上 下
16 / 68

16

しおりを挟む
次の日、俺たちは再び旅支度を整えてフィールドに出ている。ハクの上でルネは遠くをじっと見ていた。望遠鏡要らずなのはすごいな。

「ルネ、見える?」

「うん、バッチリ見える。村は三つあるよ」

そんなにか。まあ村同士で争いがないなら何よりだ。俺は言った。

「一番近い所から回ろう」

「それならここから西の村が近いよ」

俺は地図を頼りにハクの手綱を引いた。この辺りには変わらず豊かな自然が広がっている。俺が一番最初のクエストで来たのもここだ。特産キノコを始め、あらゆる素材が採れる。小型モンスター、巨大モンスターの出現頻度もだんだん減ってきているようだ。魔王という存在がなんだったのか、未だに分からないでいる。魔王だったマヨイ自体は普通の赤ちゃんのはずだしな。
二時間ほど歩くと、ようやく村が見えてきた。
小さい村だ。村の周りは柵で囲ってある。入口には武装したゴブリンが二人立っていた。俺は彼らに近付いた。

「ショーゴ殿!!みんな!ショーゴ殿だぞ!」

「お久しぶりです」

ワッと村の中からゴブリンたちが集まってくる。
村長さんも杖を突きながらやって来た。

「元気そうで何よりですじゃ」

「皆さんもお元気そうで。これ、ピンフィーネ団長から先の戦いの褒賞を渡すようにって」

村長さんに金貨の入った袋を渡すと、驚かれた。

「ご丁寧にありがとうございます」

「村長、これでみんなの薬が買えますね!」

「あぁ。よかったのう。この村はとにかく貧しくて薬もろくに買えず」

なるほど。俺はあちこちを見て回った。飲み水は川の水、トイレはくみ取り式のようだ。
畑で作っているのは芋らしい。ふむふむ。時々行商の人が物を売りに来るそうだ。大体物々交換で取引を行っているようである。

「薬とかは何と換えてるんですか?」

「これですじゃ」

村長さんが差し出したのは砂金だった。はい?砂金?ルネに見せるとそうだ、と頷いている。小指大くらいあるぞ。

「えーと、このサイズだとどのくらいの薬の量と?」

「まあ一人分で3日ほどですかな」

俺は言葉を失っていた。これはれっきとしたぼったくりだ。砂金の価値を村長さんたちが知らないのは無理ないな。俺は村の皆に砂金の価値を伝えた。皆、ぽかんとしている。

「ワシらは騙されてましたか…」

村長さん、落ち込んでるな。にしてもあまりに酷くないか?

「行商の人はどこから来るんですか?」

一応尋ねてみたけど分からないと返ってきた。
とりあえずピンフィーネさんに報告しよう。

「ふむ…私もその行商の者については調べてみよう。残りの村の視察も頼んだぞ」

「はい!」

ゴブリンの村でお茶をご馳走になった。泊まっていって欲しいと皆から言われたけれど、会議を長引かせるわけにはいかないという理由で辞退した。本当は遊びたかったけどね。

俺たちはゴブリンの村を後にして、東の方に向かった。なんか大きな建造物が見えるぞ。もう日が暮れかけている。急ごう。


「ショーゴ殿!」

どうやらここは大鬼の村だったらしい。全てが大きいな。彼らは甚平のようなものを着ているからますます鬼らしさを感じる。

「よく来て頂きました!」

青鬼に付いていくと子鬼たちに取り囲まれる。

「ショーゴお兄ちゃん!遊んで!」

「こらこら、ショーゴ殿は忙しいんですよ」

引っ張りだこってこうゆうことを言うのか?人生でこんな経験は滅多に出来ないぞ。

「龍姫様!お願い!ショーゴお兄ちゃんに遊んでもらえるように頼んでよ!」

ルネも困ったという顔をしているな。俺は子鬼たちに向かって屈んだ。

「ここでやることが済んだら今日はこの村にいるから、ちゃんとご両親に許可を取ってからおいで」

ぱああと子鬼たちが顔を輝かせる。皆、後でね!と走っていった。子供はみんな可愛いなぁ。ゴブリンの子供たちともまた遊ぼう。
さて、仕事をしなきゃな。俺は鬼の村の設備やらなんやらを確認した。この村には井戸がある。ゴブリンの村にもせめて井戸は欲しいよな。聞いたら、ここにも行商の人は来るらしい。どうやって取引しているのか聞いたら、やっぱり物々交換だった。

「何と交換されてるんですか?」

一応尋ねてみる。

「我々の獲ったモンスターや猪なんかの肉です。大体キロ単位で。頂くものは子供たちが多いものですから主に医薬品です」

「なるほど…」

また薬関係か。どれくらいの医薬品を貰えるのかと聞いたら、とても一回じゃ足りないくらいだと言う。これはなんか怪しいな。ゴブリンの村から近いし、同じ人である可能性が高い。俺は青鬼に事情を話した。

「え…ぼったくり?ゴブリンさんたちの村でも?」

青鬼がワナワナし始める。

「許せん…」

ズズと自分の影から槍を取り出したのでさすがに俺は慌てた。

「ま!待ってください!!まだ確認している最中で、もう一つ村がありますよね?」

青鬼がハッとする。

「取り乱しました。申し訳ない。はい、獣人さんの村がありますよ。なんでも、揃ってコロニーから帰ってきたようです」

なるほど。俺は青鬼に礼を言って宿屋に向かった。ハクを宿屋の裏にある厩舎に繋ぐ。ルネは大きな欠伸をしていた。疲れたもんな。飯を食べて寛いでいると、子供たちがやって来た。

「お兄ちゃん!ぼったくりってなあに?」

えー!もうその話題が広まってるの?俺が口をパクパクさせてるとルネがふふん、と笑って言った。

「ぼったくりってね、ケチンボがするんだよ」

「わー!!やだねー!」

「ケチな男の人と結婚しちゃ駄目よってお母さんに言われたよ」

子供たちがわいわい言っている。ルネをちらっと見ると、可愛らしくウインクされた。子供たちに絵本を読み聞かせたりしているうちに、親御さんたちがお迎えに来た。俺の膝の上で寝ちゃってる子もいたしな。

「すみません、ショーゴ殿。子供たちが無理を言って」

「いえ、そんな」

その日はよく眠れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

弱気な魔導師は裏切られどん底に落とされる

春だわ
BL
裏切られた主人公は自分の居場所を求めていろんなところを旅する 初投稿です(汗)

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子としょうがないやつだなと見守る師匠

万年青二三歳
BL
どうやったら恋が終わるのかわからない。 「自分で決めるんだよ。こればっかりは正解がない。魔術と一緒かもな」 泣きべそをかく僕に、事も無げに師匠はそういうが、ちっとも参考にならない。 もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだけど? 耳が出たら破門だというのに、魔術師にとって大切な髪を切ったらしい弟子の不器用さに呆れる。 首が傾ぐほど強く手櫛を入れれば、痛いと涙目になって睨みつけた。 俺相手にはこんなに強気になれるくせに。 俺のことなどどうでも良いからだろうよ。 魔術師の弟子と師匠。近すぎてお互いの存在が当たり前になった二人が特別な気持ちを伝えるまでの物語。 表紙はpome bro. sukii@kmt_srさんに描いていただきました! 弟子が乳幼児期の「師匠の育児奮闘記」を不定期で更新しますので、引き続き二人をお楽しみになりたい方はどうぞ。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...