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9・むかしばなし
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今日は金曜日だ。こう考えてみると、一週間なんてあっという間だ。俺は大好きなアニメを観ている。明日は病院だから、既にドキドキしているけど、面白いアニメのお陰で、変にソワソワせずに済んでいる。
「可愛い子だな」
主人公の女の子は魔法少女になって、世界の危機を救う。可愛くて勇敢だ。すごいなー、と見とれていたら、マオ君が俺の膝に乗っかってきた。
確かな命の重みに俺はびっくりした。
「ま、マオ君…」
「ここではとらちゃんでしょー」
ふふ、とマオ君が笑いながら言ってくる。そうだった。
「どうかしたの?」
マオ君がぴょん、と俺の足元に華麗に着地した。
「しょうや、時計」
「あ…」
俺は慌てて立ち上がった。もう昼か。アニメに夢中になり過ぎていた。
「ごめん、お腹空いたよね?今すぐ用意する」
俺は猫用のフードを二つの皿に計って入れた。
メノウさんのご飯もあげなくちゃね。
「姫様、メノウはここで眠ります」
「ん、ご飯ここに置いておくね」
メノウさんはハウスの中で丸くなっている。可愛い。
「翔也、お前も何か食べろよ」
レオ君に言われて、俺はハタと気が付いた。そうだ、俺もご飯を食べなくちゃ。今日のお昼はグラタンだ。食べる前に溶けるチーズを載せて、トースターで焼くように言われている。しばらくして、チンとトースターから焼き上がった音がした。火傷しないように気を付けてテーブルに置く。チーズが溶けていい匂いがする。あとサラダがあった。牛乳でも飲もうかなと紙パックも取り出す。ドレッシングは大好きな胡麻だ。
椅子に座って、サラダを頰張るとシャキシャキした野菜たちが美味しかった。
「おいしいー?しょうやー?」
「ん、美味しいよ」
マオ君が俺のそばにチョン、と座っている。もうご飯食べ終わったのかな?
「もうご飯食べたの?」
「今眠たいの」
くあぁ、とマオ君が大きな欠伸をしている。
「眠っておいで」
「うんー」
マオ君がたたた、とソファに上がって丸くなった。レオ君はどうしてるかな?
「翔也、ゆっくり食べろ。俺たちなら大丈夫だからな」
レオ君が俺のそばに控えるように座っていた。しっぽをピン、と立てている。
「ありがとう」
俺はグラタンに取り掛かった。兄さんの作るグラタンは本当に美味しい。マカロ二の他に、ホクホクのじゃがいもと厚切りのベーコンが入っている。熱々だから気を付けて食べるのが俺に課された使命だ。
「翔也見てたら、なんか腹減ってきた」
レオ君のこんな言葉に俺は笑ってしまった。
✢✢✢
今日は天気が悪かった。台風が近づいて来ているらしい。天気予報を見ると、今日中には去る、というようなことを言っていた。風がゴォゴォと音を立てながら吹いていてちょっと怖い。
さっきまで平気だったのに。
部屋を落ち着きなくウロウロしてなんとか不安をやり過ごしていると、レオ君が走り寄ってきた。
「翔也」
「レオ君…?」
レオ君がぴょこっと後ろ足で立ち上がった。抱っこすればいいのかな?おそるおそる彼を抱き上げると、ぎゅ、としがみつかれる。トクトクと俺より早い鼓動が聞こえた。
「温かい」
「翔也、怖いなら俺を撫でていろ。昔の話くらいならしてやれる」
「昔の話?」
それって、俺がお姫様だった時の話だろうか。レオ君にも伝わったのか、あぁと頷かれる。
「翔也が姫だったころの話だ。聞きたいか?」
「き、聞きたいよ」
「なら、ソファに座ろう。俺は重たいからな」
全然そんなことはなかったけれど、俺の体調を考えてそう言ってくれたのだろうと分かった。素直にソファに座る。レオ君は語り出した。
むかしむかし―と。
「レオ、待ってよ!なんであたしを置いていこうとするの!」
馬に乗っていたレオは頭が痛くなった。
「ショーヤ、お前は今日、誕生日だろう。パーティーに主役がいないわけにはいかない」
「分かってるけど…なんかドレス恥ずかしいし、レオ一人で行くなんて嫌」
いじいじ、とショーヤと呼ばれた少女が体の前で手を弄ぶ。可愛い人だとレオはショーヤを愛おしく思っている。
「少し遣いに行くだけだ。すぐ帰って来る」
「本当?」
「あぁ」
ショーヤはパッと笑った。
「なら、あたしも行く!」
「なんでそうなる!」
レオの突っ込みにショーヤは口を尖らせた。
「だってすぐ帰って来るんでしょ?なら少しくらい、いいじゃない」
「良くない」
レオは駄目だ、と突っぱねたが、ショーヤは聞き入れなかった。
―
「可愛い人だった。ショーヤは」
レオ君が遠い目をする。俺にはその時の記憶がないから、ショーヤにはなれない。
「あ、もちろん、翔也のことも可愛らしいと思っている」
それはさすがに照れくさいかも。困っていると謝られた。
「翔也、お前の人生は一度しかない。大事に生きて欲しい」
レオ君の言葉に俺は頷いた。確かに俺は過去から転生してきたのかもしれない。でも俺という人生は一度しかないんだ。
「明日の病院が不安なのか?」
ふと尋ねられて、俺は頷いていた。
「病院の前の日はどうしてもざわざわしちゃうんだよね。先生も看護師さんもすごく優しいのに」
「翔也は明日、デイケアに見学にいくつもりなんだろう?だから病院に行くんだ、違うか?」
「うん、そうだよ。段々心配にはなってきてるけど」
「それは先生に話したほうがいい。無理はするなって言われたんだろう?」
レオ君の的確な言葉に俺はハッとなった。慌てなくていいって周りの人からよく言われるし、俺は焦りすぎていたのかも。
「またお腹が痛くならないように考え過ぎるなよ」
「ありがとう」
レオ君の体を撫でていたらだんだん眠くなってきた。俺の意識はここで途切れている。
「可愛い子だな」
主人公の女の子は魔法少女になって、世界の危機を救う。可愛くて勇敢だ。すごいなー、と見とれていたら、マオ君が俺の膝に乗っかってきた。
確かな命の重みに俺はびっくりした。
「ま、マオ君…」
「ここではとらちゃんでしょー」
ふふ、とマオ君が笑いながら言ってくる。そうだった。
「どうかしたの?」
マオ君がぴょん、と俺の足元に華麗に着地した。
「しょうや、時計」
「あ…」
俺は慌てて立ち上がった。もう昼か。アニメに夢中になり過ぎていた。
「ごめん、お腹空いたよね?今すぐ用意する」
俺は猫用のフードを二つの皿に計って入れた。
メノウさんのご飯もあげなくちゃね。
「姫様、メノウはここで眠ります」
「ん、ご飯ここに置いておくね」
メノウさんはハウスの中で丸くなっている。可愛い。
「翔也、お前も何か食べろよ」
レオ君に言われて、俺はハタと気が付いた。そうだ、俺もご飯を食べなくちゃ。今日のお昼はグラタンだ。食べる前に溶けるチーズを載せて、トースターで焼くように言われている。しばらくして、チンとトースターから焼き上がった音がした。火傷しないように気を付けてテーブルに置く。チーズが溶けていい匂いがする。あとサラダがあった。牛乳でも飲もうかなと紙パックも取り出す。ドレッシングは大好きな胡麻だ。
椅子に座って、サラダを頰張るとシャキシャキした野菜たちが美味しかった。
「おいしいー?しょうやー?」
「ん、美味しいよ」
マオ君が俺のそばにチョン、と座っている。もうご飯食べ終わったのかな?
「もうご飯食べたの?」
「今眠たいの」
くあぁ、とマオ君が大きな欠伸をしている。
「眠っておいで」
「うんー」
マオ君がたたた、とソファに上がって丸くなった。レオ君はどうしてるかな?
「翔也、ゆっくり食べろ。俺たちなら大丈夫だからな」
レオ君が俺のそばに控えるように座っていた。しっぽをピン、と立てている。
「ありがとう」
俺はグラタンに取り掛かった。兄さんの作るグラタンは本当に美味しい。マカロ二の他に、ホクホクのじゃがいもと厚切りのベーコンが入っている。熱々だから気を付けて食べるのが俺に課された使命だ。
「翔也見てたら、なんか腹減ってきた」
レオ君のこんな言葉に俺は笑ってしまった。
✢✢✢
今日は天気が悪かった。台風が近づいて来ているらしい。天気予報を見ると、今日中には去る、というようなことを言っていた。風がゴォゴォと音を立てながら吹いていてちょっと怖い。
さっきまで平気だったのに。
部屋を落ち着きなくウロウロしてなんとか不安をやり過ごしていると、レオ君が走り寄ってきた。
「翔也」
「レオ君…?」
レオ君がぴょこっと後ろ足で立ち上がった。抱っこすればいいのかな?おそるおそる彼を抱き上げると、ぎゅ、としがみつかれる。トクトクと俺より早い鼓動が聞こえた。
「温かい」
「翔也、怖いなら俺を撫でていろ。昔の話くらいならしてやれる」
「昔の話?」
それって、俺がお姫様だった時の話だろうか。レオ君にも伝わったのか、あぁと頷かれる。
「翔也が姫だったころの話だ。聞きたいか?」
「き、聞きたいよ」
「なら、ソファに座ろう。俺は重たいからな」
全然そんなことはなかったけれど、俺の体調を考えてそう言ってくれたのだろうと分かった。素直にソファに座る。レオ君は語り出した。
むかしむかし―と。
「レオ、待ってよ!なんであたしを置いていこうとするの!」
馬に乗っていたレオは頭が痛くなった。
「ショーヤ、お前は今日、誕生日だろう。パーティーに主役がいないわけにはいかない」
「分かってるけど…なんかドレス恥ずかしいし、レオ一人で行くなんて嫌」
いじいじ、とショーヤと呼ばれた少女が体の前で手を弄ぶ。可愛い人だとレオはショーヤを愛おしく思っている。
「少し遣いに行くだけだ。すぐ帰って来る」
「本当?」
「あぁ」
ショーヤはパッと笑った。
「なら、あたしも行く!」
「なんでそうなる!」
レオの突っ込みにショーヤは口を尖らせた。
「だってすぐ帰って来るんでしょ?なら少しくらい、いいじゃない」
「良くない」
レオは駄目だ、と突っぱねたが、ショーヤは聞き入れなかった。
―
「可愛い人だった。ショーヤは」
レオ君が遠い目をする。俺にはその時の記憶がないから、ショーヤにはなれない。
「あ、もちろん、翔也のことも可愛らしいと思っている」
それはさすがに照れくさいかも。困っていると謝られた。
「翔也、お前の人生は一度しかない。大事に生きて欲しい」
レオ君の言葉に俺は頷いた。確かに俺は過去から転生してきたのかもしれない。でも俺という人生は一度しかないんだ。
「明日の病院が不安なのか?」
ふと尋ねられて、俺は頷いていた。
「病院の前の日はどうしてもざわざわしちゃうんだよね。先生も看護師さんもすごく優しいのに」
「翔也は明日、デイケアに見学にいくつもりなんだろう?だから病院に行くんだ、違うか?」
「うん、そうだよ。段々心配にはなってきてるけど」
「それは先生に話したほうがいい。無理はするなって言われたんだろう?」
レオ君の的確な言葉に俺はハッとなった。慌てなくていいって周りの人からよく言われるし、俺は焦りすぎていたのかも。
「またお腹が痛くならないように考え過ぎるなよ」
「ありがとう」
レオ君の体を撫でていたらだんだん眠くなってきた。俺の意識はここで途切れている。
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