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「じょうあいの神殿」に到着したのは日がすっかり暮れた頃だった。空には大きな月が浮かんでいて、優しい光で照らしてくれている。気が付かなかったけど、ここまで随分山道を登ってきていたらしい。サワサワと涼しい風が吹いていた。

「着いたねー!」

ルネがハクの上で笑う。ここで神殿も七つ目か。残すは「かがやきの神殿」だけだ。
ルネはよいしょ、とハクから降りた。

「行こう!ショーゴ!」

「うん」

入口から見ると中は暗い。意を決して中に踏み込んだ。ルネがいない?

「ルネ?」

俺の前に人影が見えた。暗いけど分かる。ルネだ。ルネが振り返る。彼の表情はよく見えない。

「ショーゴ、僕、君のことなんか大嫌い」

「え?」

俺は頭を殴られたような気持ちになった。

「ルネ?嘘だよね?」

「嘘でそんなこと言うわけ無いでしょう?この際言っておくけど僕は皆とは違うから」

「そんな…」

俺は泣きそうだった。ルネがそんな事を言うなんて。こんなに悲しいことはない。皆とは違う?龍姫だからってことか?

「…ゴ、ショーゴ…!」

端末がブブとノイズを出す。なんだ?

「ショーゴ、それは僕じゃないよ!」

「え?」

でもルネは目の前で冷ややかに笑っている。俺はそこで思い出していた。マヤのオババ様が【気を引き締めて】と言っていたこと、ルネが【僕を信じて】と言っていたことを。
ルネは人を貶めたりすることは絶対に言わない子だ。つまり、こいつはルネじゃない。

「お前は誰だ!!」

「あーあー、バレちゃった。人間が姫様と繋がるなんてマジありえねえわ」

ルネだったその人が姿を変える。色黒で化粧が濃い。いわゆる正統派ギャルって感じか?

「レイナ、そんな風に言わないでよ」

気が付くと、隣にルネがいる。俺はルネを抱き締めていた。

「ショーゴ、大丈夫?」

暗いとか関係ない。ルネはすごく綺麗だ。なんで見間違えるんだ、俺は馬鹿か?ルネが俺の頭をよしよしと撫でてくれて、俺はいよいよ本当に泣いてしまった。

「ショーゴ、ごめんね。この神殿で起きることは言っちゃいけない決まりになってるの」

「ルネの…せいっ…じゃない」

ルネはしばらく俺を宥めてくれた。

「レイナ、「じょうあいの神殿」で信頼関係を試すのはもうやめようよ」

「姫様は人間の汚さを知らないから」

ルネが頷く。

「僕は確かに世間知らずだよ。でもショーゴに出会ってヒトがこんなに優しいものだって初めて知ったんだ」

「姫様…」

「お願い、レイナ。すぐじゃなくていいから考えてみて」

レイナさんは黙っていた。「じょうあいの神殿」はこれから変わるのかな?ルネは御神体の前にペンダントを翳した。ペンダントから光が溢れ出す。あとは「かがやきの神殿」だけか。

「レイナ、また来るね」

「姫様!アタシ…!」

ルネはレイナさんに近付いて、彼女の頭をぽんぽんした。

「レイナ、大丈夫だからね」

レイナさんはルネに頷いて姿を消した。神殿の入口までなんとか辿り着く。なんかドッと疲れたぞ。月明かりにホッとする。ルネが大きく息をついた。

「ショーゴ、疲れたねー」

「うん。もう眠りたいよ」

「コトリタクシー呼ぼうよ。もう王城に帰るだけなんだしさぁ」

「そうしようか」

俺は端末でコトリタクシーを呼んだ。20分程でここに来てくれるようだ。それまで座って休憩しておこう。
ルネと並んで座っていたら大きな羽音が聞こえた。コトリタクシーが来たんだ。俺は空を見上げた。ハクも近寄ってくる。

「よう、待たせたな」

「モアグリア王城の裏側にお願いします」

「任された!」

ゴンドラに乗り込むとふわりとコトリタクシーが浮かび上がる。今日は怖いと思う間もなく俺は座席でうつらうつらしていた。しばらくして、眩しいなと思って目を開けたら綺麗な朝焼けだった。宿舎に帰ったら熱い風呂に入って、もう一度眠ろう。そう決意した俺は隣のルネを見た。すうすう寝息を立てている。俺はルネの頭を撫でた。王城都市までまだかかる。もう一眠りするか。俺は目を閉じた。

「兄ちゃん、着いたぜ!」

「ふぁ」

声を掛けられて、俺は何が起きているか一瞬分からなかった。そうだ、神殿巡りから帰ってきたんだ。

「んー、着いたのー?」

ルネが目を擦っている。ずっと同じ姿勢だったから、体がカチコチになっているな。なんとか体を動かしてゴンドラを降りる。端末で賃金は支払った。闘技場での稼ぎのお陰で、しばらくお金の心配をする必要がないのはいいよな。普段からあまりお金は使わないけれど。ハクを厩舎に入れる。ハクも疲れてるって顔してるな。

「ハク、ゆっくり休むんだぞ」

「ブルル」

俺はハクを抱きしめた。ルネは立ったまま眠りそうだ。器用だな。

「ほら、姫様。おいで」

俺はルネの手を引いた。ルネがむにゃむにゃ言いながらついてくる。もうルネの体がふにゃふにゃしてて危ない。俺はルネを抱き上げた。まさにお姫様抱っこである。軽いなぁ、簡単に連れ去られそうで心配になる。宿舎に着くと皆が出迎えてくれて嬉しかった。

「龍姫様、具合でも悪いのか?」

ライクに心配そうに声を掛けられて、眠いだけだと答えた。神殿巡りは修行のために行うのでなかなか過酷なのだとライクに言われた。
神職に就く人皆が通る道らしい。それはすごいな。
俺たちはまた「はじまりの神殿」に行く必要があるらしい。「かがやきの神殿」としても機能しているらしいからな。

「ショーゴ、お前もよく休めよ。夕方から簡易ギルドの仕事をするようにって団長からお達しだ」

ピンフィーネさん、鬼だー!知ってたけどー!俺は慌てて自室のベッドにルネを寝かせて(もちろん下段だ)タオルを枕代わりにして床に寝そべった。床は固いけど疲れてる今なら関係ない。俺はあっという間に眠っていた。
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