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35・帰国

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あの後、アリカはすぐ修理に回された。どうやら見たこともないウイルスが入れられたらしく、回復まで時間がかかるらしい。

「千里は一体何を企んでいるんだ?」

イブの言葉にサアヤはふむ、と顎に手を当てた。

「私が思うに、単純な破壊衝動だと思うよ」

「壊してどうなるってんだ?やり返されるかもしれないのに。ウイルスを注入する際に接触するはずだ」

いや、とサアヤは首を振った。

「自らをも破壊したいのかもしれないよ」

「自らを?」

茜は急に怖くなった。千里はまともじゃないと思ったからだ。

「大丈夫だ。アリカのバックアップならカリアが所有している。出来る限り千里の痕跡を探してみよう。今はそれしか手がかりがないからね」

「サアヤ、悪いが頼むぞ」

「あぁ、最初からそのつもりだったしな。茜殿の顔も見られて嬉しかったよ。二人共、息災でな」

「サアヤさん、ありがとうございます」

「茜殿、イブを頼むぞ」

サアヤが手を差し出してきたので、茜は握り返した。サアヤがにっこり笑って顔を近付けてきた。

「またサスナに来て欲しい。茜殿には私のプロジェクトに参加して欲しいんだ」

「プロジェクト?俺でいいなら参加します」

「ふふ、楽しみにしているよ」

どうやらサアヤは今、内容を話すつもりはないらしい。

「茜、行くぞ」

「うん」

茜はサアヤに会釈して、サスナの城を出た。

「あいつ、変わらねえな」

ふう、と息を吐くイブに、ダヌキが慌てた様子で言う。

「ひ、姫君は公式の場ではちゃんと服を着ていらっしゃいますよ」

「当たり前だろう、それは。まあ、その方があいつらしいけどな」

「ふふっ…」

茜は思わず噴き出してしまった。

「茜、笑ってる場合じゃないぞ」

やれやれ、とイブに肩をすくめられる。

「ふ、だって、なんか漫才みたいで…ふふ」

「だってさ、ダヌキ」

「夫婦漫才なら茜様の方が適任かと!」

ダヌキの真剣そうな声に茜は更に笑ってしまった。

「おい、ダヌキ。茜のツボを抉るんじゃない」

「も、申し訳ありません!」

「っはぁ、はぁ、笑い過ぎた…」

「茜、飯食ったらライアに帰るぞ」

「うん」

茜は飛行機に乗っている。ビジネスクラスでももう怯まない。思い返せば、サスナでは色々なことが起きた。

(帰ったらみんなにただいまって言わなくちゃ)

茜はヘッドホンを装着し、椅子を倒して目を閉じたのだった。

✢✢✢

「お帰りなさいませ!」

ライアのタワーマンションに着くなり、ミスターポテトが出迎えてくれた。

「茜様!お体は大丈夫ですか!!」

自分が誘拐されたことをイブの側近は知っているとイブから聞いていた。

「うん、心配かけてごめんなさい」

「とんでもありません。一応診察を受けましょう」

「え!」

「茜、そうしてもらえ」

イブに言われれば断れるはずもなく、茜は渋々だが頷いた。

猫のフロアに向かうと猫たちがリラックスして寝そべっている。いつの間にか猫同士、仲良くなったらしい。

「みんな、元気だった?」

茜が近付くとお腹を見せる子もいた。撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。その姿は愛おしいという言葉に尽きる。

「茜様!猫さんの写真を撮るのはいつにしましょうか!」

「カフェの宣伝もすぐ出来るよう準備しています!」

いよいよ猫カフェ開店に向けて動き出せる。茜は確信したのだった。
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