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その日の午後、トーナメントもいよいよ四回戦。つまり決勝に当たるわけだ。ルネはホテルから様子を見ていると言ってくれた。今日はどんなヒトが相手なんだろう?これで勝ち上がれば、ダリアさんとついに戦える。出来るだけ早くペンダントを返してもらいたい。俺は体を軽く動かしていた。戦いにストレッチは欠かせない。怪我をしないためにも。怪我をするとルネが泣くからなぁ。気を付けなきゃ。いよいよ試合が始まる。俺は外に出た。今日は雷鳴が遠くで鳴っている。雲が厚くて薄暗い。雨は、ぽつりと顔に当たった。こりゃ降りそうだな。
「オホホ!ぽっと出の男の子がここまで勝ち上がってくるなんてすごいじゃない!」
相手は女性だった。金色の鎧に巨大な金色の竪琴を持っている。薄紫の長い髪の毛をゆるく縛っている。
綺麗なヒトだな。
「俺には目的があります」
彼女を真っ直ぐ見据えて言ったら、楽しそうに笑われた。
「いいわね、その目。嫌いじゃないわよ!でもねあたくしにだって目的はあるの。それを分からせてあげる!」
ポロロロンと彼女が竪琴を奏でると衝撃波が俺を襲ってきた。慌てて盾で防いだけれど、ノーダメージというわけにはいかない。やはり決勝、そう上手くはいかないか。
「なかなか素早いじゃない。でもあたくしには近付けないでしょう」
彼女が高らかに笑う。音攻撃、強いな。基本的に全体攻撃だし、隙も少ないからな。彼女が更に攻撃を仕掛けてくる。俺は避けるので精一杯だった。でも手が全然ないわけじゃない。というか、もうこれしかない。食らっている間にだんだん攻撃パターンが読めてきたしな。俺は弓を取り出して構えていた。
今までの戦いではなかなか使えなかったこの弓矢。ここで役に立ってもらおう。
「あら、そんな矢、弾き返してあげる」
俺は弦を引き絞った。その間にも当然攻撃が来る。多少は食らう。俺は攻撃に堪えながら矢を放った。キュウンと矢は鋭く飛ぶ。音攻撃を食らってもその勢いは衰えなかった。俺は更に矢を放つ。
「きゃああ!!」
彼女の腕に矢が刺さった。彼女は矢を自力で抜く。血がダラダラと流れている。
「よくも…よくもおおお」
髪を振り乱して彼女は竪琴を持ち上げた。竪琴が変形する。あれは笛か?彼女が笛を振りかぶってくる。すんでのところでそれを避ける。
あれに当たったら気を失ってしまいそうだ。俺は剣を構え直した。笛から音攻撃も繰り出してくるのか、厄介だな。でもさっきとは違って接近戦だ。まだ分はある。
俺は走った。影分身である。音攻撃で残像は消されるけど、まだ目眩ましになるからな。
「く、このガキィ!!」
先程の彼女と同一人物かって言うほど怒っている。ちょっと怖いけどここで怯むわけにはいかない。
「ショーゴ、笛の音がさっきと変わってる」
ふとルネの声が頭に響いてきた。それにピンとくる。なるほど…、笛の音は音色で能力の付加もできるのか。よく聞き分けないとな。
「ありがとう、ルネ」
俺は耳を澄ませた。この音色は衝撃波だ。跳んで避ける。次は攻撃力付加の音色。ということは。
「小僧!殺ってやる!!」
俺はドラゴナグルの剣で笛を受け止めた。キインという金属音。ぐぐ、とそのまま押し合いになる。女のヒトなのに凄まじい力だ。攻撃力付加がついているからだと思いたい。でも負けるわけにはいかないよな。
「ぐぐ…」
彼女が苦しそうだ。腕を怪我しているし、力をかなり込めているだろうからな。俺は彼女の笛に更に力を込めた。こうなったら壊してやろう、そう思ったのだ。ビキキと笛に亀裂が入った。
「く、あたくしの笛が…」
ついに彼女は負けを認めたのだった。
「勝者!ショーゴ・カノ!!チャンピオン、ダリアと戦う権利を得たぁ!!」
わぁぁと客席から歓声が響いている。
「ショーゴ!」
中に引っ込むと、ルネが走り寄ってきた。俺はルネを抱き締めた。
「すごいね!勝ったんだね!」
「ルネのおかげだよ」
「そんな…」
ルネが照れくさそうにはにかむ。ダリアさんとの戦いは明日だ。
「おい、小僧」
後ろから声を掛けられて俺は振り返った。ハチマキをしたいかにも職人って感じの人だ。近寄ってきて俺が背負っていたドラゴナグルの剣をがっしりと掴む。ひい。
「なんだ、この剣は。刃こぼれしてるじゃねえか」
そういえばろくに手入れもしてなかった。おじさんが盾を見て言う。
「こんなに凹んでやがる。ちょっと貸してみろ!」
えぇ、そんな急に?
「おじさん、誰なの?」
ルネはこういう時、すごく頼りになる。俺、情けないなぁ。
「装備屋だ。この感じはディアが作ったんだな?」
「ディアを知っているんですか?」
驚いて尋ねるとおじさんはにっかりと笑った。
「知ってるも何もあいつは俺の馬鹿弟子だ。あの馬鹿、まあまあな物作れるようになってるじゃねえか。俺はゴルブ。闘技場専属の職人よ」
とりあえずこっちにこいと俺たちはゴルブさんに引っ張られた。連れてこられたのはいかにも工房という場所である。他に数人の職人さんたちが作業をしている。
「おい!俺はこいつのをやらなきゃいけねえ。任せていいか!」
おう、と他の職人さんたちが一斉に返事をする。いいのかな?順番とかあるんじゃ。
「ショーゴといったな。お前、このままの装備で行ったらダリア嬢に血祭りにあげられるぞ」
わぁ、容易に想像できるー。背筋がゾッとした。
「ゴルブ、整備やってくれるのー?」
ルネが首を傾げるとゴルブさんはおうよ!と笑った。
「素材代も払ってもらえりゃもっと強化できるぜ」
ルネが札束入りの麻袋をカウンターにどしりと置く。ゴルブさんが固まったな。
「まだ足りない?」
ルネにはお金の価値について、もっと説明しなきゃ駄目だ。その後ちゃんとお金は支払った。今より強化したらどうなるんだろう、楽しみだな。
「オホホ!ぽっと出の男の子がここまで勝ち上がってくるなんてすごいじゃない!」
相手は女性だった。金色の鎧に巨大な金色の竪琴を持っている。薄紫の長い髪の毛をゆるく縛っている。
綺麗なヒトだな。
「俺には目的があります」
彼女を真っ直ぐ見据えて言ったら、楽しそうに笑われた。
「いいわね、その目。嫌いじゃないわよ!でもねあたくしにだって目的はあるの。それを分からせてあげる!」
ポロロロンと彼女が竪琴を奏でると衝撃波が俺を襲ってきた。慌てて盾で防いだけれど、ノーダメージというわけにはいかない。やはり決勝、そう上手くはいかないか。
「なかなか素早いじゃない。でもあたくしには近付けないでしょう」
彼女が高らかに笑う。音攻撃、強いな。基本的に全体攻撃だし、隙も少ないからな。彼女が更に攻撃を仕掛けてくる。俺は避けるので精一杯だった。でも手が全然ないわけじゃない。というか、もうこれしかない。食らっている間にだんだん攻撃パターンが読めてきたしな。俺は弓を取り出して構えていた。
今までの戦いではなかなか使えなかったこの弓矢。ここで役に立ってもらおう。
「あら、そんな矢、弾き返してあげる」
俺は弦を引き絞った。その間にも当然攻撃が来る。多少は食らう。俺は攻撃に堪えながら矢を放った。キュウンと矢は鋭く飛ぶ。音攻撃を食らってもその勢いは衰えなかった。俺は更に矢を放つ。
「きゃああ!!」
彼女の腕に矢が刺さった。彼女は矢を自力で抜く。血がダラダラと流れている。
「よくも…よくもおおお」
髪を振り乱して彼女は竪琴を持ち上げた。竪琴が変形する。あれは笛か?彼女が笛を振りかぶってくる。すんでのところでそれを避ける。
あれに当たったら気を失ってしまいそうだ。俺は剣を構え直した。笛から音攻撃も繰り出してくるのか、厄介だな。でもさっきとは違って接近戦だ。まだ分はある。
俺は走った。影分身である。音攻撃で残像は消されるけど、まだ目眩ましになるからな。
「く、このガキィ!!」
先程の彼女と同一人物かって言うほど怒っている。ちょっと怖いけどここで怯むわけにはいかない。
「ショーゴ、笛の音がさっきと変わってる」
ふとルネの声が頭に響いてきた。それにピンとくる。なるほど…、笛の音は音色で能力の付加もできるのか。よく聞き分けないとな。
「ありがとう、ルネ」
俺は耳を澄ませた。この音色は衝撃波だ。跳んで避ける。次は攻撃力付加の音色。ということは。
「小僧!殺ってやる!!」
俺はドラゴナグルの剣で笛を受け止めた。キインという金属音。ぐぐ、とそのまま押し合いになる。女のヒトなのに凄まじい力だ。攻撃力付加がついているからだと思いたい。でも負けるわけにはいかないよな。
「ぐぐ…」
彼女が苦しそうだ。腕を怪我しているし、力をかなり込めているだろうからな。俺は彼女の笛に更に力を込めた。こうなったら壊してやろう、そう思ったのだ。ビキキと笛に亀裂が入った。
「く、あたくしの笛が…」
ついに彼女は負けを認めたのだった。
「勝者!ショーゴ・カノ!!チャンピオン、ダリアと戦う権利を得たぁ!!」
わぁぁと客席から歓声が響いている。
「ショーゴ!」
中に引っ込むと、ルネが走り寄ってきた。俺はルネを抱き締めた。
「すごいね!勝ったんだね!」
「ルネのおかげだよ」
「そんな…」
ルネが照れくさそうにはにかむ。ダリアさんとの戦いは明日だ。
「おい、小僧」
後ろから声を掛けられて俺は振り返った。ハチマキをしたいかにも職人って感じの人だ。近寄ってきて俺が背負っていたドラゴナグルの剣をがっしりと掴む。ひい。
「なんだ、この剣は。刃こぼれしてるじゃねえか」
そういえばろくに手入れもしてなかった。おじさんが盾を見て言う。
「こんなに凹んでやがる。ちょっと貸してみろ!」
えぇ、そんな急に?
「おじさん、誰なの?」
ルネはこういう時、すごく頼りになる。俺、情けないなぁ。
「装備屋だ。この感じはディアが作ったんだな?」
「ディアを知っているんですか?」
驚いて尋ねるとおじさんはにっかりと笑った。
「知ってるも何もあいつは俺の馬鹿弟子だ。あの馬鹿、まあまあな物作れるようになってるじゃねえか。俺はゴルブ。闘技場専属の職人よ」
とりあえずこっちにこいと俺たちはゴルブさんに引っ張られた。連れてこられたのはいかにも工房という場所である。他に数人の職人さんたちが作業をしている。
「おい!俺はこいつのをやらなきゃいけねえ。任せていいか!」
おう、と他の職人さんたちが一斉に返事をする。いいのかな?順番とかあるんじゃ。
「ショーゴといったな。お前、このままの装備で行ったらダリア嬢に血祭りにあげられるぞ」
わぁ、容易に想像できるー。背筋がゾッとした。
「ゴルブ、整備やってくれるのー?」
ルネが首を傾げるとゴルブさんはおうよ!と笑った。
「素材代も払ってもらえりゃもっと強化できるぜ」
ルネが札束入りの麻袋をカウンターにどしりと置く。ゴルブさんが固まったな。
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