上 下
19 / 21
5

月の女神

しおりを挟む
「わあ、ここが月の中かあ」

アイカとレイが階段から一歩、月の中に踏み込むと、銀色の空間が広がっていた。
誰か中にいるかと思ったがそこは、しんと静まり返っている。

「だあれえ?あたしは今忙しいの!」

こんな声が聞こえてくる。若い女性の声だった。

アイカとレイはその声を頼りに先に進んだ。

「ふー、お風呂上がりのアイスって美味しいー」

ソファに座って寛いでいたのは、寝る支度を整えた若い女性だった。
二人はそれに困って、遠くの方から彼女に声を掛けた。

「あのー、月の女神様ですかー?」

「そうだけど、もうあたし働くの嫌になっちゃったのよねえ。そんなところにいないでこっちに入ってきなさいよ」

二人はその言葉に従うことにする。二人は先にそれぞれ自己紹介をした。

「なに?あんた達、ルフのじーさんに言われてここまで来たワケ?」

「は、はい」

はーと彼女は嫌そうに息をついて、持っていた棒アイスにかぶりついた。

「アイスって美味しいー」

どうやら彼女の現実逃避が始まってしまったらしい。

「さてと、寝るかあ」

くああと月の女神があくびをしている。
二人はそれを必死に止めた。

「なによ、邪魔しないでよね」

「月の女神の仕事はこれからじゃないのか?」

レイの言葉に月の女神は明らかにむすっとしてみせた。

「なによ、ちょっとイケメンだからってあたしに命令するつもり?」

「いや、そうじゃなくて」

「女神様、なんでお仕事が嫌になっちゃったの?」

アイカが尋ねると、女神はうーんと腕を組んで考え始めた。

「月の仕事ってとにかく超ハードなの。潮の満ち引きってあるでしょ?
あれ全部手動なんだよ。あたしがバランスを見て潮位を動かしてるんだから」

「そうだったんだ」

アイカが驚くと女神が笑い出す。

「え、知らなかったの?やば!」

「知りませんでした。大変なお仕事なんですね」

「あんたみたいな兎がしょっちゅう餅つきに来るわよ」

「ええ?」

「わあ、皆意外と知らないんだねえ。あたしの中では常識だと思ってた」

女神がどこからかお茶を出してすすっている。

「うーん、ここまで認知されていない仕事だったとは」

女神の言葉にアイカとレイはハラハラしていた。
女神の仕事に対するモチベーションが下がっていると感じていたからだ。

「仕方ない、このあたしが頑張って女神業を世の中に広めますか」

「?!」

二人は驚いて女神を見つめた。

「何よ、あたしの顔になにか付いてる?」

「いえ、てっきり女神をやめるって言うかと思って」

レイがおずおず言うと女神は笑った。

「あたし、ガッツだけは自信あるのよね」

「頑張って、女神様」

アイカが応援すると女神がふふんと得意げに笑って見せた。

「後ね、あたしの名前はルミナスよ!
さ、楽しくなってきたわー!」

どうやらルミナスはやる気になってくれたらしい。アイカとレイはホッと息をついたのだった。

「ねえ、二人とも。あんた達、付き合ってんの?」

二人は頷いた。

「ならあんた達がずっと一緒にいられる様に祈るわ。ルフはあたしにそれをさせたくて、あんた達を呼んだのね。
一応あたしは上位の神に分類されるし、ルフのじーさんもいいとこあるのね」

「ありがとう、ルミナスさん」

「たまにはここに遊びに来てよね!」

「はい、また来ます」 

二人が階段を降りると既に朝だった。

「む…どうやら上手く行ったようじゃな。よくやったぞ」

ルフがそう言いながら伸びをしている。ルフはいつも通りマイペースだ。

「さあ、レイ。お主の祖母とやらの家に行くかの。お主らは疲れておる。休んだ方が良い」

再びルフの背中に二人は乗った。
ルフに言われて気が付いたが、徹夜だったのは間違いない。
いろいろなことがあった。
レイの祖母の家に着いた二人は挨拶もそこそこに布団に入ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

みどりとあおとあお

うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。 ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。 モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。 そんな碧の物語です。 短編。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...