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71・ルッカ寺院
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「うぅ…」
茜が寺院内に入ると、司祭と思しき男性が両手足を縛り上げられていた。口にも猿ぐつわのように布を噛まされている。
「大丈夫ですか!」
茜は周りに誰もいないことを確認し、司祭に近寄り縛られていた手足を解放した。
「助かりました。そうだ、テラ様!」
司祭が慌てて建物の奥に向かう。茜もその後に続いた。そこには人影があった。さらにその奥に祭壇がある。
「お前たち!テラ様から離れろ!!」
司祭が声を張り上げる。
「あら、司祭様ったら乱暴ね」
黒いワンピースを着た赤髪の女が嘲るように笑う。
「姐さん、やっちまいますか?」
大柄な男が2人。女が笑った。
「いいのよ、目的は果たしたからね。じゃあまたね」
一瞬で気配が消える。
「あぁ!テラ様!!」
司祭が縋るように祭壇に向かった。そこには何も無い。
「まさか、アレクサンダーの防御壁を突破してくるなんて」
「司祭様、ここに何か痕跡が残っていないか見てもいいですか?」
茜の言葉に司祭は一瞬、ぽかんとして構わないと言ってきた。彼は警察に行ってくると一言残して出ていった。残された茜は祭壇を見つめた。祭壇はぽやんと青白い灯りがともったように見える。茜が思い切って祭壇の方に手を伸ばすと、何か濡れたものがある。茜はそれを掴んだ。
「きゅ?」
茜が掴んだのは小さい亀だった。茜を見つめて首を傾げている。
「あなたがテラ様?」
茜の問に、亀は答えなかった。
(九尾様なら、なにか分かるかも)
「茜、司祭が慌てて出て来たから驚いたぞ」
九尾が尾を揺らしながら悠然とやってくる。チェイカは背中に乗っているようだ。どうやら眠っているらしい。先程の戦いで力を使い果たしたのだろう。
「九尾様、この子は?」
茜が手の平に乗せた小さな亀を示すと九尾が笑う。
「ほう、さすがテラ。年の功じゃな」
「どうゆうこと?」
九尾の言葉の意味を捉えかねて、茜は尋ねた。
「テラは後継をこの子に託した。すんでに判断したのが良かったな」
「じゃあテラ様は?」
「この子になる。先代は老いぼれのただの亀よ。やつらもこのことにすぐ気が付くだろうが、我らの方が一歩早い。好機じゃ」
どうやら思っていたような恐ろしいことが起きていないということが分かり、茜はホッとしていた。
「俺に出来ること、なにかある?」
「うーむ。やはり例のあれくさんだぁとやらに会わなくてはなぁ」
そこでアレクサンダーが出てくるのかと、茜が驚いていると、チェイカがむくりと起き上がった。
「茜!!大丈夫?僕、また寝ちゃったんだ…う」
チェイカが顔を歪める。
「目眩がするのか?王子」
「うん、なんかあいつら変だった。人間にしては考えがないっていうか、倒した時に黒い靄が出たんだ」
「ふむ…とりあえず王子を城まで送ろう。お前はもう休んだ方が良い」
「えぇー!」
「チェイカ様、俺もその方がいいと思うよ」
「茜がそう言うなら仕方ないなぁ」
チェイカが唇を尖らせる。
「では参るかの。茜、お前も背に乗れ」
「え!九尾様に?」
「遠慮するな」
「では」
九尾の背は思っていた通り、ふかふかだった。
茜が寺院内に入ると、司祭と思しき男性が両手足を縛り上げられていた。口にも猿ぐつわのように布を噛まされている。
「大丈夫ですか!」
茜は周りに誰もいないことを確認し、司祭に近寄り縛られていた手足を解放した。
「助かりました。そうだ、テラ様!」
司祭が慌てて建物の奥に向かう。茜もその後に続いた。そこには人影があった。さらにその奥に祭壇がある。
「お前たち!テラ様から離れろ!!」
司祭が声を張り上げる。
「あら、司祭様ったら乱暴ね」
黒いワンピースを着た赤髪の女が嘲るように笑う。
「姐さん、やっちまいますか?」
大柄な男が2人。女が笑った。
「いいのよ、目的は果たしたからね。じゃあまたね」
一瞬で気配が消える。
「あぁ!テラ様!!」
司祭が縋るように祭壇に向かった。そこには何も無い。
「まさか、アレクサンダーの防御壁を突破してくるなんて」
「司祭様、ここに何か痕跡が残っていないか見てもいいですか?」
茜の言葉に司祭は一瞬、ぽかんとして構わないと言ってきた。彼は警察に行ってくると一言残して出ていった。残された茜は祭壇を見つめた。祭壇はぽやんと青白い灯りがともったように見える。茜が思い切って祭壇の方に手を伸ばすと、何か濡れたものがある。茜はそれを掴んだ。
「きゅ?」
茜が掴んだのは小さい亀だった。茜を見つめて首を傾げている。
「あなたがテラ様?」
茜の問に、亀は答えなかった。
(九尾様なら、なにか分かるかも)
「茜、司祭が慌てて出て来たから驚いたぞ」
九尾が尾を揺らしながら悠然とやってくる。チェイカは背中に乗っているようだ。どうやら眠っているらしい。先程の戦いで力を使い果たしたのだろう。
「九尾様、この子は?」
茜が手の平に乗せた小さな亀を示すと九尾が笑う。
「ほう、さすがテラ。年の功じゃな」
「どうゆうこと?」
九尾の言葉の意味を捉えかねて、茜は尋ねた。
「テラは後継をこの子に託した。すんでに判断したのが良かったな」
「じゃあテラ様は?」
「この子になる。先代は老いぼれのただの亀よ。やつらもこのことにすぐ気が付くだろうが、我らの方が一歩早い。好機じゃ」
どうやら思っていたような恐ろしいことが起きていないということが分かり、茜はホッとしていた。
「俺に出来ること、なにかある?」
「うーむ。やはり例のあれくさんだぁとやらに会わなくてはなぁ」
そこでアレクサンダーが出てくるのかと、茜が驚いていると、チェイカがむくりと起き上がった。
「茜!!大丈夫?僕、また寝ちゃったんだ…う」
チェイカが顔を歪める。
「目眩がするのか?王子」
「うん、なんかあいつら変だった。人間にしては考えがないっていうか、倒した時に黒い靄が出たんだ」
「ふむ…とりあえず王子を城まで送ろう。お前はもう休んだ方が良い」
「えぇー!」
「チェイカ様、俺もその方がいいと思うよ」
「茜がそう言うなら仕方ないなぁ」
チェイカが唇を尖らせる。
「では参るかの。茜、お前も背に乗れ」
「え!九尾様に?」
「遠慮するな」
「では」
九尾の背は思っていた通り、ふかふかだった。
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