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番外編
茜とイブのぜんまいフェスタ(後編②)
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「サルジ!!」
イブが膝をついているサルジの元に駆け寄る。
「イブ、私は大丈夫だ。敵を視認したぞ」
ぐ、と剣の鞘を地面に突き、サルジは立ち上がった。
「大丈夫なのか?」
イブの問いにサルジは不敵に笑ってみせた。
「私が今まで、大丈夫じゃなかったことがあるか?」
「ないな。頼むぞ、隊長さん」
どおん、とまた爆発音が響く。
「行くぞ!イブ!!」
「あぁ!ダヌキ!お前は茜と待機していろ!」
「承知しました!」
「イブ!気を付けてね!」
茜も本当は2人について行きたかった。だが、それが許されないことくらい自分でも分かる。神々不在の自分に戦闘力はほとんどない。シューリンが叫んだ。
「茜殿、大変だ!爆弾のリミットがまた動き出して!今、アリスが止める方法を探っている!」
「そんな」
「茜様、なにか俺たちに出来ないでしょうか」
茜はぐっと拳を握った。戦えなくてもやれることは2つある、そう思ったのだ。
「ダヌキさん、お城から半径1キロ以内にいる人を避難させて!レイさんは、俺と来て!アリスくんに協力するんだ!」
「承知しました!」
ダヌキが走っていく。レイもPCを取り出して頷いた。防御壁をかき分け、茜とレイは、アリスの端子にそれぞれのPCを繋いだ。
「レイさん、茜さん、ありがとう」
茜とレイはひたすらキーボードをタイプした。ハッキングして、爆弾に入っているプログラムを2人で消している。アリスは根幹のプログラムを破壊していた。
「むうう、まだ取っておきたかったけれど、そういうわけにはいかないみたいだね」
レイがため息と共に漏らす。どうやら策があるらしい。
「何かあるんですか?」
茜がキーボードをタイプしながら聞くと、レイが頷いた。
「新しいウイルスを作ったんだよ。主に悪さを働くプログラムを食うウイルスをね」
「さすがレイさん」
「まだ完全にデバッグが済んでないけど、やってみようか」
「プログラムのデバッグなら任せてください」
「俺もお手伝い出来るよ」
茜とアリスの言葉にレイは笑った。タンっとエンターキーを押す。どうやらウイルスを打ち込んだらしい。どんどんプログラムがウイルスに食われていく。
「すげえ。どんどん消えてく」
茜もウイルスのバグを取りながら、動きを見守っていた。
「さて、とどめを刺さなければ」
✢✢✢
「待て!!」
「ほう、私に恐れずに来たか」
サルジは剣を抜き、切っ先を相手に向けた。
イブも低く構える。
相手は赤い薔薇の花弁がついた黒いドレスを着た女だった。
「私の邪魔をするとはいい度胸だな」
ドン!!とそばで爆発が起きた。どうやらそれが能力の一つらしい。だが、サルジもイブもそんなことでは怯まない。
「サルジ、覚えているか?」
イブとサルジが、ほぼ同時に走り出す。
「プランBか?」
「あぁ!」
イブがパチ、と指を鳴らすと、女を蔦で拘束する。
「小手先では私には敵わぬ」
だが、その間にサルジが走り込んでいる。
「たぁぁぁぁ!!!」
サルジの剣が相手の右肩を切り裂く。
「ぐ……!よくも!!!」
「まだだぜ」
イブは再び指を鳴らした。地面からズズと更に太い蔦が伸びて女をきつく捕らえる。
「離せ!!離せ!!」
「おいおい、本当なら気絶するレベルだぞ」
「イブ!油断するな!!」
サルジの言葉と同時に爆発がイブを包む。
「イブ!!」
サルジが叫んだが、イブの肉体は燃えている。
「ふふ、ふはははは!やはり私こそがさい…え?」
火柱は縮むように消えた。イブは傷一つ負っていない。
「俺に爆発は効かない。まあ知らなくて当たり前だとは思うけど」
イブは女に近付いた。
「な…なんだ!お前は!!」
「俺は普通の人間だぜ?あんたが力不足なんだろうさ」
イブは彼女の目の前で指を鳴らした。くたり、と女は意識を失う。
「イブ、何をした?」
「眠らせた」
「そ。そうか」
「イブ!!」
向こうから茜たちが走り寄ってくる。
「イブ!大丈夫?怪我してる!」
茜はイブの火傷に気が付いていた。
「茜は気が付くんだな」
「当たり前でしょう。ダヌキさん、救急車呼んで」
「は!」
「え、救急車になんか乗りたくない」
「イブ、そんな怪我で病院行かないとか先生にキレられるよ?」
「それは困るなぁ」
うーむ、とイブが真剣に悩んでいる間に救急車はやってきた。担架に乗るようにいわれて、イブは渋々横になる。茜たちも救急車に乗り込んだ。
火傷していると思われる場所を隊員によって冷やされる。
「もうイブってば無茶するんだから」
「だって…」
「だってじゃないの!」
その日のイブは病院に一晩、入院することになったのだった。
✢✢✢
茜とダヌキは早朝から病院に来ている。イブを迎えに来たのだ。イブは看護師に包帯を外されている。イブの火傷はほぼ完治していた。魔力量が多いと、このような恩恵が受けられるらしい。
「よかった、イブはかっこいいんだから」
「傷のある男も悪くないだろ?」
「場合によるかな?」
茜が首を傾げると、イブは笑った。
「さ、今日は祭りを楽しんで、千に土産を買って帰らないとな」
「ドタバタだったもんねー。あ…」
「茜?」
「神様たちがテロ組織の幹部丸ごと刑務所に入れといたよーって報告」
「さすが手が早い」
「帰る前にサルジさんに挨拶しなきゃね」
「そうするか」
茜、イブ、ダヌキは広場の様子を見に行った。爆発のあとは綺麗にされている。サルジたち騎士団の活躍だろう。
「あ、フルーツ飴食べる」
「いいぞ」
屋台で買い食いをしながら歩く。
そして最後にたどり着いたのはぜんまい工房という名の建物だった。
「ここでぜんまいの理由が分かるぞ」
「へー!あ、オルゴールがある!」
入り口に精巧な金色のオルゴールが置かれている。
「あぁ。千が好きな曲で作ってもらおう」
「何が好きかなー?やっぱりくーちゃん関連?ダヌキさん、知ってる?」
「は、お嬢様はよく冒険の歌を歌われています」
それにイブがさっと青ざめた。
「ま、まさか、一人で冒険に行く、とか言わないよな?」
「可愛い子には旅をってこうゆうことなんだね」
中に入ると、ぜんまいという部品についての歴史が書かれている。一番最初に発明された魔法道具が、ぜんまいの形をとっていたらしい。
「なるほどねー、分かりやすいなぁ」
「面白いですね」
「次元飛躍がもっとポピュラーになれば、魔法道具もぐっと増えるんだろうな」
展示もすっかり見終わり、館内のカフェでオルゴールの完成を待つことにした。
「おしゃれな内装だなー」
「ですね」
「ウチの猫カフェだって負けてないぞ」
こくり、とイブがコーヒーを一口飲む。茜もチョコレートパフェに取り掛かった。
「わ、パフェ美味しい」
「今度作ってみましょうか?」
「やった!」
無事、オルゴールを受け取り、茜たちは帰る支度を整えている。
「やぁ」
レイがこうして顔を出すのにも茜はすっかり慣れてきてしまっている。
「レイさん、アリスくんは?」
「あぁ、もうすぐ来るよ」
「お前が異次元に来るなんて、どういう風の吹き回しだ?」
ふふ、とレイが笑う。
「まぁ単純に気まぐれを起こしただけさ」
「お待たせしました!」
アリスがリュックサックを背負ってやってくる。
「アリス、ライアに住むつもりか?」
イブの言葉にアリスは頷いた。
「姉さんと暮らすことになったんです」
「昨日連絡が取れたんだよ」
よかった、と茜はホッとした。
「イブ!!貴様!また私を待たせて!!もはやこちらから出向いてやったぞ!」
「ありがとうな、サルジ」
「っ…!!」
サルジが真っ赤になって顔を背ける。
「ふん、私とて暇ではないんだ」
「あぁ。これからもお互い頑張ろうな」
サルジが不敵に笑う。
「貴様には負けんぞ、絶対にな!」
2人はがっしりと握手を交わした。
✢
ライア
「茜たち、帰ってくるね」
「はい。お土産楽しみですね!」
千とアリカは異次元飛躍装置の前にいた。ぱっと茜たちが現れる。途中で、レイとアリスとは別れていた。
「ただいまー、やっと帰ってこられた」
「茜!イブ!ダヌキお兄ちゃん!お帰りなさい!」
千が茜の太ももに抱き着いてくる。たった数日離れていただけなのに、茜は思わず泣いてしまった。
「千、よかった」
「茜、課題一つ終わったの」
千の得意げな表情が可愛らしい。
「本当に?すごいじゃない!」
「千様は努力されてますから」
「オルゴール、ある?」
「あるよー!もちろん!」
茜が白い小箱を荷物から取り出すと、千が目をキラキラさせながら受け取った。
「ありがとう!今日寝る時に流していい?」
「千の好きにしていい」
イブも頬が緩んでいる。
最後のぜんまい工房では現金しか使えなかったのだ。茜はイブからもらっていた金でオルゴール代を支払ったのだ。
「茜、これ見て」
茜が屈むと薄紫の花びらが入った栞だった。
「今度寄付するやつ」
「すごーい、綺麗だよ」
「千はセンスがあるな」
「あ、あのね!」
千が茜とイブを見つめてくる。
「ユキ、お祝いがしたかったの」
「お祝い?」
聞き返すと、うん、と千は頷いた。
「茜とイブが初めて会った日が今日なんだよ。だからお祝いなの!」
「よく知ってたな」
「そっか。今日だっけ」
「ね、お祝いにケーキを作ったから、皆で食べよう!」
「あぁ、皆でな!」
「皆でね!」
茜はそっとアリスのことを想うのだ。彼らにも幸せであって欲しいと。
おわり
イブが膝をついているサルジの元に駆け寄る。
「イブ、私は大丈夫だ。敵を視認したぞ」
ぐ、と剣の鞘を地面に突き、サルジは立ち上がった。
「大丈夫なのか?」
イブの問いにサルジは不敵に笑ってみせた。
「私が今まで、大丈夫じゃなかったことがあるか?」
「ないな。頼むぞ、隊長さん」
どおん、とまた爆発音が響く。
「行くぞ!イブ!!」
「あぁ!ダヌキ!お前は茜と待機していろ!」
「承知しました!」
「イブ!気を付けてね!」
茜も本当は2人について行きたかった。だが、それが許されないことくらい自分でも分かる。神々不在の自分に戦闘力はほとんどない。シューリンが叫んだ。
「茜殿、大変だ!爆弾のリミットがまた動き出して!今、アリスが止める方法を探っている!」
「そんな」
「茜様、なにか俺たちに出来ないでしょうか」
茜はぐっと拳を握った。戦えなくてもやれることは2つある、そう思ったのだ。
「ダヌキさん、お城から半径1キロ以内にいる人を避難させて!レイさんは、俺と来て!アリスくんに協力するんだ!」
「承知しました!」
ダヌキが走っていく。レイもPCを取り出して頷いた。防御壁をかき分け、茜とレイは、アリスの端子にそれぞれのPCを繋いだ。
「レイさん、茜さん、ありがとう」
茜とレイはひたすらキーボードをタイプした。ハッキングして、爆弾に入っているプログラムを2人で消している。アリスは根幹のプログラムを破壊していた。
「むうう、まだ取っておきたかったけれど、そういうわけにはいかないみたいだね」
レイがため息と共に漏らす。どうやら策があるらしい。
「何かあるんですか?」
茜がキーボードをタイプしながら聞くと、レイが頷いた。
「新しいウイルスを作ったんだよ。主に悪さを働くプログラムを食うウイルスをね」
「さすがレイさん」
「まだ完全にデバッグが済んでないけど、やってみようか」
「プログラムのデバッグなら任せてください」
「俺もお手伝い出来るよ」
茜とアリスの言葉にレイは笑った。タンっとエンターキーを押す。どうやらウイルスを打ち込んだらしい。どんどんプログラムがウイルスに食われていく。
「すげえ。どんどん消えてく」
茜もウイルスのバグを取りながら、動きを見守っていた。
「さて、とどめを刺さなければ」
✢✢✢
「待て!!」
「ほう、私に恐れずに来たか」
サルジは剣を抜き、切っ先を相手に向けた。
イブも低く構える。
相手は赤い薔薇の花弁がついた黒いドレスを着た女だった。
「私の邪魔をするとはいい度胸だな」
ドン!!とそばで爆発が起きた。どうやらそれが能力の一つらしい。だが、サルジもイブもそんなことでは怯まない。
「サルジ、覚えているか?」
イブとサルジが、ほぼ同時に走り出す。
「プランBか?」
「あぁ!」
イブがパチ、と指を鳴らすと、女を蔦で拘束する。
「小手先では私には敵わぬ」
だが、その間にサルジが走り込んでいる。
「たぁぁぁぁ!!!」
サルジの剣が相手の右肩を切り裂く。
「ぐ……!よくも!!!」
「まだだぜ」
イブは再び指を鳴らした。地面からズズと更に太い蔦が伸びて女をきつく捕らえる。
「離せ!!離せ!!」
「おいおい、本当なら気絶するレベルだぞ」
「イブ!油断するな!!」
サルジの言葉と同時に爆発がイブを包む。
「イブ!!」
サルジが叫んだが、イブの肉体は燃えている。
「ふふ、ふはははは!やはり私こそがさい…え?」
火柱は縮むように消えた。イブは傷一つ負っていない。
「俺に爆発は効かない。まあ知らなくて当たり前だとは思うけど」
イブは女に近付いた。
「な…なんだ!お前は!!」
「俺は普通の人間だぜ?あんたが力不足なんだろうさ」
イブは彼女の目の前で指を鳴らした。くたり、と女は意識を失う。
「イブ、何をした?」
「眠らせた」
「そ。そうか」
「イブ!!」
向こうから茜たちが走り寄ってくる。
「イブ!大丈夫?怪我してる!」
茜はイブの火傷に気が付いていた。
「茜は気が付くんだな」
「当たり前でしょう。ダヌキさん、救急車呼んで」
「は!」
「え、救急車になんか乗りたくない」
「イブ、そんな怪我で病院行かないとか先生にキレられるよ?」
「それは困るなぁ」
うーむ、とイブが真剣に悩んでいる間に救急車はやってきた。担架に乗るようにいわれて、イブは渋々横になる。茜たちも救急車に乗り込んだ。
火傷していると思われる場所を隊員によって冷やされる。
「もうイブってば無茶するんだから」
「だって…」
「だってじゃないの!」
その日のイブは病院に一晩、入院することになったのだった。
✢✢✢
茜とダヌキは早朝から病院に来ている。イブを迎えに来たのだ。イブは看護師に包帯を外されている。イブの火傷はほぼ完治していた。魔力量が多いと、このような恩恵が受けられるらしい。
「よかった、イブはかっこいいんだから」
「傷のある男も悪くないだろ?」
「場合によるかな?」
茜が首を傾げると、イブは笑った。
「さ、今日は祭りを楽しんで、千に土産を買って帰らないとな」
「ドタバタだったもんねー。あ…」
「茜?」
「神様たちがテロ組織の幹部丸ごと刑務所に入れといたよーって報告」
「さすが手が早い」
「帰る前にサルジさんに挨拶しなきゃね」
「そうするか」
茜、イブ、ダヌキは広場の様子を見に行った。爆発のあとは綺麗にされている。サルジたち騎士団の活躍だろう。
「あ、フルーツ飴食べる」
「いいぞ」
屋台で買い食いをしながら歩く。
そして最後にたどり着いたのはぜんまい工房という名の建物だった。
「ここでぜんまいの理由が分かるぞ」
「へー!あ、オルゴールがある!」
入り口に精巧な金色のオルゴールが置かれている。
「あぁ。千が好きな曲で作ってもらおう」
「何が好きかなー?やっぱりくーちゃん関連?ダヌキさん、知ってる?」
「は、お嬢様はよく冒険の歌を歌われています」
それにイブがさっと青ざめた。
「ま、まさか、一人で冒険に行く、とか言わないよな?」
「可愛い子には旅をってこうゆうことなんだね」
中に入ると、ぜんまいという部品についての歴史が書かれている。一番最初に発明された魔法道具が、ぜんまいの形をとっていたらしい。
「なるほどねー、分かりやすいなぁ」
「面白いですね」
「次元飛躍がもっとポピュラーになれば、魔法道具もぐっと増えるんだろうな」
展示もすっかり見終わり、館内のカフェでオルゴールの完成を待つことにした。
「おしゃれな内装だなー」
「ですね」
「ウチの猫カフェだって負けてないぞ」
こくり、とイブがコーヒーを一口飲む。茜もチョコレートパフェに取り掛かった。
「わ、パフェ美味しい」
「今度作ってみましょうか?」
「やった!」
無事、オルゴールを受け取り、茜たちは帰る支度を整えている。
「やぁ」
レイがこうして顔を出すのにも茜はすっかり慣れてきてしまっている。
「レイさん、アリスくんは?」
「あぁ、もうすぐ来るよ」
「お前が異次元に来るなんて、どういう風の吹き回しだ?」
ふふ、とレイが笑う。
「まぁ単純に気まぐれを起こしただけさ」
「お待たせしました!」
アリスがリュックサックを背負ってやってくる。
「アリス、ライアに住むつもりか?」
イブの言葉にアリスは頷いた。
「姉さんと暮らすことになったんです」
「昨日連絡が取れたんだよ」
よかった、と茜はホッとした。
「イブ!!貴様!また私を待たせて!!もはやこちらから出向いてやったぞ!」
「ありがとうな、サルジ」
「っ…!!」
サルジが真っ赤になって顔を背ける。
「ふん、私とて暇ではないんだ」
「あぁ。これからもお互い頑張ろうな」
サルジが不敵に笑う。
「貴様には負けんぞ、絶対にな!」
2人はがっしりと握手を交わした。
✢
ライア
「茜たち、帰ってくるね」
「はい。お土産楽しみですね!」
千とアリカは異次元飛躍装置の前にいた。ぱっと茜たちが現れる。途中で、レイとアリスとは別れていた。
「ただいまー、やっと帰ってこられた」
「茜!イブ!ダヌキお兄ちゃん!お帰りなさい!」
千が茜の太ももに抱き着いてくる。たった数日離れていただけなのに、茜は思わず泣いてしまった。
「千、よかった」
「茜、課題一つ終わったの」
千の得意げな表情が可愛らしい。
「本当に?すごいじゃない!」
「千様は努力されてますから」
「オルゴール、ある?」
「あるよー!もちろん!」
茜が白い小箱を荷物から取り出すと、千が目をキラキラさせながら受け取った。
「ありがとう!今日寝る時に流していい?」
「千の好きにしていい」
イブも頬が緩んでいる。
最後のぜんまい工房では現金しか使えなかったのだ。茜はイブからもらっていた金でオルゴール代を支払ったのだ。
「茜、これ見て」
茜が屈むと薄紫の花びらが入った栞だった。
「今度寄付するやつ」
「すごーい、綺麗だよ」
「千はセンスがあるな」
「あ、あのね!」
千が茜とイブを見つめてくる。
「ユキ、お祝いがしたかったの」
「お祝い?」
聞き返すと、うん、と千は頷いた。
「茜とイブが初めて会った日が今日なんだよ。だからお祝いなの!」
「よく知ってたな」
「そっか。今日だっけ」
「ね、お祝いにケーキを作ったから、皆で食べよう!」
「あぁ、皆でな!」
「皆でね!」
茜はそっとアリスのことを想うのだ。彼らにも幸せであって欲しいと。
おわり
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