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「へー、服お揃いなんだ。可愛いじゃん!」

王城のそばにある簡易ギルドに入ると、こんな声が聞こえてきた。この声は。

「ディア?」

ディアが俺を見るなりさっと顔を青くする。俺はディアに駆け寄った。ピンフィーネさんが叱ってくれたらしいけど、直接一言謝ってほしかった。

「ショーゴ…」

ディアが後ずさる。す、と静かにやって来たのはフィーナさんだった。

「ディア様」

フィーナさんが彼に向かって頷く。ディアは改めて俺を見つめた。

「…ショーゴ、本当にごめん。俺の腕じゃ大して強い装備作れなくて。あの時は特に切羽詰まっててさ」

俺はちょっとホッとしていた。ディアがちゃんと謝ってくれたからだ。

「もういいんだ。俺、知ってるよ」

「え?」

ディアがきょとん、とする。俺は自分の装備を示した。

「この装備、もしかしたらディアが作ったのかなって」

本当になんとなくだけど、俺はそう思っていた。

「な、なんで…?」

「なんとなくだよ?」

俺は笑った。やっぱりこの装備を作ったのはディアだったらしい。

「な、なんか、ショーゴ前と変わったよね?まああの時はこの世界に召喚されたばっかりだったし無理ないか」

ディアが困ったように笑う。そして真剣な表情で俺を見つめてきた。

「新しい装備を俺に作らせて欲しい。今のショーゴに相応しい装備を」

じわっと嬉しい気持ちが溢れる。

「いいの?」

「お代も要らないよ。弱い装備の時、一括で払ってもらったから」

一番最初に行ったクエストを思い出す。あれは怖かったよなぁ。でも、そこでルネに出会ったんだ。

「じゃあお願いします。楽しみにしてる」

ディアに右手を差し出すと、ぎゅっと握られた。どんな装備が出来るのかな、楽しみだな。
ルネはフィーナさんの所にいた。赤ちゃんたちをあやしている。二人共、元気そうで何よりだ。

「ショーゴ様」

俺が近付くと、フィーナさんが話しかけてきた。

「あの人のことを許してくださってありがとうございます」

もしかしてと思う。

「フィーナさんとディアって付き合ってる?」

フィーナさんが顔を赤らめて、こくんと頷いた。

「実は彼とは婚約していまして」

すごいじゃないか、婚約なんて。もうすぐ結婚するってことか。

「わぁ、フィーナさんがお嫁さんかぁ」

「フィーナさんがお嫁さんになったら毎日可愛くてきっと癒やされるよね」

ルネが赤ちゃんを優しく抱き上げながら言った。

「うん、絶対にそう」

俺も同意だ。

フィーナさんはしばらく顔が赤かった。こうゆうところが可愛いんだけど、あんまり言うと怒られそうだから控える。ルネは赤ちゃんの抱っこの仕方を完璧にマスターしたらしい。俺も久しぶりに抱っこさせてもらったら重たくなっていてびっくりした。あ、やべっ、泣き出しちゃったぞ。

「ルネ、お願いします」

「もー、仕方がないねー、お父さんはー」

「お父さんじゃないし…」

ルネに赤ちゃんをパスすると、すぐに泣き止む。なにが違うんだろう?悔しい。仮にお父さんになったとして、こんな体たらくでは。
しばらくフィーナさんの代わりにギルドカウンターの仕事をしながら赤ちゃんたちの面倒を見た。これ、毎日はなかなかの激務だぞ。
ウチの母さんもそうだったのか?女性にはつくづく頭が上がらないなぁ。

「お二人共、本当にありがとうございました。これ、お二人で召し上がってくださいね」

夕方、フィーナさんが帰ってきて、紙の包みを差し出してきた。受け取るとまだ温かい。なんだろうと思って覗いてみた。

「コロニーから帰って来られたパン屋の御主人が焼いているアップルパイなんですよ。やっとここで商売が出来るって喜んでます」

「わぁ、ありがとうございます」

そうか、魔王がいなくなったことで、宇宙コロニーから帰ってきた人もいるんだ。これから世界は少しずつ活気を取り戻していくんだろう。

「会議も早く終わると良いですね!」

頑張ってくださいとフィーナさんに励まされて俺たちは頷いた。会議で決められることは決めないとな。

「美味しいー!」

「これ焼き立てだもん」

宿で熱いお茶を飲みながらアップルパイを食べた。もちろん一緒に夕飯も頼んだ。今夜は日替わり定食にした。安くてボリュームたっぷりだ。

唐辛子が入った肉野菜炒めを食べていると、ピンフィーネさんから連絡が来た。待ってました。

「お疲れ様です、団長」

「今日はよく休めたか?明日午前9時より引き続き会議を行う。この間の時と場所は同じだが、二階のホールではなく階下にある小さな会議室に来なさい」

「分かりました」

どうやら、大ホールを借りずに済んだらしい。あんな大きな場所、借りるのだって結構お金がかかりそうだもんな。ピンフィーネさんと少し話して通信が切れた。ルネが話しかけてくる。

「ピンフィーネのお父さんたちはどうするんだろうね?」

確かに…忘れていたぞ!!ピンフィーネさんのご両親はれっきとした王族なわけで…。

「なんか後々面倒そうだよね」

ルネがそうため息交じりに呟いた。俺も全く同意である。やれやれ。

✢✢✢

「宿舎にそろそろ戻りたいよね」

ルネが宿屋のベッドの上に座りながら言う。宿舎には国や世界に関する貴重な資料がたっぷり保管されている。今そこは会議のために引っくり返されている。騎士の皆も実家がある人は帰っていたりするらしい。ない人は王城の離れに泊まっているそうだ。

「んー、しばらく難しいかもね」

「そうだよね。まずは明日の会議かー」

「うん」

次の日、俺たちは会議室にいる。ピンフィーネさん、エンオウさん、サルベさんが既に揃っている。そしてもう一人、誰かが慌ててやって来た。

「すみません!遅くなりました!」

紺色のスーツを着た真面目そうな男性。スーツの左襟には金色のバッヂを付けている。

「キヌ殿、よく来てくださった」

エンオウさんが朗らかに声を掛ける。

「ショーゴ、龍姫よ。この方は、法制執務官殿だ。今後の法制度を整えるうえでは欠かせないだろう」

確かにその通りだ。

「翔吾といいます」

そう言ってキヌさんに手を差し出すと、ぎゅっと握られた。

「ショーゴさん、よろしくお願い致します!」

ルネも挨拶している。キヌさんは本物の龍姫だ、と感激していた。
皆で囲う様に椅子に座る。司会はエンオウさんらしい。

「今回の会議、こうして集まれたこと、大変嬉しく思う。ピンフィーネ殿とサルベ殿の陰ながらの活躍、ありがたい。そしてショーゴならびに龍姫の参加は皆が望んでいたこと。皆、本当にありがとう」

エンオウさんはニコニコしながら言った。改めて言われると照れくさいな。

「では、議題に入ることに…」

「エンオウ殿!」

ピンフィーネさんが立ち上がる。そして端末を操作した。フィーナさんの立体映像が現れる。彼女のそばにはゆりかごが二つ置かれていた。

「この子達にそろそろ名前を付けてやってはくれませんか?」

エンオウさんは酷く慌てた顔をした。

「まだ決まってなかったか!!確かこの間の会議で…」

ピンフィーネさんが首を横に振る。

「あれは、他の議案でかき消されました」

「な…」

うっかりしていたな。一番大事なことじゃないか。エンオウさんが目を閉じる。どうやら考えているらしい。どんな案が出るのかな?

「勇者の子には、シャナ。魔王の子にはマヨイと名付けよう」

うん、覚えやすそうだな。ピンフィーネさんがそれに頷いた。

「エンオウ様に名前を頂けたこと、この子らもきっと喜ぶでしょう。そして…」

ピンフィーネさんは俺たちを見回した。そして言う。

「この子達の扱いを王族としたいのです」

「なんだって?!」

エンオウさんが飛び上がった。そりゃそうなるよなぁ。

「王族と言ったらピンフィーネ殿は現王女の筈では?」

サルベさんが首を傾げる。ピンフィーネさんは笑った。

「私は王女という柄ではありません。妹のフィーナも同じことを言っています。それに現国王はコロニーからこの星に帰らないと言っていました」

それはそれでまたゴタゴタしそうだ。皆、心配という表情でピンフィーネさんを見つめている。

「大丈夫です。現国王に国王としての地位を退くという誓約書を書かせました。私は、この子供たちにこの世界の未来を託したいのです」

「ふむぅ…だが子供たちが自分の出生を知ったら傷付くのではあるまいか?」

エンオウさんの言うことは最もである。ピンフィーネさんが言った。

「子育てに絶対はありません。もし、傷付いたとして、この子たちに寄り添えるよう早急に体制を整えましょう」

それから、国の建設についての話になった。病院に始まり、警察や消防署なんかの施設を造る。子供たちが通う学校も建設が決まった。いよいよここも国として動き始めたんだ。この世界は科学力が発展している。魔法も同じくらいだ。
だから施設を作るのにそこまで時間がかからないらしい。可能性として、地震や津波に備えて防波堤を作るという案も出た。交通の便も速やかに整えるということだ。

「キヌ殿、今の所、問題はなさそうか?」

キヌさんが言った。

「レジスタンスの扱いはどうされますか?」

確かに彼らも平和の為に戦ってくれた功労者だ。それぞれ村を作っているみたいだけど、詳しくは分からない。

「あの、俺たちでレジスタンスのヒトたちの様子を見てきましょうか?」

おずおず手を挙げたら、エンオウさんが頷いた。

「うむ!頼む!!」

「分かりました」

この日の会議はここでお開きになった。エンオウさんたちのお陰で随分スムーズだったな。でもルネは死にそうになっている。

「ルネ、大丈夫?」

「眠くて死にそう」

どうやら建設がどうのというあたりから眠気と必死に戦っていたらしい。寝ないだけ偉いと思う。

「宿でご飯にしよう」

「ご飯!!」

ルネがぱっと表情を綻ばせた。明日、俺たちはレジスタンスの村の視察だし、ハクにも話しておかないとな。宿屋で昼飯を食べて、ルネは寝ると言って部屋に残った。

「ブルル」

いつものように厩舎に向かうと、ハクが顔を擦り付けてくる。

「ハク、明日はレジスタンスの村の視察に行きたいんだ。力を貸して欲しい」

俺はハクを抱き締めた。ハクも分かっているのか俺の肩を甘噛みしてくる。

「じゃあ、また明日ね!」

ハクに手を振って俺は部屋に戻った。
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