声を聞かせて2

はやしかわともえ

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猫なりに

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ソウジロウを探そうと思ったけれど、僕は位牌のある部屋でぼうっと立ち尽くしてしまっている。
体が石になってしまったみたいだ。
ソウジロウのお母さんはいつもニコニコしていて、僕に優しく頷いてくれたことが思い出される。
でももうこの世にはいない。
本当に失ってしまったんだな。
僕ですらこんなに悲しいのに、ソウジロウはどれだけの感情を抱えているんだろう。
それを僕は受け止められるんだろうか。



これからご遺体が運ばれて火葬されるらしい。
いずれ僕自身も入ることになる棺を遠目から見た。
男の人四人がかりで棺は持ち上げられる。
ソウジロウはその人たちにぺこ、と頭を下げた。


棺は霊柩車に載せられる。
あぁ、これで本当にお別れなんだな。
いつの間にか参列していた人たちはいなくなっていた。

「よう」

声のした方向は足元だった。
すぐに誰かわかる。

「チョップ、今までどこに?」

「取り残されてるおめぇには言われたくねえよな」

取り残されているという言葉に、ようやく僕は火葬されるホールに行きそびれたことを悟った。

「ま、おめえのことだからボケッとしてるとは思ったけどよ」

チョップはがしがしと後ろ足で背中を掻いている。
こうしていると彼が猫であるということをようやく思い出せる。

「んで、ソウジロウはどうだった?」

僕はチョップの言った言葉がよく理解できなくて聞き返した。

「おめえ、もっと察しろよな」

「ごめん」

だからよ、とチョップは唸った。

「ソウジロウはどうせ、おめえに本音を言ってねぇんだろ?」

「それは」

僕は戸惑った。チョップは何が言いたいんだろう?

「まだわからねえのか?」

チョップが僕を嘲笑っている。
なんだかいつもより意地悪な気がする。

「ソウジロウはお前を信頼してねーってこった」

「!?」

ガラガラと足場が崩れたように感じる。
ソウジロウが僕を信頼してくれてない?
僕にはその言葉が反響して聞こえた。

「ど、どういうことなの?」

なんとか言葉を紡ぐけど、チョップは鼻で笑うきりだ。

「チョップ?」

チョップはまた笑った。

「いいか、ユマ。これ以上ソウジロウに構うな。
おめえとソウジロウは職場の同僚。
それだけだ」

僕は居たたまれなくなって、ソウジロウの家を飛び出した。
だんだん涙があふれてくる。
チョップが言ったことは、ソウジロウが望んでいることなんだろうか。
本当に?
僕は途中で立ち止まって泣いた。
ソウジロウに確かめたい気持ちがはじめは勝っていたけれど、だんだん怖くなってきた。
もし、ソウジロウに面と向かって言われたら?
そう思うと辛すぎた。

「ユマ?どうしたの?」

後ろを振り返るとスーツ姿の姉さんがいた。
僕は慌てて目元を拭う。

「えっと、なんでもない」

「なんでもないわけないじゃないの」

姉さんが僕の腕を握る。僕はそれを受け入れた。

「ほら、ユマ。お姉ちゃんに話して」

姉さんが本当に心配してくれているのがわかった。
嘘はできるだけつきたくない、けど。

「ん、ちょっといろいろあってさ」

まだ現実を僕は受け入れきれてなかった。
言葉にしたらそれと向き合わなくちゃいけなくなる。

「よーし」

姉さんはいきなりふんす、と気合をいれた。
なんだろう?

「ユマ、今日は外で食べましょ!
そうね、お寿司がいいわね」

「へ?」

姉さんはずんずん僕を引っ張って歩きだしてしまう。

「姉さん?!
本当に行くの?」

「お姉ちゃんがウソついたことある?」

にや、と姉さんは笑いかけてくる。
姉さんの勢いが今はありがたかった。
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