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俺は慌てて飛び起きた。今、何時だ?随分寝てしまったと思っていたら、まだ昼間の3時半だ。良かった。これなら頼まれていた簡易ギルドの仕事に遅れなさそうだ。

「ショーゴ、おはよぉー」

ルネも今起きたばかりらしい。ふああと欠伸をしている。

「眠れた?」

「うん、もうぐっすり。コトリタクシーあってよかったぁ」

確かに。なかったらまた来た道を引き返さなければいけないわけで。多分そうしていたらまだ帰ってこられていない。そう思うと気が遠のくな。

「ルネが前に神殿巡りをした時はどうだったの?」

「うん、当時は誰でも転移できる魔法道具があったからね。帰りはそれを使ったよ。今は防犯上がどうとかで製造が禁止されているみたい」

なるほどなぁ。魔法道具にもそういう事情があるのか。ルネが言うには現在、移動魔法の習得には3カ月間の座学と実技訓練が必要らしい。厳しいな。しかもその訓練を行う際、警察のリストにデータが渡るようだ。悪いことが出来ないようにという配慮らしい。

「ほら、ショーゴ。早く簡易ギルド行くよ!」

「うん。行こう」

簡易ギルドに向かうとわいわいと賑やかだった。赤ちゃんたちが全員泣いている。フィーナさんとピンフィーネさんがミルクを与えたりおむつを確認したり、てんてこ舞いだ。

「フィーナ!ピンフィーネ!あとは僕たちに任せて!」

ルネが声を掛けると二人はようやく俺たちに気が付いたようだ。ホッとしたように笑った。子育てって本当に大変だよな。関わってみてよく分かる。俺もこうやって子供時代を過ごしたんだな。父さんや母さんは元気かな。

「フィーナ、よく休んでね」

「ありがとうございます。龍姫様、ショーゴ様も」

フィーナさんは簡易ギルドの二階で暮らしているらしい。色々荷物を持っていたからそこでなにかする気だな。

「ショーゴ、龍姫様、よく来てくれた。最近子供たちがますます元気でな」

シャナもマヨイもチサトもルネが現れた途端、気を引かれたのか泣き止んでいる。
きょとん、って感じだ。

「シャナくん、元気ですか?マヨイちゃんもいい子にしていたみたいだね。チサトちゃん、お腹空いたの?」

ルネは子育てに関して、驚異的な才能を発揮している。その場に座ると子供たちが群がってくるのだ。ルネはチサトを優しく抱き締めている。
まだぐずっているようだ。

「ショーゴ、ミルク!」

「はい!」

ルネに命じられて、俺は給湯室に向かった。ここには便利な魔法道具もあるし、ミルクならすぐ作れる。
ついでにお茶でも淹れよう。ピンフィーネさんも喉が渇いているかもしれないしな。俺は温度に気を付けながらミルクを作った。お茶は少し熱めに淹れる。ルネに哺乳瓶を渡すと、チサトはすぐに飲み始める。

「団長、お茶です」

育児モードから仕事モードに戻ったピンフィーネさんに俺はお茶を出した。

「ありがとう、ショーゴ。明後日の夕方、あの子らを祝う会を開こうと思っているのだ」

「いいですね!」

皆で誕生日会、みたいなもんだよな。ピンフィーネさんが何かを差し出してくる。なんだ?何かのメモ?

「明日、店で買い物を頼みたい。子供たちはブロリアとディアが引き受けてくれる」

「分かりました。ルネと行ってきます」

「あぁ、頼んだぞ」

買い物が明日でいいならプレゼントも一緒に買ってこよう。ルネがいい店を知っているみたいだしな。

「そうそう。ツネキ製薬だが、尻尾を出したぞ」

「え?関係ないって言ってたんじゃ?」

ピンフィーネさんがペンをくるん、と回した。

「まだ上は否定しているが時間の問題じゃないか」

「そうなんですね」

レジスタンスの人たちも、今は正規の代金で物々交換が出来ているようだ。良かったな。

「ショーゴ、手伝ってよ!君、お父さんでしょ!」

ルネが大変そうだ。俺は囲いをまたいだ。じ、と指を口に咥えたマヨイに見つめられる。

「マヨイちゃん、こんにちは」

声を掛けるとマヨイはさっとルネの後ろに隠れた。早いな。

「ショーゴは怖くないよ」

ルネがフォローしてくれたけど、ちょっとつらい。俺、なんかしちゃったのか?その場に座ってルネの様子を眺めていたら、シャナがやってきた。本当に大きくなったよな。俺を不思議そうに見つめているかと思ったらにこっと笑った。可愛い。絶対この子は将来、イケメンになる。親バカだけど、そう確信した。

シャナが俺の膝の上にちょこん、と座る。にしても、皆、お揃いのオーバーオール着てるの、可愛いな。どうやらフィーナさんの手作りらしい。すごいな。当たり前だけど簡易ギルドにも人が来てクエストの手続きをしていく。ルネに子守をほとんど任せきりにしてしまったな。夕飯はフィーナさんが作ってくれたチキンカツを食べた。豪快にざく切りにされた葉物野菜がシャキシャキ、カツはザクザクで美味しい。
子供たちもちゃんと食事を完食していた。チサトはともかく、シャナもマヨイも離乳食を始めているらしい。二人共、今の所目立った好き嫌いはないという。
アレルギーもないようだ。良かった。今日はこのまま子供たちと夜を過ごす。とにかくずっと夜泣きで大変だったらしい。一人泣くと他の眠っていたはずの子供たちも泣くのだ。地獄絵図が過ぎる。俺たちは二人で子供たちの寝かしつけをした。チサトがずっとぐずっている。ルネが歌い出した。言葉は分からなかったけど優しい旋律の歌だ。チサトがすやすやと眠り始める。

「良かった。そうだ、ショーゴ、お茶飲もうよ」

「うん、そうだね」

小声で話し合う。

「明日買い物を頼まれたからプレゼントもその時でいい?」

「うん、間に合って良かった」

「本当に」

ルネが子供を産んだらきっとこれ以上に大変なんだろう。でも多分、愛は消えないと思うんだ。
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