23 / 26
2
1・夏~まったり秋(秘密基地)
しおりを挟む
夏休みの後半は体調があまり良くなくて、俺はほとんどの時間を眠って過ごした。
「にぃぃ」
「ん…とら、ごめんね。一緒に遊んであげられなくて」
「にい」
とらに人差し指をかぷりと優しく咥えられた。気にするなということらしい。夏休みの課題が全て終わっていたのがまだ救いだ。どうやら夏期講習の疲れが今更出てしまったらしい。
たたっとくろが俺のお腹の上に乗ってくる。その重みと温かさになんだか安心して、俺はぐっすり眠っていた。
「ん…」
パチリと目を覚ますともう西日が射し込んでいる。少し調子が良くなった気がするな。むくりと起き上がる。部屋から出るとメノウさんがカラカラと回し車で遊んでいる。
「姫様!調子はいかがですか?」
「うん、少し元気になった…かも」
「ご飯をしっかり食べてお薬を飲んでくださいね」
メノウさん優しい。
「ありがとう、メノウさん」
冷蔵庫を開けると冷やし中華があった。これ、食べていいやつかな。そろっと皿を取り出してみる。お母さんたちは仕事だ。社会人に俺はなれるのかな。小さなころはちゃんとした大人になろうと思っていたけれど、今の時点では難しそうだなあという見解に変わってきている。
働くのは人間として当たり前のことなのに、俺はいつでもゆっくりだ。テーブルに冷やし中華の皿を置いて、サランラップを剥がした。麺を啜るとゴマダレの味がする。普通のタレも好きだけど、どちらかといえば俺はゴマダレが好きだ。
つるつる麺を食べていると、シャキシャキしたきゅうりゾーンがやって来た。うん、美味しい。
食事が摂れて、美味しいって思えるうちは俺はまだ大丈夫だ。
「しょうやー」
甘えたような声で俺を呼びながらマオ君がやって来る。もちろん、レオ君もいる。
「どうしたの?二人共?」
「秘密基地が出来たんだ!」
なんのこっちゃ、と思っていたらマオ君が俺の隣に座る。レオ君も向かいに座った。
「まあ簡単に言うと、俺たちの遊び場だ。父さんが作ってくれてな」
さすがお金持ちはスケールが違うなぁ。
「でね、その秘密基地に行くにはこの鍵が必要なんだよ」
コトリと置かれた鍵はぴかぴかして、綺麗だった。俺はそれをまじまじと見つめていた。
「しょうやに渡しておくね。失くさないように気を付けて」
「あ、ありがとう」
秘密基地、どんなところなんだろう。
俺はそっと鍵を掴んで眺めた。
「もし失くすのが心配なら、紐を通して首から提げたらどうだ?」
「レオ、ナイスアイデア!でもちょうどいい紐あるかなぁ?」
マオ君が首を傾げた。紐かぁ。
「姫様、この間革紐があるって言っておられましたよね?」
メノウさんの言葉に俺はハッとなった。随分前だけど入院している時に革製品を扱うワークショップに参加したんだった。
「メノウさん、ありがとう」
「とんでもございません」
勉強机の引き出しを開けると革紐が入っている。俺は鍵をそれに通して端と端を解けないようにぎゅっと縛った。
「出来た…」
一応解けてこないか引っ張って確認してみる。大丈夫そうだ。
「わ、素敵だよ、しょうや!」
「鍵の使い方を教える」
レオ君が言うには、この鍵はどこでも使えるらしい。ただし秘密基地に入れるのは一日一回だけ。
俺が無理をしていたりしても入れないそうだ。
「翔也、もうすぐ夏休みもおしまいだし、一度秘密基地を見に来いよ」
「秘密基地ツアーだね!」
マオ君がパッと顔を輝かせる。
「わ、分かった」
夏休みの最終日、俺は二人と秘密基地で遊ぶことにしたんだ。
「にぃぃ」
「ん…とら、ごめんね。一緒に遊んであげられなくて」
「にい」
とらに人差し指をかぷりと優しく咥えられた。気にするなということらしい。夏休みの課題が全て終わっていたのがまだ救いだ。どうやら夏期講習の疲れが今更出てしまったらしい。
たたっとくろが俺のお腹の上に乗ってくる。その重みと温かさになんだか安心して、俺はぐっすり眠っていた。
「ん…」
パチリと目を覚ますともう西日が射し込んでいる。少し調子が良くなった気がするな。むくりと起き上がる。部屋から出るとメノウさんがカラカラと回し車で遊んでいる。
「姫様!調子はいかがですか?」
「うん、少し元気になった…かも」
「ご飯をしっかり食べてお薬を飲んでくださいね」
メノウさん優しい。
「ありがとう、メノウさん」
冷蔵庫を開けると冷やし中華があった。これ、食べていいやつかな。そろっと皿を取り出してみる。お母さんたちは仕事だ。社会人に俺はなれるのかな。小さなころはちゃんとした大人になろうと思っていたけれど、今の時点では難しそうだなあという見解に変わってきている。
働くのは人間として当たり前のことなのに、俺はいつでもゆっくりだ。テーブルに冷やし中華の皿を置いて、サランラップを剥がした。麺を啜るとゴマダレの味がする。普通のタレも好きだけど、どちらかといえば俺はゴマダレが好きだ。
つるつる麺を食べていると、シャキシャキしたきゅうりゾーンがやって来た。うん、美味しい。
食事が摂れて、美味しいって思えるうちは俺はまだ大丈夫だ。
「しょうやー」
甘えたような声で俺を呼びながらマオ君がやって来る。もちろん、レオ君もいる。
「どうしたの?二人共?」
「秘密基地が出来たんだ!」
なんのこっちゃ、と思っていたらマオ君が俺の隣に座る。レオ君も向かいに座った。
「まあ簡単に言うと、俺たちの遊び場だ。父さんが作ってくれてな」
さすがお金持ちはスケールが違うなぁ。
「でね、その秘密基地に行くにはこの鍵が必要なんだよ」
コトリと置かれた鍵はぴかぴかして、綺麗だった。俺はそれをまじまじと見つめていた。
「しょうやに渡しておくね。失くさないように気を付けて」
「あ、ありがとう」
秘密基地、どんなところなんだろう。
俺はそっと鍵を掴んで眺めた。
「もし失くすのが心配なら、紐を通して首から提げたらどうだ?」
「レオ、ナイスアイデア!でもちょうどいい紐あるかなぁ?」
マオ君が首を傾げた。紐かぁ。
「姫様、この間革紐があるって言っておられましたよね?」
メノウさんの言葉に俺はハッとなった。随分前だけど入院している時に革製品を扱うワークショップに参加したんだった。
「メノウさん、ありがとう」
「とんでもございません」
勉強机の引き出しを開けると革紐が入っている。俺は鍵をそれに通して端と端を解けないようにぎゅっと縛った。
「出来た…」
一応解けてこないか引っ張って確認してみる。大丈夫そうだ。
「わ、素敵だよ、しょうや!」
「鍵の使い方を教える」
レオ君が言うには、この鍵はどこでも使えるらしい。ただし秘密基地に入れるのは一日一回だけ。
俺が無理をしていたりしても入れないそうだ。
「翔也、もうすぐ夏休みもおしまいだし、一度秘密基地を見に来いよ」
「秘密基地ツアーだね!」
マオ君がパッと顔を輝かせる。
「わ、分かった」
夏休みの最終日、俺は二人と秘密基地で遊ぶことにしたんだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します
夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。
この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。
※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
転生リンゴは破滅のフラグを退ける
古森真朝
ファンタジー
ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。
今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。
何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする!
※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける)
※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^
※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界坊主の成り上がり
峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ?
矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです?
本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。
タイトル変えてみました、
旧題異世界坊主のハーレム話
旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした
「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」
迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」
ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開
因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。
少女は石と旅に出る
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766
SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします
少女は其れでも生き足掻く
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055
中世ヨーロッパファンタジー、独立してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる