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警察署は城に隠れるように建っていた。

「おやおや、あなた方は!!」

中に入ると職員さんが身を乗り出してくる。なんだ?

「出生届け、出すってさ」

ルイさんの言葉に職員さんが嬉しそうに書類を準備してくれた。

「おめでとうございます!」

「ありがとうございます。えーと、どうやって書けばいいですか?」

ペンを借りて書き方を教わる。どうやらここは、役所も一緒になった施設らしかった。なんでこんなところに…と思っていたら、ここに連邦国家として、新しい国が出来るらしい。城を取り壊すのはそのためもあるようだ。俺は書類に子供たちの名前を書いた。ルネはとびすけを抱いてあやしている。

「可愛らしいお子さんですね!龍姫様に目元がそっくりだ!」

とびすけはルネと同じくせ毛のプラチナブロンド、ルーは、俺に似たのか黒髪だった。
二人共、ルネによく似て美人である。
将来が今から心配だ。俺は書類の最後にサインを入れた。

「ありがとうございます!これで手続き完了です!それでですね」

職員さんに奥に行くように促された。あの話か。

俺たちは部屋に入った。応接間のようになっている。

「さ、こちらへ!」

そこにいたのはこの間のおじさんだった。やっぱり1日警察署長になるという選択肢は残っていたらしい。
俺たちが近づくとおじさん、いや、署長さんに握手を求められた。

「よくぞ来ていただきました。今お茶をお持ちしますので」

署長さんはとびすけやルーを見つめて涙ぐんでいた。

「すみません、息子の生まれた頃を思い出しましてな」

「息子さんがいらっしゃるんですね」

「えぇ、今は何も言う事を聞きませんが」

親の心子知らずってやつだな。俺も父さんや母さんに、やたら反抗していた時期があったな。今ならなんであんなにって思うけど、それが反抗期なんだから仕方がない。

お茶とお菓子が出てきて、本題が始まった。

「えー、簡単に言いますと制服は出来ております」

この間採寸したもんな。

「お二人には制服を着て王城都市をパトロールしていただきたいのです。もちろん我々も付き添いますので、ご安心を」

万が一事件が起きた場合に備えてということらしい。

「報道陣の取材もありますから、そちらでインタビューを受けて終了という流れになります」

意外とがっつりだな。

「子どもたちを連れていても構わないですか?」

ルネが言う。誰かに預かってもらうのも申し訳ないしな。この数日間で、子供が24時間、ずっとそばにいる大変さを実感している。

「はい、構いません!龍姫様が安心できるようこちらも配慮いたしますので!」

「ありがとうございます」

こうして、俺たちは一日警察署長になることが決まった。一応試着ということで制服を着てみる。うん、なんかパリッとした気持ちになるな。
ルネがスラックスを履いているのは珍しいな。

「どう?ショーゴ!」

「うん、イケメンだね」

「イケメン!!」

ルネが照れたように笑う。可愛いな。

「とびすけ、ルー、見てー」

ルネがベビーカーの前でくるっと回る。二人共ぽかん、としているぞ。それもなんだかおかしいな。

「では、お二人共!よろしくお願い致します!」

帰り際、そう言われて手を握られた。なんか楽しみになってきたな。俺たちは飛空艇に乗って、龍の里へ帰ったのだった。

✢✢✢

「なに?警察署長だと?」

数日、龍の里で休んだあと、王城都市に俺たちは戻ってきている。簡易ギルドはますます赤ちゃんだらけになったなぁ。もうこうなると保育所だ。マヨイがとびすけとルーを不思議そうな顔で見つめている。可愛いな。

ピンフィーネさんはいつものように簡易ギルドで仕事をこなしていた。フィーナさんがお茶を淹れてくれて休憩することにしたようだ。

「むう、トビアにルシアナというのか。良い名ですね、龍姫様」

「ショーゴになにも相談せずに決めちゃったんだけどね」

ルネがすまなそうに言うから俺は首を横に振った。

「俺も良い名前だと思うよ」

「ありがと」

「龍姫様、まだ体も回復しきってないでしょうから、ゆっくりしてくださいね」

「うん、そうするよ。ありがとう、ピンフィーネ」

「さて、ショーゴ。その警察署長とやらが終わったらきっちり騎士の訓練に参加してもらうからな」

「心得ています」

数日後、俺たちは1日警察署長なるものを務めた。最中に、なにか事件や事故が起こらないかヒヤヒヤしたけれど、つつがなく終了した。あぁよかった。
子どもたちもあまり泣かずに空に向かって手を伸ばしては手を叩いて喜んでいた。可愛かったな。
俺たちはこれから、子どもたちが育つのを見守る。俺たちの新しいステージが幕を開けたんだ。
これからこの子たちがどんな道を歩むのかは俺には分からない。占いの出来るルネには分かるのかもしれないけど。この子たちに俺が出来ることはわずかだと思う。だからこそ、この子たちにはまっすぐ向き合おう。
ルネにそう話してみたら、「僕とも向き合ってよね」と拗ねたように言われてしまった。またデートに誘ってみようかな。今更なんだか照れくさいけどね。ルネが喜んでくれそうな場所を探してみようと俺は思ったのだった。
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