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俺はルネと共に村から少し離れたお城にやってきた。それは西洋で良く見られる尖塔のついたお城だ。夢の国にあるやつって言ったら分かってもらえるだろうか。まるで御伽噺みたいだな。中には綺麗なお姫様がいるのかもしれない。ワクワクしながら城の入口に向かったら門の前で兵士さんたちに足止めされた。あ、やっぱり簡単には入れないのか。ルネはともかく俺はただの一般人だもんな。

「なんの御用だろうか?」 

「えーと、騎士団長のピンフィーネさんに呼ばれて…」

「こんな軟弱そうな者をピンフィーネ様が?」

「そんなもの信じられるはずがない」

兵士さんたち、小声だけど全部聞こえてますよ。さて、どうやって中に入ろうかな。考えていると、向こうからピンフィーネさんがやって来た。

「ショーゴ、よく来た。お前たち、その者たちを通せ」

「はっ!!」

ピンフィーネさんも心配になってわざわざ迎えに来てくれたらしい。兵士さんについて無礼だったと謝ってくれた。別に気にしてないと言ったら、ピンフィーネさんは高らかに笑った。

「お前のような寛大な心を持った男は嫌いじゃないぞ」

「ははは…」

寛大っていうか、俺が兵士さんだったら多分俺も同じことをしていただろうしなぁ。もう正直に言って、笑うことしか出来ない。

「ピンフィーネさん、ショーゴをこれから誰かと戦わせるつもりなの?」

ルネが声を固くして言う。俺の腕前が見たいって言ってたし、まあそうなんだろうなとは思っていた。ピンフィーネさんが振り向く。

「私が直々に相手する。ショーゴがこの土地を守るに値するかどうか見極めるのだ」

ピンフィーネさん、見るからに強そうだ。ルネはぎゅっと俺の腕にしがみついてきた。

「ショーゴにひどいことしたら許さないよ」

ピンフィーネさんは一瞬目を丸くしてふっと優しく笑った。

「龍姫様、あなたの見込んだ男を信じられぬのですか?」

ルネがハッと息を呑む。ピンフィーネさんの言葉が刺さったらしい。

「そういうわけじゃないけれど」

ルネが困ったようにうつむいた。

「大丈夫、悪いようにはしません。ショーゴならきっとうまく立ち回るでしょう」

えーと、俺大丈夫か?一応言っておくと数日前までただのサラリーマンだったわけですが。いきなり戦いとか言われてもな。でもこの世界で暮らすためにはある程度戦えたほうが有利なのは明らかだ。この間のドラゴナグルとの戦いはルネがいてくれたからなんとかなった。俺は自力で戦えるようにならなきゃいけない。ルネが安心できるように。ピンフィーネさんに案内されたのは城の裏にある訓練場だった。俺とピンフィーネさんが対峙する。俺は剣と盾(心許ない)を持っているのに対して、ピンフィーネさんは丸腰だ。ちょいちょいと指で挑発される。

「さあ、来てみろ」

ピンフィーネさんは小柄だ。俺は男だし力で押し切れるかも。俺は彼女に飛び掛かった。

「ぐえぇ…」

「ほらほら、まだまだだ」

ピンフィーネさんにあっさり投げ飛ばされている俺がいる。起き上がってまた向かっていくと、簡単に転がされてしまう。三半規管がやられて気持ち悪い。なんとかなるかもなんて言ってごめんなさい。ぜいぜい言っていると、そこまで、とピンフィーネさんの涼やかな声が響いた。

「ショーゴ!!」

ルネが駆け寄ってくる。涙目だ。心配かけちまったな。俺はルネの頬を撫でた。

「ショーゴ、大丈夫?」

「大丈夫だよ」

ルネにぎゅううとしがみつかれる。ピンフィーネさんをめちゃくちゃ威嚇してるな。俺はルネの頭を撫でた。ピンフィーネさんが俺を見て頷く。

「うむ、お前には剣の素質があるようだ。お前を騎士団に入れよう。そして、早速だが任務を命じる。お前は中央へ行き魔王の動向を探るのだ。よいな?」

「え?!」

こんなにボロボロにされたのに、入隊?しかもいきなり任務?しかも魔王の動向を探るとか、結構な重要ポジなんじゃ?大丈夫かな?俺はふと会社のことを思い出していた。入社したばかりの頃はあまりに俺が使えなすぎてひたすらコピーとシュレッダー係をしていたな。よく辞めなかったなって今なら思うけど。

「ショーゴ、騎士になるの?すごい!」

ルネが満面の笑みを浮かべている。うーん、この世界で騎士になることはかなりの栄誉みたいだ。はっきり言って俺に騎士が務まるか自信はない。俺はピンフィーネさんに頭を下げた。今は一生懸命にやるしかない、そう思ったのだ。

「よろしくお願いします」

「うむ、ならば詳しい話をする。騎士団の宿舎に行くぞ」

城を出てすぐの場所に宿舎はあった。独身の騎士はここで寝泊まりするらしい。食事も毎回用意してもらえるし、安心して騎士の業務につけそうだ。
ピンフィーネさんに連れて行かれたのは奥にある団長室だった。棚には分厚い文献がずらっと並んでいる。そして、大きな机が置かれていた。上には書類が置かれている。
更に奥に行くと、応接間があった。黒い革張りのソファが対面するように置かれている。その真ん中には木で出来たテーブルが置かれていた。
ピンフィーネさんに座るように言われて、俺たちはソファに腰掛けた。

「ショーゴよ、その装備はディアから買ったのか?」

ピンフィーネさんが眉根を寄せて言うので俺は頷いた。実際は買わされたが正しい。

「あの男の手抜き具合には呆れるな。その装備でクエストクリアは奇跡に近いぞ」

「え…」

俺は耳を疑った。クエストクリアは奇跡?

「あの…俺が行ったクエストは特産キノコを…」

「まずそれでフィールドに行く気にならん」

俺の言い分をばっさり切り捨てられた。マジか。くそう、ディアめ、騙したな。

「あいつのことだ。上手く騙して金を取るつもりだったのだろうな。まあいい、お前には新しい装備をやる」

「おねえ様!お支度が出来ました」

やって来たのはピンフィーネさんによく似た女性だった。美人というより可愛らしい柔らかな雰囲気を持つ人だ。

「まあ、龍姫様もいらっしゃったのですね?」

ルネは有名人らしいけど、ルネからしたら誰だろうってなるみたいだな。所謂、芸能人みたいなものか。

「では、ショーゴ様。採寸に入りますね」

その人はフィーナさんというらしい。ピンフィーネさんの妹さんだ。苛烈なイメージのピンフィーネさんとは真逆だけど、二人は仲良しらしい。採寸の間もルネを交えて喋っていた。

「ショーゴ様、装備が出来るのは明後日の午後になります」

「分かりました」

「ショーゴ、お前たちも宿舎を使え。もう仲間なのだから」

ピンフィーネさんがそう言ってくれて、俺はやっとホッとした。宿代がなくなりかけていたから本当に助かる。

「もう夕飯の時間だな。フィーナ、ショーゴたちに宿舎の案内を頼む」

「はーい」

フィーナさんに中を案内してもらって、食堂で夕飯を食べた。これらが全部無料なんだからすごい。今日のメニューは日本で言うところの豚テキとサラダ、スープ、もちろん欠かせないのは麦飯だ。スープと麦飯はおかわり自由らしい。味も抜群に美味しかった。箸が普通にあるのにも驚いた。さすが異世界、なんでもありだな。

「ルネ、風呂に入ろうか?」

ルネを誘ったら、困ったように目を泳がせて頷いた。

「ルネ?どうしたの?」

一応聞いてみる。ルネはお風呂が苦手なのかな。

「僕、シャンプー、一人で出来なくて」

「大丈夫、手伝うよ」

「ありがとう、僕も自分で出来るように頑張るね!」

ルネのやる気に火がついたみたいだし、俺たちは風呂場に向かった。何人かが服を着ている。

「あれ?さっきピンフィーネ様にズタボロにされてた奴じゃん」

「もしかして入隊したのか?」

わらわらと服を着おえた騎士さんたちに取り囲まれる。ルネは俺の背中に隠れていた。

「はい、翔吾っていいます。こっちはルネです。よろしくお願いします」

頭を下げて言うと、騎士さんたちはどよめいた。

「今時真面目な子だな…」

「こりゃピンフィーネ様も気に入るわけだ」

どよどよと騎士さんたちは喋って、俺たちに笑いかけてきた。

「ショーゴ、あと龍姫様。よろしくな。俺はハッサ。部隊長を任されている。何か困ったら俺に聞いてくれ」

「俺はライク。仲良くしてくれ!」

ライクから聞いて知ったけれど、騎士の中にも派閥があるらしい。まあ人間が集まればそうなるのも無理はない。俺のいた会社だってそうだったしな。細かいことは気にするなと言われたのでそうすることにする。裸になって身体と頭を洗う。ルネの頭も洗ってやった。広い湯船に浸かると熱さが体に染み渡る。今日も疲れたなぁ。

「テテ…」

「ショーゴ?どうしたの?」

「あぁ、さっき肘を擦りむいたから。ちょっとお湯が滲みてな」

ルネがそれにムスッとしてしまった。どうしたんだ?

「ルネ?」

ルネが俺に抱き着いてくる。そして擦りむいた場所をぺろぺろ舐め始めた。びっくりしているとルネが笑う。

「龍の唾液は薬になるから」

そっか、心配してくれたんだな。
俺はルネの頭を撫でた。
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