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とびすけが作ったばかりのトラップボックスを数個手に持って東屋に戻ると、シャナが何かを懸命に作っていた。贅沢なことに、東屋には竈がある。そこでシャナが鉄を熱しカンカンと叩いているのだ。それは刀に見えた。父が持つ剣によく似た形状のそれに、とびすけは驚く。何故なら、「とうさんの真似はしたくない」とシャナはいつも言っているからである。なぜ真似をしたくないのかと尋ねると矜持がどうのと言っていた。シャナは物の作り方をエンオウから学んだ。とびすけにもエンオウは教えてくれた。二人の役に立つから必ず覚えておくようにと言われたのである。

「シャナお兄ちゃん、カッコいい剣だね!」

とびすけがそう褒めるとシャナが笑う。

「結局とうさんを超えるのは無理なのかもな」

シャナがポツリと溢した。

「そんなことないよ、だってシャナお兄ちゃんカッコいいし!」

「とうさんもカッコいい…違うか?」

「それ、比べることなのかな?」

とびすけの疑問にシャナはきょとん、として噴き出した。

「確かに比べようもないよな。俺ととうさんは違う人間だ」

「そうだよ。全然違うよ。シャナお兄ちゃんはシャナお兄ちゃんだよ」

「とびすけ、ありがとな」

ぎゅっと抱きしめられて、とびすけもシャナに抱き着いた。彼から火薬の匂いがする。おそらく自分もだ。
ふと遠くを見ると夕日が輝いていた。

「そろそろ夕飯だし帰るか。あとは明日早く起きてやっちまおう」

「うん!」

二人は仲良く屋敷に戻った。女の子たちはすでに風呂に入ったあとらしく、髪をルネシアに乾かしてもらっている最中だった。

「うっわ、二人共真っ黒。また火薬触ったの?」

ルネシアに言われて二人はやっと気が付いたのだった。先に風呂に入るように言われる。

「なんかやな予感がする」

シャナの呟き通りの人がいた。脱衣所にいたのは翔吾である。

「火薬にまた触ったのか」

当然咎められると二人は思ったがそれが的中して、シャナととびすけはげんなりした。

「僕たちはちゃんと正しい使い方をしています」

とびすけはしっかり言う。翔吾もそんなとびすけに驚いたのか一瞬動きが止まった。とびすけは手ではなく口を止めない。

「父さまが心配してくれて嬉しいけど、僕たちもこれから大人になるんだよ」

翔吾は完全に停止している。そして急にとびすけとシャナを抱き締めたのである。翔吾は叫んだ。

「まだお父さんでいさせてくれよ!二人が立派に成長してくれて嬉しいけど、まだ甘えていていいんだぞ!」

「そんなこと言われても…」

シャナもとびすけも困惑してしまった。翔吾が父であり、尊敬できる人であるのは二人共よく分かっている。

「父さま心配し過ぎだよ」

「そうだよ、とうさん。とうさんなら俺たちに何かあったらすぐ来てくれるだろうし」

二人に説得された翔吾は渋々だが引き下がった。二人はようやく落ち着いて湯船に浸かった。ぽつり、とシャナが溢す。

「風呂から出たら勉強しないとな」

「そうだね。シャナお兄ちゃんはモアグリアの王様になるんだし」

シャナ、マヨイ、チサトは国家公認で王族の扱いになっている。現在のモアグリアは騎士団長であるピンフィーネが実権を握っている。子どもたちはまだ年齢が幼いこともあり、時間は短いが、毎日みっちり勉強していた。ルーととびすけもせっかくだからと一緒に勉強をしている。文字の読み書きはもちろん、算数や科学などの基礎理論、はたまたは帝王学までと学ぶ内容は幅広い。

「とびすけは勉強どうだ?」

「うん、僕ばかだから母さまみたいな龍姫にはなれないんじゃないかなって不安になるよ」

「お前も比べるじゃないか」

シャナの指摘にとびすけはあっと口を抑えた。

「お前はお前。かあさんはかあさん…だろ?」

「そうだよね。僕たちおんなじことしてたんだ」

「なあ、とびすけ?」

なあに?と問い返そうとしたらシャナが頬にキスをしてきた。とびすけはびっくりするが、体は動かない。
嫌ではなかった。とびすけはシャナの手をそっとうえから握りながら笑った。

「大好きだよ、シャナお兄ちゃん」

「俺もだよ、トビア」

二人はお互いに恥ずかしくなって離れた。ルネシアと翔吾はよくハグをしたりキスをしたりしているが、あの境地にまではなかなか至れない。

「熱いから出るか」

慌てたように立ち上がったシャナに、とびすけもつられて立ち上がったのだった。
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