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「ハクはすごい子だな」

「でしょー」

 ここは飛空艇内にあるデッキだ。俺たちは王城都市にいるピンフィーネさんと端末で通話をしていた。マヨイが姿を消す魔法を習得したかと思ったら、移動魔法まで使えるようになったのだという。千年に一人いるかいないかの天才だと言われているそうだ。
 そんなマヨイが、いつの間にか厩舎にいるハクと遊んでいたとピンフィーネさんに言われて、俺たちはびっくりしてしまった。ハクもまた、よく心得たもので、マヨイが背中に乗ると体を軽く揺すってあやしてくれていたらしい。マヨイを探しに外に出ていたピンフィーネさんはたまたまその現場を目撃して、目を疑ったそうだ。
 まあ普通はそうなるよなぁ。

「あの子は本当に馬なのか?」

 俺たちは思わず黙ってしまった。ハクはあまりに馬離れしすぎているからな。ピンフィーネさんは俺たちの沈黙に、なんてことだと呻いた。普通はそうなる。

「とりあえずハクがいてくれるおかげでマヨイが厩舎より遠くへは行かない。すまないが、しばらくハクには私たちを手伝ってもらうぞ」

「分かりました。ハクに直接頼んでおくと確実だと思います」

「分かった、早速頼んでこよう。何?マヨイがいない?!」

 ガタと向こうで音がする。ピンフィーネさんが慌てて立ち上がった音らしい。

「ししし」

 あ、電話口で笑ってるの、多分マヨイだよな。どんどんずる賢くなってるな。

「マヨイちゃん、いい子にしてないと、アイスクリームもらえなくなっちゃうよ」

「や!アイシュ!!」

 ルネの言葉が効いたのかマヨイはすぐ発見されたらしい。やれやれ。油断も隙もない子だな。

「ハク、僕たちが心配ってなってそうなのが心配」

 ハクのお母さん属性は凄まじいからな。馬なのかっていう質問には流石に驚いたけど、その気持ちも分かる。

「大丈夫だよ。一応俺たち大人だし」

「そう?」

 なんで自信なさげなの?うちの姫様?

「大丈夫だよ。多分…」

 俺もだんだん自信がなくなってきたぞ。ハク、いつも心配かけて本当にごめん!今度、とびきり美味しい人参を差し入れよう。

 ✢✢✢

 その日の午後、俺たちは龍の里に辿り着いていた。すぐにダン先生のクリニックへ向かう。
 お腹の中を超音波で見る。それから触診をした。間もなく生まれると告げられる。ルネはずっとぎゅっと目を閉じていた。

「今日の夜にも来そうだ。二人程、屋敷へ産婆を連れて行く」

 ダン先生がはっきり告げた。いよいよ出産か。

「わぁあ…怖いよぉ!ショーゴー!」

「大丈夫。赤ちゃんを信じよう」

「僕のことも信じてよお」

 ちょっと笑ってしまった。

「信じてるよ、ルネ」

 ルネに抱き着かれたから抱き締め返す。クリニックに程近い屋敷に着くと、ルネのお母さん、そうエルダさんに出迎えられた。

「ルアナから聞いたわ。神殿巡りをやり遂げたって」

「そうだよ、僕たちちゃんとやったんだからね」

「ルネシア、赤ちゃんも頑張って産むのよ」

ルネが真顔になって頷いた。
そして、夕方。ルネに異変が起きた。

「っ…ふ…お腹いたい…」

まだダン先生たちが到着していないのに。エルダさんが慌ててクリニックに電話をかけている。

俺はおろおろすることしかできなかった。

「いだあああい!!」

とりあえずルネを仰向けにさせたほうがいいかもしれない。ルネを抱き上げて仰向けにする。

「ショーゴ、産まれるよ」

「うん、そうだね」

俺はルネの手を握り締めた。なんといっても二人産まなければならないのだから大変だ。

「来たぞ!ルネシア!!」

「お湯の用意は出来てます!」

俺が言うとダン先生が頷いた。そこからルネと赤ちゃんの戦いが始まった。
ルネが呻いたり、痛みで悲鳴を上げている。出産ってなんて大変なんだ。俺はルネの額の汗を拭ったり手を握っていた。

正直に言おう。怖くてそれしか出来なかったのだ。

「頭が出てきたぞ」

ダン先生のこの言葉は俺たちに希望をくれた。

「引きずり出す」

そんな力業で?驚いている間もなく、ダン先生は赤ちゃんを一人引きずり出していた。赤ん坊が泣き出す。

「ルネシア、可愛い女の子だ。あともう一人」

男の子がいるはずである。ルネは再びいきみ始めた。どうやら慣れてきたらしい。

「いいペースだ、安産だぞ」

ここまで約四時間ほど。本当に出産って大変だ。

「ん!!」

ルネがいきむと血液とともに赤ちゃんの頭が出てきた。先生はその子も引きずり出す。男の子だった。先程産まれた子より随分小さい。産婆さんたちが赤ちゃんたちの面倒を見てくれていた。

「ルネシア、赤ちゃんだ。抱いてやれ」

「僕たちの赤ちゃん」

ルネの瞳から涙が溢れていて、俺ももらい泣きしてしまった。当然、俺も抱っこさせてもらった。可愛いな。それから処置があるからと俺は外で待つことになった。その間に連絡出来る人には連絡した。

「ついに産まれたか!おめでとう、ショーゴ」

「ありがとうございます、団長」

皆が祝ってくれて嬉しかった。部屋に戻ると処置は終わっていた。ルネが赤ちゃんにミルクをあげている。

「ショーゴ、僕、君の赤ちゃん産んだよ」

「ありがとう、ルネ。お疲れ様」

二人で笑いあった。俺たちは、しばらく屋敷に滞在させてもらうことになった。体力を使い果たしたのだろう、ルネはすやすや眠っている。赤ちゃんには数時間おきにミルクをあげなきゃいけない。お母さんって本当に大変だ。俺に出来ることはなんでもしないとな。
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