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八つある神殿もいよいよ六つ目か。俺たちは長い階段を降りてきている。ぴちょん、ぴちょんと水滴が垂れる音があたりから響いてきた。なかなかどころか、結構怖いな。そこらのホラーハウスの比じゃないぞ。

「ショーゴ、なんか怖い」

「来たことのあるルネが怖いなら俺はもっと怖いよ?」

「そんなこと言ったってさー!怖いんだもん!」

ルネが腕にぎゅうっとしがみついてくる。本当に怖いみたいだな。仕方がない、俺はルネの旦那さんだ。ルネを守るのが仕事だ。怖いけど頑張ろう。

「じぃっ…」

「…っ??!」

急に現れた白髪の老婆に間近で顔を覗き込まれて、俺はあまりの恐怖に悲鳴を上げられなかった。腰が抜ける。すとん、と階段に座り込むと、ルネが明るい声を上げた。

「あ!マヤのオババ様だ!迎えに来てくれたのー?」

「ほっほっほ、龍姫様。久しぶりですじゃ」

ルネを睨むと、ルネが困ったように笑う。怖いって言ったのはルネじゃないか。話が違うぞ。

「えーと、こっちはショーゴで、僕の旦那様」

「どうも、翔吾です」

いや、切り替えないとな。ルネが目線で謝ってきた。可愛い、許す。

「おやおや、大分怖がらせてしまったみたいだねぇ。この神殿は階段が長くて暗いから皆怖がってね」

「そう!そうなんだよ!」

ルネがうんうん、と頷いている。どうやらお化けが怖かったのは俺だけ…なのか?なんか腑に落ちないけどそういうことにしておくか。マヤのオババ様を先頭に俺たちは再び階段を下り始めた。ヒトが増えて、お陰で随分気楽になった。

「姫様、お腹の御子は?」

「うん、時々動くよ。ただ同じ赤ちゃんなのに成長の差があるみたいで」

ルネが腕を組んで首を傾げる。マヤのオババ様が目を細めて笑った。

「姫様も大人になりましたね」

「そうだよ、僕もう大人なんだから!」

「姫様が生まれてきた時はあまりに小さくて、エルダ様が本当に心配されておられました。ルアナ様も毎日赤子の姫様と遊ぶとわがままを言ってもう大騒ぎ。エルダ様はルアナ様をなんとか嗜めておられて」

「母様とあの姉さんが?」

ルネが目を丸くしている。ルアナさんも普通の子供だった時があったんだな。今は冷静美女だけど。ルネのお母さん、エルダさんって言うのか。覚えておこう。

「ショーゴ様は異世界から?」

「あ、そうなんです。なんか一応、選ばれたらしいんですけど」

「ふぅむ」

オババ様が大きな目で俺をじいっと見つめてくる。それちょっと怖いかも。

「ショーゴ様からはとてつもないエネルギーを感じます」

「あ、オババ様には分かるんだ。一応、ショーゴは周りのためにリミット掛けてるんだけど」

「もちろん分かりますとも。並大抵の力ではありませんね。ですが、ショーゴ様なら使い方を誤ることはなさそうです」

いやいや、それ買いかぶりすぎだから。俺は慌てた。

「俺はそんないいもんじゃないんで」

「おやおや。龍姫様の目を疑うと?」

「あ…えーと…」

ルネが噴き出した。そして俺の腕に抱き着く。

「ショーゴ、優しいでしょ!」

「はい、それはもう。姫様お幸せになってくださいね」

階段を降りきると、広間に出た。いつもの御神体がある場所にようやく到達したな。ルネがペンダントを翳すと、また一つ光が消えた。あと二つ。
頑張ろう。

「姫様、ショーゴ様、すぐにお茶を淹れますよ。これから「じょうあいの神殿」にも行かれるのでしょう?」

「そうなの!お腹空いてたから嬉しいな!」

俺も喉がカラカラだった。お言葉に甘えて、居住スペースに上がらせてもらう。テーブルの周りが掘りごたつになっている。まるでお店みたいだ。マヤのオババ様は菓子鉢一杯のお菓子とお茶を出してくれた。

ルネはさっそく饅頭に手を伸ばしている。ルネは好きだよね、あんこの入ったお菓子。俺も饅頭を食べてみることにした。2つに割るとあんこがぎっしり詰まっている。これは嬉しいよなぁ。
ひとくち食べて味わう。美味い。お茶もアツアツだ。

「わあ美味しい!」

ルネが一口頬張って歓声を上げている。こういうところで食べるお菓子ってあまり食べすぎないほうがいいよな?俺が日本人だからそう思うのか?日本によくある、ご自由にどうぞ問題はまだ解決してないだろうな。

「ショーゴ、どうしたの?難しい顔して」

「や、なんでもない」

ルネは饅頭を食べてお茶を飲んだら満足したらしい。お腹をさすっている。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

俺たちは手を合わせた。

「姫様、「じょうあいの神殿」は気を引き締めて行ってくださいね」

ルネがオババ様の言葉にこくり、と頷く。なんだろう、気になるな。

「じゃあ、また遊びに来るからね!」

「はい。いつでもお待ちしています」

俺たちは「しっとの神殿」を後にした。

「マヤのオババ様は守護精霊なの?」

神殿から出てきたら色々疑問が湧いてきた。

「オババ様たちは超特別だからなぁ」

「へー。で「じょうあいの神殿」って?」

ルネが笑う。

「ショーゴは僕を信じてくれる?」

「もちろん」

「それなら大丈夫。僕もショーゴを信じているからね!」

ハクが歩み寄ってくる。どうやら走りたいみたいだな。

「ハク、走りたいの?」

「ブルル」

ルネはひょいっとハクの背中に乗る。妊娠してるのに身軽だな。

「ショーゴ、見てて」

なんだろう?と思って見ていたらルネがハクを走らせ始めた。そして急に速度を上げてハクが高く跳ぶ。それから一時停止。後退。これ、もしかして。

「お馬さんの大会があるんだよね?ハク、それに出てみたいんだって」

「え?ハクが?」

「うん」

ハクにも目的が出来たのは良かったけど、ルネは乗馬も出来るようになったんだなって改めて感心した。

✢✢✢

最近は、フィールドのあちこちに冒険者のための施設があるようだ。ここも復旧して、最近リニューアルオープンしたと、大々的にノボリに書かれていた。魔王城に乗り込んだ時はあまりにも何もなくて、体力的にもきつかったもんな。あまり魔王城には近付きたくないけどいつかは行かないと。

一度ここで休憩しようと俺たちはハクを繋いで中に入った。

そこはドーム状の建物で内部はレストランやちょっとしたものが買える売店なんかがある。昔のモアグリアがどれだけ力を持っていたかが良く分かるよな。というかこの世界、とにかくすごく広いのだ。まだまだ未開の地が多く残されている。

「ね、ショーゴ。僕あれ飲みたい」

ルネが指を差す方を見ると、果樹ジュースと書かれている。パイナップルみたいな果物から直接絞るらしい。へー、俺も飲んでみたいな。注文してから絞るらしく、ヒトが何人か待って厨房内を覗いている。ここにいるヒトたちは皆、冒険者みたいだな。冒険者という仕事は安定しないと聞くけれど、未開の地に行ってみたいという人は後を絶たないようだ。魔王もいないし安心して旅が出来ると銘打ってプロジェクトを立ち上げている会社もあるみたいだ。色々なビジネスがあるんだな。

俺はカウンターで果樹ジュースを2つ注文した。店員さんが大きな果物を簡単にナイフで切ってミキサーにかけている。うわ、甘い匂いがする。

「お待たせいたしました」

俺は果樹ジュースのコップをルネに渡した。一口飲むと酸味と甘味が両方来て美味い。ちょっと果肉が残っていてそれも美味い。

「ふああ甘い」

ルネが幸せそうにジュースを飲んでいる。これだけでも疲れが吹っ飛んだけどそのまま食事にすることにした。さて、何を食べようかな?ルネはブレずにカレーにすることにしたらしい。俺は焼きそばみたいな料理を頼んだ。なんだろう、このサービスエリア感。ワクワクするんだよな。旅行に来たわけじゃないんだけど。

料理が来て俺たちは食べ始めた。

「カレー美味い」

「俺のも美味いよ」

さて、「じょうあいの神殿」に向かうか。


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