153 / 168
153・温泉
しおりを挟む
茜は出掛けるための荷物を作っている。もちろん、これから神々の郷に向かうからだ。先程大きな声で泣いたおかげで目元が腫れ、声も掠れてしまっている。
「茜、だいじょうぶ?」
振り返ると困惑したような千がいた。こんなに小さな子に心配をかけてしまうとは、と情けなくなってしまう。茜が屈むと、千が抱き着いてきた。
「大丈夫だよ。これから皆で温泉に行くよ」
「おんせん…あ、お風呂?」
パアッと千の表情が明るくなる。
「ゆき、お風呂好き!イブもいるの?」
「うん。皆でお風呂に入ろうね」
「うん!」
荷物を作り終え、茜はお茶を淹れている。千はおもちゃで遊んでいるようだ。もともとおとなしい子である。あまりに静かなので茜が様子を見に行くと、しーと千に静かにというジェスチャーをされてしまう。
『くーちゃん眠ったの』
くーちゃんというのは千の一番お気に入りである犬のぬいぐるみだ。どうやら寝かしつけをしていたらしい。茜も小声で千に尋ねた。
『千、そろそろおやつにしない?くーちゃん起きちゃうかな?』
おやつというワードに千はバッと立ち上がった。
『くーちゃんの分も千が食べるから大丈夫』
茜は思い切り噴き出しそうになった。子供というのは面白いものである。
『じゃあ先に手洗いとうがいをしてきて』
『うん!』
小声で話すというのもなんだか不思議だなと茜はおかしくなってきた。まだ千が小さいからこそ成立している場面だ。千は足音を立てないように気を付けながら洗面台に向かった。茜はホールケーキをナイフで切り分けて皿に載せる。イブが買ってきてくれたものだ。どうやら、スタッフに美味しいとお勧めされたらしい。もちろん社員の分も買ってきたイブである。皆で美味しいと食べたのだ。茜もその時に一緒に食べたので、とりあえず千の分だけ用意した。ふっくらしたスポンジの間には大きく切られた白桃が挟まれている。もちろん上にもたっぷりと白桃が載っていた。
「わぁあ、おっきなケーキ!」
千がそう大声を上げて、ハッと手で口を押さえた。
『くーちゃん起きちゃった?』
千のその様子に、茜はまたも噴き出しそうになって、そっとくーちゃんの様子を窺ってこう返した。
『まだ眠ってるよ。くーちゃんの分もあるから大丈夫だよ』
『うん』
茜は千を抱き上げて、子供用の椅子に座らせた。
「フォークの練習、してみようか」
茜は子供用の小さいフォークを千に握らせる。まだボロボロこぼすが、少しずつ上達してきている。
「いただきます」
千は一口ケーキを食べて、ぱあっと笑顔になった。
「おいしー」
「良かったね、千」
「うん。お風呂はいつ行くの?」
「イブがお仕事から帰ってきてからだよ」
「わー、楽しみ!」
「楽しみだね」
茜は千が食べている様子を見守った。
「茜、だいじょうぶ?」
振り返ると困惑したような千がいた。こんなに小さな子に心配をかけてしまうとは、と情けなくなってしまう。茜が屈むと、千が抱き着いてきた。
「大丈夫だよ。これから皆で温泉に行くよ」
「おんせん…あ、お風呂?」
パアッと千の表情が明るくなる。
「ゆき、お風呂好き!イブもいるの?」
「うん。皆でお風呂に入ろうね」
「うん!」
荷物を作り終え、茜はお茶を淹れている。千はおもちゃで遊んでいるようだ。もともとおとなしい子である。あまりに静かなので茜が様子を見に行くと、しーと千に静かにというジェスチャーをされてしまう。
『くーちゃん眠ったの』
くーちゃんというのは千の一番お気に入りである犬のぬいぐるみだ。どうやら寝かしつけをしていたらしい。茜も小声で千に尋ねた。
『千、そろそろおやつにしない?くーちゃん起きちゃうかな?』
おやつというワードに千はバッと立ち上がった。
『くーちゃんの分も千が食べるから大丈夫』
茜は思い切り噴き出しそうになった。子供というのは面白いものである。
『じゃあ先に手洗いとうがいをしてきて』
『うん!』
小声で話すというのもなんだか不思議だなと茜はおかしくなってきた。まだ千が小さいからこそ成立している場面だ。千は足音を立てないように気を付けながら洗面台に向かった。茜はホールケーキをナイフで切り分けて皿に載せる。イブが買ってきてくれたものだ。どうやら、スタッフに美味しいとお勧めされたらしい。もちろん社員の分も買ってきたイブである。皆で美味しいと食べたのだ。茜もその時に一緒に食べたので、とりあえず千の分だけ用意した。ふっくらしたスポンジの間には大きく切られた白桃が挟まれている。もちろん上にもたっぷりと白桃が載っていた。
「わぁあ、おっきなケーキ!」
千がそう大声を上げて、ハッと手で口を押さえた。
『くーちゃん起きちゃった?』
千のその様子に、茜はまたも噴き出しそうになって、そっとくーちゃんの様子を窺ってこう返した。
『まだ眠ってるよ。くーちゃんの分もあるから大丈夫だよ』
『うん』
茜は千を抱き上げて、子供用の椅子に座らせた。
「フォークの練習、してみようか」
茜は子供用の小さいフォークを千に握らせる。まだボロボロこぼすが、少しずつ上達してきている。
「いただきます」
千は一口ケーキを食べて、ぱあっと笑顔になった。
「おいしー」
「良かったね、千」
「うん。お風呂はいつ行くの?」
「イブがお仕事から帰ってきてからだよ」
「わー、楽しみ!」
「楽しみだね」
茜は千が食べている様子を見守った。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
好きな人の婚約者を探しています
迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼
*全12話+後日談1話
その溺愛は伝わりづらい
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで
なの
BL
オメガで生まれなければよかった…そしたら人の人生が狂うことも、それに翻弄されて生きることもなかったのに…絶対に僕の人生も違っていただろう。やっぱりオメガになんて生まれなければよかった…
今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そして今度こそ、今度こそ幸せになりたい。
幸せになりたいと願ったオメガと辛い過去を引きずって生きてるアルファ…ある場所で出会い幸せを掴むまでのお話。
R18の場面には*を付けます。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜
赤牙
BL
ある日、森の奥に仕掛けていた罠を確認しに行くと捕獲網に大きなお兄さんが捕まっていた……。
記憶を無くし頭に傷を負ったお兄さんの世話をしたら、どういう訳か懐かれてしまい、いつの間にか僕はお兄さんのご主人様になってしまう……。
森で捕まえた謎の大きなお兄さん×頑張り屋の少年奴隷
大きな問題を抱える奴隷少年に、記憶を無くした謎のスパダリお兄さんが手を差し伸べるお話です。
珍しくR指定ありません(^^)←
もし、追加する場合は表記変更と告知します〜!
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…
金剛@キット
BL
家族を亡くしたばかりのクルシジョ子爵家のアルセΩは、学園で従弟に悪いうわさ話を流されて、婚約者と友人を失った。 味方が誰もいない学園で、アルセはうわさ話を信じる不良学園生から嫌がらせを受け、強姦されそうになる。学園を訪れていた竜の血をひくグラーシア公爵エスパーダαが、暴行を受けるアルセを見つけ止めに入った。 …暴行の傷が癒え、学園生活に復帰しようとしたアルセに『お前の嫁ぎ先が決まった』と、叔父に突然言い渡される。 だが自分が嫁ぐ相手が誰かを知り、アルセは絶望し自暴自棄になる。
そんな時に自分を救ってくれたエスパーダと再会する。 望まない相手に嫁がされそうになったアルセは、エスパーダに契約結婚を持ちかけられ承諾する。 この時アルセは知らなかった。 グラーシア公爵エスパーダは社交界で、呪われた血筋の狂戦士と呼ばれていることを……。
😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。どうかご容赦を!
😨暴力的な描写、血生臭い騎士同士の戦闘、殺人の描写があります。流血場面が苦手な方はご注意を!
😍後半エロが濃厚となります!嫌いな方はご注意を!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる