上 下
6 / 68

6

しおりを挟む
訓練を終えた後、風呂に入って食事をする。

「ショーゴ、今日も疲れたねー」

「うん、もう眠たいよ」

箸で唐揚げを掴みながら言う。あれからライクとヴァンの諍いもないしすごく平和だ。仲良くするのはまだ難しいかもしれないけど、お互い信頼し合えればまた違うはずだ。そんな事を思っていたら、ライクから声を掛けられた。

「お、さすがに疲れてるな。お前の装備、明日出来るんだろ?楽しみだな!」

そういえばそうなのだった。今俺が着けている装備はピンフィーネさんいわく玩具レベルだったらしい。ディアにはいつか一言言ってやらないと気がすまない。

「昼間は本当にありがとうな」

ライクの言葉が嬉しい。

「良く休めよ」

そう肩を叩かれて俺は頷いた。仲間っていいな。
唐揚げを頬張って、麦飯をかきこむ。うまー。
ルネも食べ終わったらしい。明日も午前から訓練だし頑張るか。

「ごちそうさまでした」

食べ終えて手を合わせる。ルネがはじめこれを見た時、すごく驚いていた。手を合わせるのは神様に祈る時だと。俺も詳しく知っているわけじゃないけれど、命をくれた動植物たちに感謝しているのだと説明したら、ルネもやり始めるようになった。
なんか面白いな。
食器を返却して歯を磨く。ベッドに横になったら微睡む暇もなく俺は意識を飛ばしていた。

「ショーゴ、点呼だよ」

「んぁ、ありがとう」

ルネの朝は早い。こうして毎朝起こしてくれて本当に助かる。朝飯を食べていたら、ピンフィーネさんがやって来た。彼女がいるだけで雰囲気がピリッとなるのはすごい。さすが団長だ。

「ショーゴ、明日からの任務について後で説明する。昼食を食べ終えたら団長室へ来なさい」

「分かりました」

俺は内心ドキドキしていた。明日からの任務をちゃんとこなせるかどうかも怪しい。俺の緊張がルネにも伝わったのか、大丈夫と抱き着かれた。ルネがこうして傍にいてくれて本当に良かった。午前の訓練を終えて昼飯を食べた。団長室のドアをノックすると中から声が聞こえる。

「失礼します」

中にいたのはピンフィーネさんとフィーナさんだった。二人がにこにこしている。俺は期待感が高まっていた。ついに。

「ショーゴ、お前の装備が出来た」

ピンフィーネさんが差し出してきたのは黒い防具だった。つやつやぴかぴかしている。なんか見るからに強そうだ。ディアが渡してきた装備とは比べ物にならない。ディアは俺なら騙せるって思ったのかな、だとしたら少し悲しい。

「これはドラゴナグルの鱗と逆鱗を使っている。耐久に優れ、熱や水にも強い。だが装備品は所詮装備品だ。どう扱ってやるかはお前次第だよ」

ピンフィーネさんの言葉に俺は頷いた。その通りだ。

「こちらもショーゴ様のものですよ」

フィーナさんが持ってきてくれたのは、漆黒の片手剣だ。すごい。柄を握ると力が湧いてくる気がするな。盾も明らかに頑丈そうだ。

「ドラゴナグルの骨を削り出して作っています。きっとあなたの役に立ちますわ」

「こんなに良いものをありがとうございます」

感激して頭を下げたら、ピンフィーネさんに肩を叩かれていた。顔を上げるとピンフィーネさんの勝ち誇ったような表情が目に入る。

「騎士としてこれから腕を磨け。皆、お前に期待している」

「はい!」

俺は新しい装備品を着けて、午後の訓練に参加した。もちろんルネも一緒だ。ルネは人間に比べるとかなりタフらしい。さすが龍だ。人間のように装備品を着ける龍もいるらしいけど、ルネは着けたことがないらしい。理由としては基本的に戦わないから、だそうだ。戦わないで済むならそれに越したことはないんだよな。ルネは占いを専門にしているし、村では大事にされていたんだろう。

「ショーゴ、いい装備品だな」

「俺様のも見てくれ!」

騎士さんたちに取り囲まれるのはさすがのルネも苦手らしい。俺の背中にずっと隠れていた。
そういうところも可愛いと思ってしまう俺は多分末期なんだよな。それから、騎士さんたちの装備談義が始まってしまった。途中で飽きたのかルネはそろり、と俺の背中から顔を出した。騎士さんたちがそれに気が付いて、ルネにも優しく声を掛けてくれた。ルネはそれで平気になったらしい。ニコニコしながら皆で話してたな。やっぱり可愛い。

✢✢✢
もう夜になっている。
俺はピンフィーネさんに言われて端末のアップデートをしていた。どうやら仲間と通信することができるようになるらしい。便利だなぁ、本当にスマートフォンみたいだ。しかも音声で操作できるから、戦っている間も使える。これなら作戦も立てやすいな。この端末は僅かな光でも充電可能だそうだ。助かる。
明日、俺たちは朝一番の汽車で、山向こうにある村に行く。そこからは陸路なのだ。中央まで、かなり厳しい旅になりそうだ。端末によれば、点々と宿なんかがあるらしい。上手く馬と宿を使いながら進めとのことだ。ちょっとワクワクしてしまうのは男なら誰もが持つ厨二心をくすぐられるからかもしれない。ルネは俺のベッドに丸くなっている。眠いけど俺から離れたくないなんて可愛いことを言われてしまった。だからしばらくここにいていい?という言葉に頷かざるを得なかったのだ。

「ショーゴ、機械出来たの?僕たち明日、汽車に乗るんだよね!」

ルネは汽車に乗るのは初めてらしい。俺も石炭で動く汽車に乗るのは楽しみだった。ルネの頭を撫でる。

「ルネ、明日からしばらく大変だけど、よろしくな」

「うん!二人なら頑張れるよ」

ルネが梯子を登って自分のベッドに向かう。さて、俺も眠ろう。気が付くと眠りに落ちていた。

「ショーゴ、ショーゴ!」

「ん…ルネ?」

「汽車に早く乗りに行こ!」

ルネはワクワクと言った様子だ。俺は起き上がってルネの頭を撫でた。

「大丈夫、汽車は逃げないからね」

「でも乗らないと逃げちゃうんでしょ?」

あれえ?とルネが首を傾げている。どうやら色々な情報が錯綜しているな。昨日騎士さん達にあることないこと吹き込まれていたからな。とりあえずベッドから俺は這い出た。朝飯を食べたら出発だ。俺はルネに向き直った。

「汽車は決まった時間に走るからそれで時間に乗らなかったら逃げるってこと…かな?」

「えー!汽車ってすごーい!つまり、時間通り走ってるってこと?」

「うん、天気によってはたまに遅れたり止まったりするから困ることもあるけどね」

「人間すごい…」

ルネが震えている。そんなに驚かれると種族の違いを改めて感じさせられるな。人間の当たり前は龍にとって当たり前じゃない。これは他の種族も然りだ。ここでは特別気を付けよう。

そんなこんなしているうちに毎朝行われる点呼の時間になった。点呼を行うのは部隊長であるハッサの役割らしい。俺の顔を見るなり抱きついてきたから驚いた。ルネだと嬉しいけど、ハッサはたくましいからなぁ。熊に襲われたらこんな感じなのかもしれない。あくまで例えだから、熊が近くにいる時には皆、外出しないでね。

「ショーゴ、お前はすごい!中央に派遣されるなんて相当のツワモノだぞ!」

ハッサはそう言うけど、そうなのかな?チラッとルネを見たら、ルネが首を横に振る。どうしようもできないという意思表示だ。ルネがどうしようもできないなら俺にもどうしようもできない。

「ショーゴ、いっぱい食って出掛けろよ!」

しばらくハッサはあれに気を付けろとかこれには近付くなと俺に色々教えてくれた。持つべきは熱い部隊長かもしれない。
朝ごはんもしっかり食べて端末を腰に差す。剣と盾は背負った。瞬時に構えられるようにここのところ、ルネと練習していた。多分大丈夫だ。

いよいよ出掛ける時間になった。荷物をもう一度確認していると、ピンフィーネさんがやって来た。

「回復薬を渡しておこう。あと簡易テントだ。保存食もな。不味いだろうが狩りに慣れるまで耐えろよ」

ピンフィーネさんが声を潜める。

「ディアには私から話を付けておく。あいつは元々あんなチャラチャラしたやつじゃなかったんだが、どうも魔王が現れてから皆おかしい」

「分かりました、お願い致します。団長」

ピンフィーネさんが一瞬固まって、笑い始めた。
あれ?俺おかしいこと言ったかなぁ?

「お前に団長と認められたか。人生どうなるか分からないな。では、龍姫に愛されし騎士ショーゴよ、行って参れ!」

「行って来ます!」

いつの間にかライクやヴァン、他の皆も俺たちを見送ってくれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの世界はどこいった?

水場奨
BL
小さな時から夢に見る、ゲームという世界。 そこで僕はあっという間に消される悪役だったはずなのに、気がついたらちゃんと大人になっていた。 あれ?ゲームの世界、どこいった? ムーン様でも公開しています

弱気な魔導師は裏切られどん底に落とされる

春だわ
BL
裏切られた主人公は自分の居場所を求めていろんなところを旅する 初投稿です(汗)

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子としょうがないやつだなと見守る師匠

万年青二三歳
BL
どうやったら恋が終わるのかわからない。 「自分で決めるんだよ。こればっかりは正解がない。魔術と一緒かもな」 泣きべそをかく僕に、事も無げに師匠はそういうが、ちっとも参考にならない。 もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだけど? 耳が出たら破門だというのに、魔術師にとって大切な髪を切ったらしい弟子の不器用さに呆れる。 首が傾ぐほど強く手櫛を入れれば、痛いと涙目になって睨みつけた。 俺相手にはこんなに強気になれるくせに。 俺のことなどどうでも良いからだろうよ。 魔術師の弟子と師匠。近すぎてお互いの存在が当たり前になった二人が特別な気持ちを伝えるまでの物語。 表紙はpome bro. sukii@kmt_srさんに描いていただきました! 弟子が乳幼児期の「師匠の育児奮闘記」を不定期で更新しますので、引き続き二人をお楽しみになりたい方はどうぞ。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...