他の人を見かけない。ここは元々俺がいた世界じゃないのかもしれないな。俺たちは駅から電車に乗った。もちろん誰もいないのは変わりない。電車が動くのは不思議だ。
現場はこの付近にある高校らしい。その場所に近付くにつれて、シャナの顔色がだんだん悪くなってきている。事件が起きた場所に行くんだ、無理もない。
「シャナ、大丈夫か?」
「うん」
シャナが頷く。全然大丈夫じゃなさそうだな。
「ねえ、とうさん。俺たちはなんで生まれたんだ?勇者と魔王になるためにか?」
俺は首を横に振った。
「幸せになるために生まれたんだ。幸せの価値基準はそれぞれ違うけどな」
シャナが黙る。考えているようだな。
「とうさんは召喚されてどう思った?」
「そりゃびっくりしたさ。でも新しい人生だって切り替えたからな」
俺は正直、日本の生活に嫌気が差していたしな。でももちろん日本にだってちゃんと良さがある。
「とうさんはやっぱりすげえ」
シャナが笑う。この子の笑顔はかなりレアだからな。
俺たちは電車を降りて、高校に向かった。生徒らしき姿もない。やっぱりこの世界には俺たちしかいないようだ。
「昨日まであんなに騒がしかったのに」
シャナが辺りを見回しながら言う。俺はシャナに案内を頼んだ。
「ここだよ」
そこは二階の視聴覚室に向かう廊下だった。
「普段はほとんど誰も通らない場所なんだ」
「ふーん、ん?」
俺は廊下に即座に這いつくばった。なんか落ちてる。物陰にあったから鑑識が気付かなかったのか?
黒い毛?いや、茶色にも見えるな。
「とうさん?どうしたんだ?」
シャナが困惑している。俺は毛をシャナに見せた。
「なんだそれ?」
「犯人のかもしれない」
「え?!」
ブブ、とノイズが端末から鳴り出す。ルネからだ。
「鑑定するから画像頂戴」
「頼むよ、ルネ」
「かあさん?!まさかこの世界と繋がってるのか?」
「うん。だから大丈夫だ」
俺がそう言うと、シャナが頭を抱えている。
「結果が出たよ。鬼のものみたい」
「鬼?!人間じゃないのか?!っていうかこの世界は本当になんなんだ?」
シャナがいよいよ混乱し始めているな。俺はオーラを広げるように出した。これなら探査が可能だからな。
「ショーゴ、装備を。シャナもね」
「ありがとう」
不思議なことにいつの間にか装備を身に着けている俺たち。
この世界には異質に見える鎧と剣。でも相手が鬼なら油断は出来ないな。異世界でも鬼はかなりの実力を誇る。オーラに巨大な何かが引っかかった。その瞬間、地響きが起こり足元がグラグラと揺れる。
「シャナ、行くぞ!」
「分かった」
俺たちは校舎を出た。そこにいたのは天を突くような黒い鬼。咆哮をあげている。ビリビリと空気が震えた。
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