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闘技場の真ん中まで出ると、太陽の光が眩しい。うぅ、照り返しで暑い。歓声は更に熱い。相手は大柄のロン毛男だった。俺を見て楽しげに笑う。

「よぉ、おちびさん。この俺に勝とうなんざ闘技場舐めてねえか?」

「…」

俺は答えなかった。相手がつまらなそうに舌打ちする。ヒュ、という空気を切り裂く音。相手の右拳が俺に向かってくる。俺はそれを盾で防いだ。重い。でも大丈夫、受け止められた。盾はしっかり俺を守ってくれている。ディアにはよくお礼を言っておかなければ。

「んだよ、まあまあなおもちゃにはなりそうだな」

おっと、まだまだ相手は本気を出していなかったか。俺は改めて剣を構えた。俺だってやられっぱなしってわけにはいかないよな。剣で切りかかると相手の腕で軽々と受け止められている。両腕から肘にかけてナイフが皮膚から突き出ている?俺は驚いて後ろに跳んだ。

「おや、おちびさんはこうゆうのも初めてか。
ここではそういうのばっかりなんだ…ぜ!!」

ぐるっと相手が蹴りをかましてくる。靴の踵から仕込みナイフ。その分リーチが長くなる。なんとか避ける。一瞬しか見えなかったけどナイフに何か塗ってあった。

「多分、毒」

ルネが俺に囁いてくる。見えてるのさすがだな。にしても毒はずるくないか?いや、ここはルールとかないみたいだもんな。俺と相手はしばらく切り合った。響き渡る金属音、そして歓声。

「お前、名前は?」

相手の攻撃を捌きながら会話してくる辺り、強い人なのは間違いない。俺も負けていられない。

「翔吾だ」

「俺はカヅキ。おいショーゴ、お前、面白すぎるぜ」

俺は跳んだ、太陽を背にする形だ。カヅキは笑っていた。腕のナイフで俺を簡単に受け止める。くそ、攻撃が相手に入らない。俺はじわじわカヅキに押されてきている。
でも負けるわけにはいかない。

「うおおおおお!!」

気合いを込めて俺はカヅキにぶつかった。ガキインという鋭い金属音。

「おいおい、本気かよ」

カヅキが困ったように笑う。カヅキの腕から伸びたナイフが両方とも折れた。よし、攻めるなら今だ。

「ショーゴ!!気を付けて!」

ルネの声に俺はハッとなって後ろに退いた。カヅキが蹴りを繰り出してきたのだ。靴のつま先からもナイフが出ている。ナイフ仕込み過ぎだろう。

「いい勘してるな、お前」

どうやらカヅキは蹴りのみで戦うつもりらしい。
というかこの人は。

「うん、僕もそうだと思う」

ルネが俺の意見に賛成してくれた。カヅキは元々、足技の方が得意なのだ。だけどそれを今まで隠してきた。恐ろしい話だな。

「ショーゴ、俺の本気ぶつけてやるよ」

「く…」

カヅキが足技を連続で出してくる。俺はそれを防ぐだけでやっとだった。でもだんだん動きが分かってきたぞ。合間に俺も反撃する。毒を食らうのはごめんだからな。なるべく慎重に。

「へえ、俺についてこれるのか」

「負けない!」

ガガガとカヅキの蹴りを盾でいなしながら反撃する。

「ショーゴ!押してるよ!」

「いっけえええ!!」

俺は剣でカヅキの胸から腹にかけて切りかかった。傷は浅い。でもこれならすぐには動けないはずだ。

「ぐ…」

カヅキが倒れている。勝負がついたようだな。
担架を持ったヒトたちがカヅキを連れて行く。

「勝者!ショーゴ・カノ!!」

わああと歓声が響き渡る。俺は中に引っ込んだ。あぁ、疲れた。

「ショーゴ!!」

ルネがすぐさま控室に入ってくる。俺はルネを抱きしめた。無意識に体が震えていた。

「ショーゴ、大丈夫?」

「ヒトを傷付けちまった」

まだ切った時の感触がはっきり残っている。ルネが俺の両手を握って自分の胸に当てる。トクントクン、と脈が伝わってきた。

「ショーゴ、相手もショーゴを殺すつもりで戦ってたんだよ。それがここのルールだから」

確かにその通りだ。俺はルネをきつく抱きしめた。首筋にキスを落とすと、ルネは震えた。
一日一試合というのもここのルールらしい。
俺たちは闘技場に直接繋がっているホテルに泊まることになっていた。ルネがすでにチェックインしてくれていたらしい。とりあえず何か飲みたい。エレベーターに乗って部屋に入ると、大きな麻袋が四つ、どんと置いてあった。何だ?

「あ、ショーゴにそれあげる」

ルネが朗らかに言う。中身を見ると札束だった。どの麻袋にも札束がぎしっと詰まっている。

「何だ?これ…!!銀行強盗?」

「ショーゴに賭けたらそうなった」

「はぁぁぁ??!」

俺はとんだ万馬券だったらしい。サンチャンは勝てたのかな。俺に賭けると言っていたけど。

「ねー、ショーゴ。ラウンジ行こ。ジュース飲みたいな」

どうやらこのホテル、かなりいい所らしい。とりあえず装備を全て外して、3階にあるラウンジに向かった。
床はずっと絨毯でフカフカしている。

「今日のショーゴ、めちゃくちゃ動けてたよね」

「バタバタしてただけだよ」

ルネがくすり、と笑う。

「カッコよかったよ!」

俺は顔が熱くなった。頼むからそうやって童貞を煽らないでいただきたい。ラウンジには色々な飲み物があった。夕飯もここで食べられるらしい。とにかく知ってる料理で、と思ったらステーキがあった。

「ステーキ、僕も食べる!」

分厚い柔らかな肉だった。美味い。

✢✢✢

寝る支度を済ませた俺は現状をエンオウさんに端末でメッセージを送っていた。ふとルネを見ると真っ赤な顔をしている。

「ルネ!」

ルネを抱き寄せるとしがみついてきた。誘われるがままキスをする。

「ん…ショーゴ…ちゅー気持ちいい」

「俺だって気持ちいいよ」

ルネをベッドに寝かせて、隣から抱き寄せる。

「ん…ふう…ふう…」

ルネのこれは本当の発情期が来るまで続くわけで。でも、一度抱いたら少しは楽になるのかな?

「ルネ、する?」

「やだ。ショーゴとする初めては取っておくんだもん」

「ルネは今までそういう経験が?」

ルネが更に顔を赤くする。

「ないよ!失礼だな!」

「大変申し訳ありませんでした」

ルネが笑い出す。

「もー、ショーゴってば」

「ルネ、今日もありがとうな」

ルネのくるんとした綺麗な髪の毛を撫でたらルネは笑った。本当に発情したらルネはどうなってしまうのだろう。不安だけど、俺に出来ることは全部しよう。
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