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小鳥が囀る声がする。あぁ、朝なんだ。目を開けると、ルネの顔があった。

「ショーゴ、おはようのチュー」

ルネに急に口付けられて俺は困った。寝込みを襲われるってもしかしたらこんな感じなのか?なんとかルネを引き剥がして、俺はルネとベッドの上で対面に座った。

「ルネ、お前、昨日熱を出したんだぞ」

覚えてないのかと聞いたら、ルネがやたらソワソワしだした。なんか心当たりがありそうだな。
じっと見つめているとルネがずっと目を泳がせている。

「ルネ、正直に言ってくれ」

「あのね…」

そこからたっぷり5分は経過した。

「僕…えーと…その…ねえ…えーと、発情期みたい」

「え…?」

発情期ってあれか?春になると野良猫たちがにゃあにゃあしてるやつ?ルネが照れたように言う。

「大丈夫、大丈夫。まだ本当の発情じゃないから」

あれでまだ、なのか?俺の気持ちが伝わったらしい、ルネが上目遣いで言ってきた。

「あのね…発情している間、ショーゴに抱き締めていてもらいたいの」

「それはいいけど」

ルアナさんの言葉が蘇るな。ルネは種を宿さなきゃいけないって。もし宿したとして、そしたら…まさか…出産ってことなんだろうか?でもルネの体は男だし。うーん。っていうか、その宿す方法ってやっぱりセックスなのか?えええ。

「ショーゴ、顔赤いよ?」

「ルネはいいの?」

「何が?」

ん?とルネが首を傾げている。俺は困った。今の状態で、上手く話せるか?でもルネなら、ちゃんと俺の話を聞いてくれる。

「そ、その、ルネは最古龍の子孫を産まなきゃいけないんだよ?きっとすごく大変だよ?」

男の俺には産みの苦しみなんか分からない。それでも、すごく痛いのは間違いないし、その後育てるのだって大変だ。ルネは笑った。俺の両手をルネが握る。小さな手だな。

「痛いことも大変なことも、やってみなきゃ分からないよ。それだけ考えたら僕も怖いよ。でも大好きな人とだったらきっと平気だと思うんだ」

「ルネ」

俺はルネを抱き締めた。すごく愛おしい。

「ね、ショーゴ。まだまだ冒険するんでしょ?僕も連れて行ってよね?」

「あぁ、当たり前だろ!」

俺たちは口づけ合った。

「午後から会議か。とりあえず朝飯食べに行こう、ルネ」

「頑張るぞー!寝ないように!」

「頑張るとこそこか!」

俺は思わず笑ってしまった。朝飯を食べたら会議の資料に目を通しておかないとな。

✢✢✢

「無理…なにこれ…」

分厚い資料に目を通していたら、ルネが音を上げた。早いな。まだ十分も経ってない。

「ルネ、一緒に読もう。大事なところは俺が拾うからペンで線引っ張って」

「なんか勉強みたい」

ふうう、とルネがため息を吐く。まあ気持ちはよく分かるけどな。
俺はルネと資料を読んだ。

「結局、赤ちゃんたちの処遇はどうなるの?」

「…」

正直な話、俺にも分からない。殺されたりするわけではないと思うけど。無言の俺を見てルネがだよね、とため息を吐いた。

「ショーゴに分からないことなら僕なんかには絶対に分からないよ」

とりあえず昼飯を食べて、会議が行われるホールへ行くか。

「ルネ、体がおかしくなったら言うんだぞ」

「うん」

ルネがはにかんだ。

✢✢✢

「魔王城を新たな国王の城にするという案は」

「魔王であった赤ん坊には教育による矯正が必要であり!」

会議は始終こんな感じだった。しかも決まりそうで結局決まらなかったり、また前の話題を混ぜっ返されたり効率の悪いことこの上ない。ルネは死にそうな顔をしている。多分俺もだ。
これが有識者の会議なのか?

「ええい!!埒が明かん!!!」

バン、と机を叩いて立ち上がったのはエンオウさんだった。エンオウさんは初日からずっとこの会議に出ているんだから、イライラする気持ちも分かる。

「お前たちには決断という言葉はないのか!前例がないだとか、予算がかかりすぎるとか、さっきから机上の空論ばかり述べおって!!!」

「私も同感だ。失敗を恐れていては何も変わらん」

ピンフィーネさんも声を上げる。
この二人に他の人たちは追随するような素振りを見せた。なんかずるいなぁ。明らかに居眠りしている人もいるし。

「えーと、これって議員さんには、お給料出てるんですか?」

俺が思わず言うと、エンオウさんが顔を綻ばせた。

「おぉ、ショーゴ。そこにいたのか。挨拶くらいせんか」

「すみません、お忙しいかなって」

「給料が出るかといえば出る」

ピインっとピンフィーネさんがコインを指で弾いた。居眠り議員の額に直撃する。彼は慌てた様子で飛び起きた。

「仕事中に居眠りとはいい度胸だな」

「ひ…あ…」

議員さんが真っ青な顔でわたわたしている。じゃあ寝なければいいのに。

「もういいわ!全て我らで決める!やる気の無いものは出ていけ!!」

「ですが!!」

縋りついてくる議員さんも居たけど、エンオウさんが全て振り払った。
議員さんがいなくなって、ホールががらん、とした。

「むうう、無駄金を使ってしまったな」

エンオウさんが嘆息している。気持ちはよく分かるな。

「ふふ、なかなか見ものでしたよ」

すらりとした中性的な人が近寄ってくる。全然気配がなかった。

「そなたは議員の?」

ピンフィーネさんの驚きの声にその人は優雅に笑った。綺麗な人だ。

「はい。モアグリア国会議員のサルベと申します。最近は皆さん、だらけてしまわれて、私としても遺憾だったのですが大変すっきりしました」

どうやらサルベさんなりに怒っていたらしい。

「ふーむ、国会議員でその身のこなし。もったいない」

エンオウさんが唸る。

「私は争いは好みませんが、自分の大切なものは守りたいと常々思っております」

「して、その守りたいものとは?」

エンオウさんは面白そうに聞いた。

「この国の全てです」

サルベさんも全く動じない。すごいな。

「とりあえず、議員はお主がいれば大丈夫そうだな。あとはどうやって、この会議を国に認めさせるかだが」

サルベさんがぽむ、と手を打った。

「知り合いの発言力のある元大臣に頼んでみます。彼もまた今の国会のあり方に疑問を呈していましたから」

「ほう…」

「私からも上に頼んでみよう」

ピンフィーネさんはいわゆる王女にあたるわけだし。
それにしても、なんかすごいことになってきちゃったな。

「うむ。とりあえず吾輩も伝を当たることにする。ショーゴ、ルネ、お前たちは明日、ゆっくり休め」

エンオウさんにそう言われたので甘えることにした。ハクと遊びたいし、ルネはさっきまでの会議で死にそうになっているからな。今日はここで解散になったのだった。

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