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15・カレーライス

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「しょうや!」

今日はベーカリー米田のお手伝いだった。帰りがてら買い物をしようと商店街をブラブラしていたらマオ君に声を掛けられた。

「マオ君?一人?」

「ちょっと来て」

ぎゅ、と腕を掴まれてマオ君がずんずん歩いていく。どこに行くんだろう?いつの間にか商店街を抜けて、ホテルの前にいた。も、もしかして。

「ここに泊まってるの?すごく高そうなホテルだね」

「ふふ、しょうやにお父様が会いたいってさ」

「え」

「ごめんね、日程を報せるって言ったんだけど、お父様がどうしても今日会いたいって。お腹空いてる?」

さっきパンを貰って食べたけど、しばらく歩いたせいかまだ食べられそうだ。

「うん」

頷くとマオ君がぱあっと笑った。

「ここのカレーライス本当に美味しいからおすすめ!」

「へぇ」

それよりも、とマオ君がまた俺の腕を掴んで引いた。中は落ち着いた雰囲気だった。奥にレストランがあるらしい。マオ君はずんずん歩いた。

「お父様、しょうやを連れてきたよ」

そこにいたのは40代くらいのおじさんだった。彼は立ち上がって俺を見つめた。

「君が翔也君か。たしかにショーヤの面影がある」

「当たり前じゃん、ショーヤの生まれ変わりだもん」

マオ君が笑いながら言う。

「マオの言う通りだ。とりあえず座って」

「あ、はい」

俺は彼の対面に座った。その横にマオ君が座ってくる。

「お父様、カレーライス食べたい」

「あぁいいよ。頼みなさい。翔也君は何がいいかな?」

「カレーライスだよ、ねー、しょうやー」

「こら、マオ」

おじさんが困ったようにマオを宥めた。

「いいんです。俺もカレーライスが食べたいです」

「そうか、飲み物は?」

「はーい!コークがいい!ね!しょうやー!」

マオ君はさり気なく俺が好きなものを頼んでくれている。

「分かった」

おじさんがオーダーしてくれる。

「ここで君に会えるとは。君のご両親は海外にいるそうだから、そちらに住まわれているのかとばかり」

「お父様はしょうやを探し回ったんだよ。ま、僕たちが先に見つけたんだけどね!」

マオ君が自慢そうに胸を張る。

「祖父母がこちらにいたので、そこに住んでいました。兄が成人してしばらくしてからは今の場所に住んでいます」

「そうだったのか。学校は楽しいかい?
ショーヤの時はそういう楽しい思いもさせてやれなかったからね」

「はい、楽しいです。マオ君とレオ君も仲良くしてくれて」

「それならよかった。マオとレオがいつもお世話になっているね。あと急に紫水晶を渡してしまって申し訳なかったね。あれはショーヤが大事にしていたものなんだ」

「ショーヤさんが…」

「あれにはショーヤの記憶が込められている。ショーヤは色々やってみたかったことがあったようだ。それも知らないとは親としては情けない限りだよ」

「お待たせいたしました」

給仕の人がやって来て、注文していたものを運んできてくれた。カレーライスは具がとろとろに溶け込んでいる。

「頂きます!」

マオ君が元気よく言うので俺も一緒に手を合わせた。一口カレーライスを食べると溶けるように口からいなくなってしまう。

「うんまっ…」

「ね、美味しいでしょ!」

「うん、すごく」

「二人共食べ盛りだものなぁ」

おじさんが楽しそうで良かった。

「私はまた仕事でここを離れなきゃいけなくてね。変わらずマオとレオはここにいるから心配しなくていいよ」

おじさん、お仕事忙しいんだな。カレーライスをもりもり食べて、冷たいコークを飲んだら生き返った。

「あの、ご馳走様でした」

「翔也君、君は君のペースで歩けばいい。人と比べなくていいんだからね」

「は…はい」

俺はおじさんを見上げて頷いた。

「しょうや、行こ」

「あ、あの、また」

ぺこりと頭を下げて俺はマオ君と共に自宅のあるマンションに向かった。

「ねえ、レオ君は?」

「レオは学校で夏期講習の準備のお手伝いしてるー」

「えぇ?大変だね?」

「いいんだよ。レオは大学に進学するんだし」

「えぇ!」

そんなの初耳だぞ。

「二人ってまだ高校一年だよね?」

「うん。翔也だってなんだかんだ進学用のカリキュラムに取り組んでるじゃない」

「そ、そうだったかも」

俺、なんてボーっとしてるんだ。

「言語学に興味あるんだよね?しょうやには沢山可能性があるんだよ」

可能性かぁ。

「明日からまたテストだし、頑張ろうね!」

「うん」

マオ君の明るい笑顔にはいつも励まされてるなぁ。俺たちは家に戻って明日のための勉強を進めた。
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