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ポックル村
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サク、サクとレイが歩くたびに足音が鳴る。
もう春先とはいえ、このあたりには雪がある。
「レイ、俺重たくない?」
「いや、重たくはないけど靴を間違えた。だんだん靴の中が濡れてきた」
レイが困ったように言う。
彼は革靴を履いていた。雪が靴に染み込んできても無理はない。
アイカはそれになんだかおかしくなった。
レイの人となりが見えたような気がしたからだ。
「雪なんて久しぶりに見る」
レイが辺りを見回しながら言う。
「レイはどこから来たの?」
「あぁ。俺はカーヤ城下から来た」
「え…そこってすごい都会じゃない」
レイが笑う。
「アイカはカーヤに行ったことはあるか?」
「んー、覚えてないなぁ」
「アイカが良ければ今度案内する」
「うん!」
レイの言葉が嬉しくてアイカは笑った。
社交辞令だとしても嬉しかった。
アイカの案内に従ってレイは歩いていく。
「村だ」
レイが呟く。ポックル村がようやく姿を見せた。
「ねえ、レイ。このまま君が村に入ると皆がびっくりしちゃう。僕が先に入って村長さんに聞いてくるよ」
「あぁ。俺も村人たちに無用な心配をさせたくない。そうしてもらうと助かる」
レイの背中からアイカは降りた。
「すぐ行ってくるからね!」
アイカは村に走って行った。
村長の家は村の一番奥にある。
アイカは扉をノックした。
「村長さん!いるー?」
「おう、アイカか。入って来い」
アイカは中に勢いよく入った。村長はヤギだ。お茶を飲んでいたらしい。
「あのね、今、狼さんが来てるの。レイっていう名前なんだけど」
アイカの言葉に村長は目を閉じた。
「そうか。ついに王子が来なすったか」
村長の言葉が分からず、アイカは首を傾げた。
村長はアイカをじっと見た。
「アイカ。連れて来なさい」
「いいの?」
「お客人を寒い中にいさせるわけにはいかないだろう」
「すぐ連れてくるよ!」
アイカはレイを連れて村に入った。
レイを見た村人たちは驚いているようだった。無理もない。ここは基本的に身分の低い草食獣人が住む村なのだ。
狼がわざわざ訪ねてくるなど有り得ない。
「お待ちしておりました、殿下」
村長の家に二人が入ると、村長は深々と頭を下げた。
「村長さん、殿下って…」
アイカが尋ねると、村長が答えてくれる。
「この方はカーヤ家の王子だよ」
アイカも少しだが聞いたことがあった。
カーヤ家は古くから伝わる王家だ。
「村長さん、家なんて関係ありません。俺はただの狼だ」
「レイ様、そういうわけにはいきません。
あなたは呪いを解きに来た。違いますか?」
レイが息を呑むのが分かった。
アイカには全く状況が飲み込めない。
「そうです。もうすぐ満月だ。
俺は出来るなら暴れたくないんです」
「ふむ。なるほど」
村長は何かを考えているようだ。
そして改めてレイを見つめた。
「レイ様、呪いを解くには手順が要ります。
準備も必要だ。ひとまずアイカの家に居てください。アイカ、構わないかな?」
「はい!俺は大丈夫…だけど」
レイは王子である。自分の質素な家を思い出して、アイカは不安になった。
「アイカ、俺からも頼めないだろうか」
「家、汚いけど大丈夫?」
アイカの言葉にレイが笑う。
「問題ない」
アイカはレイと共に自宅に向かったのだった。
アイカの家は村の外れに建っている。
両親を幼い頃に亡くしてからアイカはずっと一人だった。村の人に助けられて、なんとかここまで生きてくることが出来た。
「狭いけど」
「そうか?」
アイカはレイの靴を乾かすために日当たりのいい庭先に干した。
よく見ると高そうな靴である。
王子という肩書は伊達じゃないらしい。
「アイカ、救急箱はあるか?
君は怪我をしているし、手当てしないと」
「だ、大丈夫だよ」
「駄目だ。傷から菌が入ったりしたら困る」
レイは本当に自分を心配してくれているようだ。アイカは救急箱を取り出して机に置いた。
「アイカ、椅子に座って」
レイに従う。彼はアイカの傷口を眺めると舌打ちした。
「こんなに血が出てる。酷い奴らだ」
彼が自分の為に怒ってくれている。それがアイカには嬉しかった。
レイはテキパキと手当てをしてくれた。
「これで大丈夫だ。あまり傷口を触るなよ」
「ありがとう、レイ」
自分の心が高鳴るのを感じる。その感覚になんだか慣れなくて、アイカは思わず立ち上がった。
「い、今お茶を淹れるね!寒いよね」
アイカはストーブを点けてお湯を沸かした。
だんだん部屋が暖かくなる。
アイカは熱い甘いお茶を入れて、レイに渡した。
お菓子も出す。昨日、クッキーを焼きすぎたからと近所に住む村人にもらったのだ。
「いっぱい食べてね」
「ありがとう、アイカ」
二人はしばらくお茶を楽しんだ。
「ねえレイ。君、王子様なんでしょ?
一人でここに来てること、皆知ってる?」
レイはしばらくクッキーを咀嚼していた。
「あぁ…知らないかもしれない」
「えぇえ!!」
レイはアイカの反応に首を傾げた。
「駄目だったか?」
「駄目だよ!怒られちゃうかもよ」
「大丈夫だ。兄弟なら沢山いるし、俺一人くらいいなくても」
「そうゆうことじゃないんだけど」
レイはあまり気にしていないようだ。
またクッキーを口に放っている。
「ねえ、レイ。君のこと、もっと聞いてもいい?」
「答えられるだけ答えよう」
レイが笑った。
もう春先とはいえ、このあたりには雪がある。
「レイ、俺重たくない?」
「いや、重たくはないけど靴を間違えた。だんだん靴の中が濡れてきた」
レイが困ったように言う。
彼は革靴を履いていた。雪が靴に染み込んできても無理はない。
アイカはそれになんだかおかしくなった。
レイの人となりが見えたような気がしたからだ。
「雪なんて久しぶりに見る」
レイが辺りを見回しながら言う。
「レイはどこから来たの?」
「あぁ。俺はカーヤ城下から来た」
「え…そこってすごい都会じゃない」
レイが笑う。
「アイカはカーヤに行ったことはあるか?」
「んー、覚えてないなぁ」
「アイカが良ければ今度案内する」
「うん!」
レイの言葉が嬉しくてアイカは笑った。
社交辞令だとしても嬉しかった。
アイカの案内に従ってレイは歩いていく。
「村だ」
レイが呟く。ポックル村がようやく姿を見せた。
「ねえ、レイ。このまま君が村に入ると皆がびっくりしちゃう。僕が先に入って村長さんに聞いてくるよ」
「あぁ。俺も村人たちに無用な心配をさせたくない。そうしてもらうと助かる」
レイの背中からアイカは降りた。
「すぐ行ってくるからね!」
アイカは村に走って行った。
村長の家は村の一番奥にある。
アイカは扉をノックした。
「村長さん!いるー?」
「おう、アイカか。入って来い」
アイカは中に勢いよく入った。村長はヤギだ。お茶を飲んでいたらしい。
「あのね、今、狼さんが来てるの。レイっていう名前なんだけど」
アイカの言葉に村長は目を閉じた。
「そうか。ついに王子が来なすったか」
村長の言葉が分からず、アイカは首を傾げた。
村長はアイカをじっと見た。
「アイカ。連れて来なさい」
「いいの?」
「お客人を寒い中にいさせるわけにはいかないだろう」
「すぐ連れてくるよ!」
アイカはレイを連れて村に入った。
レイを見た村人たちは驚いているようだった。無理もない。ここは基本的に身分の低い草食獣人が住む村なのだ。
狼がわざわざ訪ねてくるなど有り得ない。
「お待ちしておりました、殿下」
村長の家に二人が入ると、村長は深々と頭を下げた。
「村長さん、殿下って…」
アイカが尋ねると、村長が答えてくれる。
「この方はカーヤ家の王子だよ」
アイカも少しだが聞いたことがあった。
カーヤ家は古くから伝わる王家だ。
「村長さん、家なんて関係ありません。俺はただの狼だ」
「レイ様、そういうわけにはいきません。
あなたは呪いを解きに来た。違いますか?」
レイが息を呑むのが分かった。
アイカには全く状況が飲み込めない。
「そうです。もうすぐ満月だ。
俺は出来るなら暴れたくないんです」
「ふむ。なるほど」
村長は何かを考えているようだ。
そして改めてレイを見つめた。
「レイ様、呪いを解くには手順が要ります。
準備も必要だ。ひとまずアイカの家に居てください。アイカ、構わないかな?」
「はい!俺は大丈夫…だけど」
レイは王子である。自分の質素な家を思い出して、アイカは不安になった。
「アイカ、俺からも頼めないだろうか」
「家、汚いけど大丈夫?」
アイカの言葉にレイが笑う。
「問題ない」
アイカはレイと共に自宅に向かったのだった。
アイカの家は村の外れに建っている。
両親を幼い頃に亡くしてからアイカはずっと一人だった。村の人に助けられて、なんとかここまで生きてくることが出来た。
「狭いけど」
「そうか?」
アイカはレイの靴を乾かすために日当たりのいい庭先に干した。
よく見ると高そうな靴である。
王子という肩書は伊達じゃないらしい。
「アイカ、救急箱はあるか?
君は怪我をしているし、手当てしないと」
「だ、大丈夫だよ」
「駄目だ。傷から菌が入ったりしたら困る」
レイは本当に自分を心配してくれているようだ。アイカは救急箱を取り出して机に置いた。
「アイカ、椅子に座って」
レイに従う。彼はアイカの傷口を眺めると舌打ちした。
「こんなに血が出てる。酷い奴らだ」
彼が自分の為に怒ってくれている。それがアイカには嬉しかった。
レイはテキパキと手当てをしてくれた。
「これで大丈夫だ。あまり傷口を触るなよ」
「ありがとう、レイ」
自分の心が高鳴るのを感じる。その感覚になんだか慣れなくて、アイカは思わず立ち上がった。
「い、今お茶を淹れるね!寒いよね」
アイカはストーブを点けてお湯を沸かした。
だんだん部屋が暖かくなる。
アイカは熱い甘いお茶を入れて、レイに渡した。
お菓子も出す。昨日、クッキーを焼きすぎたからと近所に住む村人にもらったのだ。
「いっぱい食べてね」
「ありがとう、アイカ」
二人はしばらくお茶を楽しんだ。
「ねえレイ。君、王子様なんでしょ?
一人でここに来てること、皆知ってる?」
レイはしばらくクッキーを咀嚼していた。
「あぁ…知らないかもしれない」
「えぇえ!!」
レイはアイカの反応に首を傾げた。
「駄目だったか?」
「駄目だよ!怒られちゃうかもよ」
「大丈夫だ。兄弟なら沢山いるし、俺一人くらいいなくても」
「そうゆうことじゃないんだけど」
レイはあまり気にしていないようだ。
またクッキーを口に放っている。
「ねえ、レイ。君のこと、もっと聞いてもいい?」
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レイが笑った。
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