優秀アルファは子供を授かりたい！〜異次元猫カフェで遊びませんか？〜

86・千里の憂鬱

千里はある場所にいる。アダムも知らない豊かな水を湛えた神殿だ。ここでは水が流れる音しかしない。千里はここで、ぼんやりと考え事をするのが好きだった。最近の千里はほとんどここにいる。

（あたし、なんだか最近変。上手く力を制御できていない？）

千里は自身をくまなく分析したが理由が分からない。

「なんだか変だなって感じているようだね」

急に声を掛けられ、千里は慌てて振り返った。だが、相手は姿を見せない。

「千里」

「うぐっ…」

名前を呼ばれて、千里は頭を抑えた。色々な映像が流れ込んでくる。千里はふらふらとして、その場に倒れ込んだ。

「う…」

千里が気が付くとなんだか頭がスッキリしていた。久しぶりの感覚だ。

「あたしは…一体」

「千里」

千里は顔を上げた。

✢✢✢

「ぐ…」

茜は縛られて床に転がされていた。アダムに髪の毛を掴まれ引っ張られる。

「ようやく茜を捕まえたのに、なんで千里が来ないんだよ！！」

アダムに耳元で叫ばれて茜は耳鳴りに耐えた。

「おい、神々をこいつに降ろす準備をしろ」

アダムが黒ずくめたちに命令する。

「ですが、アダム様！神々を降ろすには千里様の力がなければ！」

「俺がやる、早くしろ」

「は」

（どうしよう。このままじゃ、俺ごと神々が殺されちゃう）

だが喋ることも許されていない。茜は自分に落ち着けと言い聞かせた。どうやら千里はここにいないらしい。それはある意味好機である。付け入るならここしかないと茜は必死にチャンスを窺った。黒ずくめたちが用意した物、それは水瓶と何やら怪しげな鏡だった。

「いいか、変なことは考えるな。俺たちに従え」

茜はこくりと頷いてみせた。縄を解かれる。アダムがすらりと剣を抜き、茜の首元に当てた。おそらくこれが神殺しの刀だろう。

「神々を降ろせ。早くしろ」

茜は目を閉じ、祈った。九尾、テラ、リーネが宿るのを感じる。そして残りの6体の神々が茜の祈りに応えてくれた。

『今じゃ』

茜は刀剣を両手で掴んだ。ぶしゃ、と指から血が噴き出す。アダムは茜の行動に明らかに驚いている。茜はアダムを投げ飛ばしていた。

「く、くそ、お前ら！早く茜を取り押さえろ！」

「無駄だよ」

現れたのはローブ姿の黒髪の青年だった。千里が彼のそばで瞳を閉じて立ち尽くしている。

「千里！何してる！早く茜を」

千里が瞳を開ける。その目にはもう意思は見られなかった。彼女が手を上げるとアダムやくろずくめたちを縛り上げる。

「ぐっ…千里様！なんで！！」

「千里は僕たちの味方になってくれた。OSに負荷がかかっていたからね。それを取り除いたんだ」

「千里！」

アダムが叫ぶが千里は反応しなかった。

「茜、といったね？酷い傷だ。早く手当をしなければ」

「あなたは？」

「そうか、名乗っていなかったね。僕はレイ。アリカたちの産みの親さ」