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寝る前に

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レイはテントを張るのも上手だった。
焚き火の限られた光の中、一人であっさりとテントを組み上げてしまう。

「レイはなんでも上手なんだね!」

アイカがそう褒めたらレイはふい、とアイカから視線を反らした。

「アイカは俺の全部を褒めてくれるんだな」

その言葉でレイが照れているのだと分かり、アイカは笑った。テントは二人用だった。
サムズから借りた寝袋にくるまると暖かい。
テントの中をランタンで照らしている。

「アイカ、眠れそうか?」

レイに尋ねられてアイカは笑った。

「うん、お腹いっぱいだしここ暖かいもん!」

「よかった。アイカ、さっきはごめん」

レイは先程のことをまだ後悔しているようだ。
アイカはそれに膨れた。

「俺のファーストキスを奪ったんだから責任取ってよね!」

「あ…あぁ!」

アイカはレイに笑って見せた。

「俺のお母さんさ、俺が産まれた時に難産で死んじゃったんだって。他の兄弟も一緒に」

「それは辛いな…」

「父さんは赤ん坊の俺を置いていなくなっちゃったんだよ。俺の耳、長さが違うからどうせこの先、生き残れないだろうって。そのすぐ後に父さん、死んだみたいでさ」

「…」


レイは黙っていた。アイカは敢えて明るい声を出した。

「でも俺はこうしてぴんぴんしてるし!
だからレイの呪いだってなんとかなるよ!」

「アイカは強いな」

「レイの方こそ」

二人は手を握り合う。

「アイカ、巻き込んでごめん」

「先に巻き込んだのは俺だよ」

「明日はレナさんから話を聞いてみよう」

「うん!」

レイがランタンの灯りを消す。

二人は手を握り合ったまま眠りに就いた。

✢✢✢

「…イカ…アイカ」

アイカが目を覚ますとレイが自分を揺すっていた。何かあったのだろうかと心配になり、アイカは飛び起きた。

「朝ご飯ができた…早く食べないと、やつに食べられる」

アイカがテントから出ると小さな狼が火の前で座って寛いでいた。
まるで自分の家かのような振る舞いにアイカは脱力してしまった。
アイカが近寄るとこちらに寄ってくる。

「俺を餌だと思ってるのかな?」

「アイカには何があっても手出しさせない」

ふざけて聞いてみたのだが、レイが本気で返してきたので、アイカは笑いを堪えるのに精一杯だった。だがそれがとても嬉しい。
アイカは自分の気持ちに気が付いていた。

(俺、レイと恋人になりたいんだ)

「はい、お前にもあげるよ」

アイカは自分の分を半分残して、狼の前に皿を置いてやった。
狼はそれにがっついている。

「お腹空いてたんだね」

アイカ達、獣人と獣の間には大きな隔たりがある。そのことについて研究する機関もあるくらいだ。
獣を獣人化出来ないか、などという研究もあるらしい。

「アイカ、よかったのか?」

「こんな小さい子、放っておけないよ。レイはちゃんと食べてね」

「ありがとう、アイカ」

二人は出掛ける支度を整えた。

「行こう」

満月まで残り3日だ。
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