上 下
9 / 26
1

9・むかしばなし

しおりを挟む
今日は金曜日だ。こう考えてみると、一週間なんてあっという間だ。俺は大好きなアニメを観ている。明日は病院だから、既にドキドキしているけど、面白いアニメのお陰で、変にソワソワせずに済んでいる。

「可愛い子だな」

主人公の女の子は魔法少女になって、世界の危機を救う。可愛くて勇敢だ。すごいなー、と見とれていたら、マオ君が俺の膝に乗っかってきた。
確かな命の重みに俺はびっくりした。

「ま、マオ君…」

「ここではとらちゃんでしょー」

ふふ、とマオ君が笑いながら言ってくる。そうだった。

「どうかしたの?」

マオ君がぴょん、と俺の足元に華麗に着地した。

「しょうや、時計」

「あ…」

俺は慌てて立ち上がった。もう昼か。アニメに夢中になり過ぎていた。

「ごめん、お腹空いたよね?今すぐ用意する」

俺は猫用のフードを二つの皿に計って入れた。
メノウさんのご飯もあげなくちゃね。

「姫様、メノウはここで眠ります」

「ん、ご飯ここに置いておくね」

メノウさんはハウスの中で丸くなっている。可愛い。

「翔也、お前も何か食べろよ」

レオ君に言われて、俺はハタと気が付いた。そうだ、俺もご飯を食べなくちゃ。今日のお昼はグラタンだ。食べる前に溶けるチーズを載せて、トースターで焼くように言われている。しばらくして、チンとトースターから焼き上がった音がした。火傷しないように気を付けてテーブルに置く。チーズが溶けていい匂いがする。あとサラダがあった。牛乳でも飲もうかなと紙パックも取り出す。ドレッシングは大好きな胡麻だ。
椅子に座って、サラダを頰張るとシャキシャキした野菜たちが美味しかった。

「おいしいー?しょうやー?」

「ん、美味しいよ」

マオ君が俺のそばにチョン、と座っている。もうご飯食べ終わったのかな?

「もうご飯食べたの?」

「今眠たいの」

くあぁ、とマオ君が大きな欠伸をしている。

「眠っておいで」

「うんー」

マオ君がたたた、とソファに上がって丸くなった。レオ君はどうしてるかな?

「翔也、ゆっくり食べろ。俺たちなら大丈夫だからな」

レオ君が俺のそばに控えるように座っていた。しっぽをピン、と立てている。

「ありがとう」

俺はグラタンに取り掛かった。兄さんの作るグラタンは本当に美味しい。マカロ二の他に、ホクホクのじゃがいもと厚切りのベーコンが入っている。熱々だから気を付けて食べるのが俺に課された使命だ。

「翔也見てたら、なんか腹減ってきた」

レオ君のこんな言葉に俺は笑ってしまった。

✢✢✢

今日は天気が悪かった。台風が近づいて来ているらしい。天気予報を見ると、今日中には去る、というようなことを言っていた。風がゴォゴォと音を立てながら吹いていてちょっと怖い。
さっきまで平気だったのに。
部屋を落ち着きなくウロウロしてなんとか不安をやり過ごしていると、レオ君が走り寄ってきた。

「翔也」

「レオ君…?」

レオ君がぴょこっと後ろ足で立ち上がった。抱っこすればいいのかな?おそるおそる彼を抱き上げると、ぎゅ、としがみつかれる。トクトクと俺より早い鼓動が聞こえた。

「温かい」

「翔也、怖いなら俺を撫でていろ。昔の話くらいならしてやれる」

「昔の話?」

それって、俺がお姫様だった時の話だろうか。レオ君にも伝わったのか、あぁと頷かれる。

「翔也が姫だったころの話だ。聞きたいか?」

「き、聞きたいよ」

「なら、ソファに座ろう。俺は重たいからな」

全然そんなことはなかったけれど、俺の体調を考えてそう言ってくれたのだろうと分かった。素直にソファに座る。レオ君は語り出した。

むかしむかし―と。

「レオ、待ってよ!なんであたしを置いていこうとするの!」

馬に乗っていたレオは頭が痛くなった。

「ショーヤ、お前は今日、誕生日だろう。パーティーに主役がいないわけにはいかない」

「分かってるけど…なんかドレス恥ずかしいし、レオ一人で行くなんて嫌」

いじいじ、とショーヤと呼ばれた少女が体の前で手を弄ぶ。可愛い人だとレオはショーヤを愛おしく思っている。

「少し遣いに行くだけだ。すぐ帰って来る」

「本当?」

「あぁ」

ショーヤはパッと笑った。

「なら、あたしも行く!」

「なんでそうなる!」

レオの突っ込みにショーヤは口を尖らせた。

「だってすぐ帰って来るんでしょ?なら少しくらい、いいじゃない」

「良くない」

レオは駄目だ、と突っぱねたが、ショーヤは聞き入れなかった。



「可愛い人だった。ショーヤは」

レオ君が遠い目をする。俺にはその時の記憶がないから、ショーヤにはなれない。

「あ、もちろん、翔也のことも可愛らしいと思っている」

それはさすがに照れくさいかも。困っていると謝られた。

「翔也、お前の人生は一度しかない。大事に生きて欲しい」

レオ君の言葉に俺は頷いた。確かに俺は過去から転生してきたのかもしれない。でも俺という人生は一度しかないんだ。

「明日の病院が不安なのか?」

ふと尋ねられて、俺は頷いていた。

「病院の前の日はどうしてもざわざわしちゃうんだよね。先生も看護師さんもすごく優しいのに」

「翔也は明日、デイケアに見学にいくつもりなんだろう?だから病院に行くんだ、違うか?」

「うん、そうだよ。段々心配にはなってきてるけど」

「それは先生に話したほうがいい。無理はするなって言われたんだろう?」

レオ君の的確な言葉に俺はハッとなった。慌てなくていいって周りの人からよく言われるし、俺は焦りすぎていたのかも。

「またお腹が痛くならないように考え過ぎるなよ」

「ありがとう」

レオ君の体を撫でていたらだんだん眠くなってきた。俺の意識はここで途切れている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...