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次の日、カイエンさんのお家で朝食をご馳走になった。カイエンさんの奥さんは料理上手な上、美人さんだった。昨日の夕食もそうだったけど、出てくるもの全てが美味しかったなぁ。久しぶりに屋敷を出てイシマチに来てみたら明らかに前とは違う景色が広がっている。そもそも、王城からここに来るのに大きな馬車で来たし、闘技場に行くまでもこれまた大型のバスが走っているようだ。ということはそこまでの道が舗装されているということになるよな?発展早すぎるだろう。どうなってんの?モアグリア。

「すごいね、ショーゴ!」

「すごすぎるよ。とりあえずバス停に行かなくちゃ」

イシマチ付近には巨大なバスターミナルが出来ていた。いちいち発展が早い。闘技場へ行くには8番乗り場だ。随分ヒトがいるな。人気な娯楽らしいし、みんな遊びに行くんだろう。

「お、兄ちゃん、いい装備やなぁ!参加者か?」

関西弁?のお兄さんに声を掛けられた。

「誰?」

ルネが首を傾げて俺を見つめてくる。

「おや、龍姫はんやないですか。ワイ、サンチャン言いますねん。そっちのお兄ちゃんが闘技場の試合に出るのかな思いましてん」

「出るよ」

ルネがにこやかに笑いながら即答している。ルネ!周りを煽らないで!!早速周りの人たちが俺を見てヒソヒソ言ってる。やだ、人間不信になりそう。

「そうでっか!ならお兄ちゃんに賭けます!絶対に勝ってな!」

サンチャン…さん?はその後も闘技場の賭けで絶対に勝てるコツ(そんなのあるわけない)をルネに1から伝授していた。俺たちは二人用の座席に座った。サンチャンは一番前の一人用の座席に座っている。ルネが小声で話しかけてくる。

「カイエンの娘さん強いみたい」

ルネはサンチャンからそれとなく情報を聞き出してくれていたらしい。彼女の名前はダリアと言った。棍棒の使い手だそうだ。もうそれだけでも十分怖いのに、ペンダントを取り返さなきゃいけないとか、本気かよって思うよね。
でもルネは俺を信じてくれている。彼を裏切るわけにはいかない。

「ショーゴ、不安って顔してる」

「うん、不安」

ルネがにっこり笑った。ちゅ、と頬にキスされる。

「お守り!」

「…ありがとう」

なんだか勇気が湧いてきた気がする。ペンダントをなんとか取り返して、龍の加護をこの世界に復活させるんだ。闘技場までの道程はあっという間だった。バスから降りると割れんばかりの歓声と拍手が聞こえる。こんなにヒトがいたのかって思ったほどだ。そう思うと、コロニーは凄まじい規模の大きさだったんだろうな。闘技場に入ると、試合に参加するための受付と、賭札を買うカウンターが5列ほどあった。そこでは賭けで勝った分のお金も受け取れるらしい。

「ショーゴ、僕もお金欲しいな。少しでいいから」

ルネにこんなことを言われるとは思わなかった。
確かにこの賑わいを見たら闘技場で遊んでみたくなる気持ちも分からなくはない。俺はルネにお金が入っている巾着袋を渡した。それには、この間もらった戦いの報奨金が丸々入っている。この世界は大体が電子マネーでまかり通っているから、端末のほうがメインの財布になっている。

「落とさないように首にかけておきなよ?」

「わ、気を付ける!試合見てるからね!」

ルネが早速オッズを眺めている。たまにはこうして遊ばなくちゃな。俺は試合参加の受付に向かった。どうやら午後の試合からの参加になるらしい。俺自身にもファイトマネーが入るのだそうだ。なるほどなぁ。とりあえず控室にいろ、と言われて俺は一人、部屋にいた。弁当は好きなものを好きなだけ食べていいと言われたから一つ取る。ルネも何か食べていればいいけれど。

「ねぇショーゴ、聞こえてる?」

急に端末からルネの声が聞こえてきて驚いた。この歓声だというのに、ルネの声はかなりはっきり聞こえてくる。

「聞こえてるけど、どうやったの?」

「姉さんに出来るなら僕にだって出来るんだからね!」

なるほど…例の波導ってやつか。

「とりあえず今、僕は後列の前から三番目の席から試合を見てるんだけど、肉体改造は当たり前みたい」

は?肉体改造?それっていわゆるドーピングってやつか?俺の疑問にルネが苦笑する。

「そんな生易しいものじゃないよ。力を上げるために血液を飲むレベル」

なに?闘技場って悪魔でも召喚すんの?まあそんな俺も召喚されたんだけどさ。

「ちょっと面白かった」

ふふ、とルネ。

「冗談が言えるなら大丈夫そうだね。何か食べてる?」

俺は控室にあった焼き肉弁当なるものを食べていることを伝えた。

「僕もポテトフライとソーセージ食べてる。あ、ダリアだ」

どうやら新しい試合が始まったみたいだ。ふむふむと、ルネが一人頷いている。

「あのね、ショーゴ。ダリアとはいきなりは戦えないよ。ダリアはこの闘技場で一番強いみたいだから」

なんてこった。どうやらダリアさんと戦うために俺はトーナメント形式で試合に勝ち進まないといけないらしい。そのトーナメントは毎日行われている。ダリアさんと勝負するために絶対に負けるわけにはいかない。ルネが呟く。

「勝負がついたよ」

まだ試合が始まって五分も経っていないじゃないか。ダリアさんは相当強いらしい。それからしばらくして、俺は呼ばれた。午後の部、一番最初の試合だ。俺に出来るのは愚直にぶつかっていくことくらいだ。入口に向かうと戦場が広がっている。周りには観覧席。すごい歓声だ。

「ショーゴ、頑張ってね!」

ルネの声に俺は頷いた。
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