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87・手当
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「ん…っ…」
茜は痛みを堪えた。麻酔の注射を両手の指に刺される。麻酔がこれほど痛いものとは思わなかった。茜は歯を食いしばってなんとか堪える。
「大丈夫。これから縫うからね」
レイが静かに言うので茜は黙って頷いた。レイはスルスルと器用に傷口を縫ってくれた。
「かなり深い傷だったよ。しばらく安静にね」
「はい。あの、レイさん」
「なんだい?」
「本当に助かりました。じゃなかったら俺…」
今更恐怖が茜の心身に襲い掛かってくる。無意識の内に涙があふれてくる。つ、と頰を涙がつたうのをレイが指で拭ってくれた。
「君は自分を守った。だから僕が助けに入れたんだ。君はよくやった」
「茜!!」
イブが駆け寄ってくる。茜はイブの胸に飛び込んでいた。
「お前、怪我してるじゃねえか」
「うん。刀身を持ったからね」
イブにきつく抱き締められる。
「ごめんな、茜。肝心な時に助けてやれなかった」
「イブ…」
イブがレイを見つめる。
「茜を助けてくれたのか?」
レイは首を横に振る。
「僕は千里と一緒にここに戻ってきただけだよ。たまたまだ」
茜は千里の様子を見つめた。彼女は人形のように佇んでいる。
「レイさん、千里は?」
茜が尋ねると、レイは千里の髪の毛を撫でた。千里は微動だにしない。
「彼女の体はほとんど作り物だ。今はこの中にいない。多分ネットワーク上を漂流している。僕に出来たのは彼女のバグを消すことだった。茜、千里が気になるのかい?」
茜はイブを見上げた。イブに頷かれる。
「はい。千里の行動がバグが原因なら彼女を助けたい」
レイは目を瞠った。そして笑う。
「茜、君は可愛い子だね。大好きになりそうだ」
レイの言葉に、イブが前に出る。
「イブ、大きくなったね」
ふふ、とレイが穏やかに笑う。
「レイ、茜にちょっかい出したらいくらお前でも許さないからな」
(2人は知り合いなの?)
茜はそう疑問に思ったが黙っていた。
「茜、とりあえずホテルに戻ろう」
そういえばここはどこなんだろうと茜は今更ながらに思った。イブの右腕にひょいと担がれてしまう。
「ねぇイブ、ここどこなの?」
「ここは次元の狭間だ。次元と次元を繋ぐトンネルって言ったら分かりやすいか?」
「うん、なんとなく分かった…かも」
ぎゅ、とイブの首に抱き着くと、頭を撫でられた。
✢✢✢
ベルベルトホテル内―
「どうしよう…」
その日の夜、茜は一人狼狽えていた。いつものように風呂に入ろうとして、服を脱ぎ始めてから気が付いたのだ。両手が使えない。
「茜、風呂か?」
茜の声を聞きつけたのかイブがやってくる。
「さっきご飯だってダヌキさんに食べさせてもらったばっかりなのに、もう忘れてるし」
ダヌキは茜にひれ伏しながら謝った。ダヌキのせいではないと茜は言ったのだが、彼はこれから、もっと鍛錬すると言っていた。イブが茜の服に手をかける。
「俺が洗ってやる。大丈夫、すけべなサービスも込みだぞ」
「それはお断りいたします」
かああと顔が赤くなったのをイブが見逃してくれるはずがなかった。
茜は痛みを堪えた。麻酔の注射を両手の指に刺される。麻酔がこれほど痛いものとは思わなかった。茜は歯を食いしばってなんとか堪える。
「大丈夫。これから縫うからね」
レイが静かに言うので茜は黙って頷いた。レイはスルスルと器用に傷口を縫ってくれた。
「かなり深い傷だったよ。しばらく安静にね」
「はい。あの、レイさん」
「なんだい?」
「本当に助かりました。じゃなかったら俺…」
今更恐怖が茜の心身に襲い掛かってくる。無意識の内に涙があふれてくる。つ、と頰を涙がつたうのをレイが指で拭ってくれた。
「君は自分を守った。だから僕が助けに入れたんだ。君はよくやった」
「茜!!」
イブが駆け寄ってくる。茜はイブの胸に飛び込んでいた。
「お前、怪我してるじゃねえか」
「うん。刀身を持ったからね」
イブにきつく抱き締められる。
「ごめんな、茜。肝心な時に助けてやれなかった」
「イブ…」
イブがレイを見つめる。
「茜を助けてくれたのか?」
レイは首を横に振る。
「僕は千里と一緒にここに戻ってきただけだよ。たまたまだ」
茜は千里の様子を見つめた。彼女は人形のように佇んでいる。
「レイさん、千里は?」
茜が尋ねると、レイは千里の髪の毛を撫でた。千里は微動だにしない。
「彼女の体はほとんど作り物だ。今はこの中にいない。多分ネットワーク上を漂流している。僕に出来たのは彼女のバグを消すことだった。茜、千里が気になるのかい?」
茜はイブを見上げた。イブに頷かれる。
「はい。千里の行動がバグが原因なら彼女を助けたい」
レイは目を瞠った。そして笑う。
「茜、君は可愛い子だね。大好きになりそうだ」
レイの言葉に、イブが前に出る。
「イブ、大きくなったね」
ふふ、とレイが穏やかに笑う。
「レイ、茜にちょっかい出したらいくらお前でも許さないからな」
(2人は知り合いなの?)
茜はそう疑問に思ったが黙っていた。
「茜、とりあえずホテルに戻ろう」
そういえばここはどこなんだろうと茜は今更ながらに思った。イブの右腕にひょいと担がれてしまう。
「ねぇイブ、ここどこなの?」
「ここは次元の狭間だ。次元と次元を繋ぐトンネルって言ったら分かりやすいか?」
「うん、なんとなく分かった…かも」
ぎゅ、とイブの首に抱き着くと、頭を撫でられた。
✢✢✢
ベルベルトホテル内―
「どうしよう…」
その日の夜、茜は一人狼狽えていた。いつものように風呂に入ろうとして、服を脱ぎ始めてから気が付いたのだ。両手が使えない。
「茜、風呂か?」
茜の声を聞きつけたのかイブがやってくる。
「さっきご飯だってダヌキさんに食べさせてもらったばっかりなのに、もう忘れてるし」
ダヌキは茜にひれ伏しながら謝った。ダヌキのせいではないと茜は言ったのだが、彼はこれから、もっと鍛錬すると言っていた。イブが茜の服に手をかける。
「俺が洗ってやる。大丈夫、すけべなサービスも込みだぞ」
「それはお断りいたします」
かああと顔が赤くなったのをイブが見逃してくれるはずがなかった。
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