上 下
82 / 168

82・歴史シミュレーター

しおりを挟む
「んしょ」

今は早朝七時である。茜は起き上がり、伸びをしていた。ベッドは広く寝心地抜群である。

「おはよう、茜」

「きゅー」

「おはよう、九尾様、テラ様」

朝食はレストランでバイキングということで、茜は張り切っている。無料なのだが、元を取ろうという謎の気合いである。茜は寝巻きから着替えた。もちろんイブ指定の服装である。

「化粧もせい」

「はーい」

九尾には毎日こう促される。茜は化粧品の入ったポーチを取り出し、化粧をした。

「うむ、茜は今日も可愛いの」

「ありがとう、九尾様。じゃ、行ってきます」

茜はレストランに向かった。

「茜様!!良かった!」

「ダヌキさん?」

ダヌキが駆け寄ってくる。

「社長に言われて慌てて追いかけて来たんです。ご無事で良かった」

「わざわざ来てくれたの?ありがとう!」

「はい、本当ならこの船全域に警備隊を置きたいくらいですが」

「それはやり過ぎ…かな?とりあえず朝ご飯を食べに行かない?」

「お供いたします」

バイキングはありとあらゆるおかずが並んでいた。

「朝はやっぱり白米でしょー。パンも好きだけど」

「同感です」

朝食を堪能した茜である。その後は細々とした仕事をこなし、いよいよシミュレーターの予約時間になった。

「俺はここでお待ちしています」

「分かった。行ってきます!」

茜はワクワクしながら施設内に入った。体感型のアトラクションのようで、子供から大人まで楽しめるらしい。茜は椅子に座り、ごついゴーグルを嵌めた。いよいよ始まるのか、照明がゆっくりと明度を落としていく。

✢✢✢

ブーとブザーが鳴り、茜が座っていた席の安全バーが降りた。席がぐらりと揺れ、ふわりと上昇する。そんな中、ナレーションが流れ始める。

「この星、ガイヤは今より70億年程前に急激なビッグバンを受けて生まれました。ガイヤには豊かな水、そして生命が生まれるための条件が奇跡的に重なっていました」

目の前にガイヤと思われる惑星が浮かび上がって見える。地球によく似た惑星だ。茜はその惑星をじっと見つめた。大陸の一部があやふやなのだ。なんだろう、と茜は考えたが分かるはずもない。

「この星、ガイヤには9人の神々がいたと記録が残っています。彼らは絶大な魔力を持ち、人類や他の生物の進化を助けました。現在では動物の姿となり、広く言い伝えられています」

ナレーションは現在のガイヤの自然環境や社会の流れを説明してくれた。

「以上で今回のプログラムを終了致します」

座席が定位置に戻る。安全バーが上がった。茜が外に出るとダヌキが子供たちに囲まれている。

「お兄ちゃん、迷子なの?」

「呼んであげようか?アナウンスがあるんだよ」

「いや、迷子じゃないぞ。人を待っているんだ」

「それが迷子じゃん」

茜はそのやりとりを見ながらダヌキに近付いた。

「ダヌキさん、お待たせ」

「茜様!」

「お兄ちゃん、奥さんいたんだ!」

「美人ー!」

子供たちがわいわい騒いでいる。茜は屈んだ。

「ダヌキさんの心配してくれてありがとう」

茜が笑うと子供たちは照れくさそうにはにかむ。

「じゃあまたね!」

親が来たのか子供たちは走って行った。

「ダヌキさん、子供ウケめちゃくちゃいいね」

「たまたまですよ。俺はどちらかと言えば強面ですし」

「そうかなぁ?」

「そうなんですって!」

茜は笑った。その瞬間船が揺らぐ。

「わわ!」

「茜様!!」

ダヌキが茜を抱き留めてくれた。

「茜!前へ行くぞ!」

九尾が走ってくる。茜とダヌキは操舵室のある前方に急いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの
BL
オメガで生まれなければよかった…そしたら人の人生が狂うことも、それに翻弄されて生きることもなかったのに…絶対に僕の人生も違っていただろう。やっぱりオメガになんて生まれなければよかった… 今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そして今度こそ、今度こそ幸せになりたい。  幸せになりたいと願ったオメガと辛い過去を引きずって生きてるアルファ…ある場所で出会い幸せを掴むまでのお話。 R18の場面には*を付けます。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

奴隷の僕がご主人様に!? 〜森の奥で大きなお兄さんを捕まえました〜

赤牙
BL
ある日、森の奥に仕掛けていた罠を確認しに行くと捕獲網に大きなお兄さんが捕まっていた……。 記憶を無くし頭に傷を負ったお兄さんの世話をしたら、どういう訳か懐かれてしまい、いつの間にか僕はお兄さんのご主人様になってしまう……。 森で捕まえた謎の大きなお兄さん×頑張り屋の少年奴隷 大きな問題を抱える奴隷少年に、記憶を無くした謎のスパダリお兄さんが手を差し伸べるお話です。 珍しくR指定ありません(^^)← もし、追加する場合は表記変更と告知します〜!

好きな人の婚約者を探しています

迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼 *全12話+後日談1話

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

その溺愛は伝わりづらい

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...