イケメン猫ズと選ばれしお豆腐メンタル姫騎士のまったりな日常

はやしかわともえ

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6.とっとこ

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朝、起きると2人はまだ眠っていた。すうすう気持ちよさそうに眠っている。そっとお腹を撫でたらぱちりと目を開いた。

「しょうや、くすぐったいよ」

やっぱりマオ君だ。俺は嬉しくなってマオ君の耳もとをなでなでした。気持ちがいいのかきゅっと目を閉じている。

「マオ、勝手に遊ぶな」

「レオがヤキモチ焼いてるー」

「うるさいな」

俺は笑っていた。可愛い2人とまたこうして出会えたのが嬉しい。

「今日は何の日?」

水曜日はパン屋さんへお手伝いに行く日だ。

「お手伝い?しょうや、バイトしているの?」

マオ君に驚かれて、俺はううんと首を横に振った。

「バイトではないよ。お手伝いしてパンをもらうの」

「すごいな翔也は」

二人がベッドを降りて俺の前に並んで座った。
え、なんだこれ?

「姫騎士翔也様、どうか我々も同行させて下さい」

「え」

俺はぽかんとすることしか出来なかった。部屋の外で兄さんが俺を呼んでいる。

「翔也、起きたのか?」

かちりとドアが開く。

「にい」

「なんだ、猫ちゃんたち随分礼儀正しいな」

名前はもう決めたのか?と優しく聞かれて俺は戸惑った。
だって二人はマオ君とレオ君だしなあ。猫の名前は外見で決めることも多いし、それを愛称にしてもいいのかもしれない。レオ君は黒猫でマオ君はキジトラに見える。

「えっと、くろととらだよ」

「そうかあ、可愛い名前じゃないか。今日も気を付けていくんだぞ?」

「うん」

今日の朝食はなんだろうと思っていたらお餅が入ったうどんだった。夏だけど、俺は温かいうどんが好きだ。うどんの日は生卵を載せる。

「翔也、もうすぐ誕生日だな。欲しいものはあるか?」

兄さんにそう聞かれたけど、俺は答えに詰まった。俺の欲しいものってなんだろう?ゲームはしばらく今遊んでいるもので十分だし。

「まだ決めてないけど、考えてみる」

「おう、そうしろ」

よしよしと兄さんに頭を撫でられて俺は嬉しかった。

「じゃあ先に行くな。片づけ、本当に任せていいのか?」

「うん、いってらっしゃい」

兄さんを見送って俺は洗い物を始めた。

「しょうや!」

ぴょんっとマオ君が人型で飛びついてきて驚いた。さっきまでご飯を食べていたはずだ。

「こら、マオ」

レオ君もいつの間にか人型になっている。

「だって今日のしょうやも綺麗なんだもん。すごく可愛いじゃん」

「翔也が可愛いのは俺にも分かる。だからって一応主君だぞ」

「部下ってね主様を愛する特権があるんだよ!」

はあとレオ君が溜息を吐いた。なんだかよく分からないけれど、二人にはいろいろ事情があるみたいだなあ。
兄さんが作ってくれた弁当をカバンに入れる。レオ君とマオ君のご飯と思ったけどよく考えたらパン屋で買えば良いんだって思いついた。

「俺たちは猫のままでいても」

レオ君はそう言ったけどせっかくなら一緒にいたい。パン屋の手が足りていないというのも事実だけど。

「一緒に行こうよ」

俺がそう誘ったら二人は嬉しそうに頷いてくれた。

***
ベーカリー米田は俺の家からさほど離れていない商店街にある。
いつも行列ができる人気店でよくテレビの取材が来る。

「しょうちゃん、来てくれてありがとうね」

「こんにちは、リッカさん」

ベーカリー米田の店主はまだ若い女性だ。自分のお店を持ちたくて、働きながらずっと貯金をしてきたらしい。
こういう人ってすごいなあって俺は思う。自分の夢を信じ続けて実現してしまうのだから。

「あれ?今日はお友達も一緒なの?」

「マオって言います!こっちがレオ」

マオ君が人懐こそうな笑顔で自己紹介をしている。

「まあまあ、しょうちゃんの学校のお友達?」

「はい」

よろしくねえとリッカさんは笑った。さてここからが正念場だ。昼前から昼過ぎにかけてこのパン屋ではちょっとした戦争が起きる。そう、人気パンの争奪戦だ。
リッカさんは人気パンを追加で焼く。俺たちはそれを補充したり明日の為の片づけをするのだ。

「ようし、今日も頑張ろう!」

「はい」

俺たちは頷き合った。

***

「しょうや、僕へとへと」

「マオ君無理しないで少し休んで。お茶飲む?」

「飲む」

俺は水筒をバッグから取り出して持って来たコップに麦茶を注いだ。今日はいつもより大きめの水筒にして正解だった。

「うまあ、生き返るー!」

マオ君が麦茶のコマーシャルをしたらきっとヒットするだろうっていうくらいの飲み方だった。

「レオ君も飲んで?」

「ありがとう」

レオ君も喉が乾いていたらしい、一息に飲み干した。俺も飲もう。

「美味いな」

「うん。よかった」

レオ君が俺を見て微笑む。なんだかその表情を見てたらドキドキしてきてしまった。
俺は姫騎士だった、らしい。
なんだろう、姫騎士って?
もしかして女の子だったのかな?
よく分からないな。
よし、もう一踏ん張りだ。

「今日もありがとうね。今お茶を淹れるわ」

俺たちはリッカさんの家の中にいる。いつもここでお昼を食べるのだ。リッカさんのお手伝いを始めたきっかけは、中学校の職業体験だったりする。パンってどうやって作るんだろうと思ってインターネットで調べていたら、たまたま体験先としてここ『ベーカリー米田』があったのだ。
俺は早速申し込んで、無事に許可が下りた。
はじめはパニックになって使い物にならなかったけど、今はどう動けばいいか分かるようになっている。レジ打ちもそのうち出来るようになればいいなとほのかに期待もしているし。

「みんな、ウチのパンも食べていって」

リッカさんがこうしてパンをくれるからお昼が毎回凄まじい量になる。レオ君もマオ君もすごくお腹が空いていたみたいだ。

「いただきます」

二人は黙々とパンを食べていた。俺ももらったあんぱんに齧り付く。

「わぁやっぱり美味しい」

「良かったわ。あ、そうそう」

リッカさんが突然奥に引っ込んでしまった。なんだろう?リッカさんが持ってきたのはプラスチックのケースだ。よくカブトムシなんかが入っているやつ。中にいたのは小さなハムスターだ。

「この子、最近生まれたの。しょうちゃんの家で
飼えないかな?」

「ハムスター…」

俺は可愛いなとプラスチックのケースを見つめた。でも動物は可愛いだけじゃ育てられない。

「兄さんに聞かないと…」

「そうよね」

リッカさんが困り顔になる。こんなに困った顔をしたリッカさんは初めて見た。リッカさんは美人だ。かっこいい旦那さんがいる。

「えーと、一晩くらい預からせてもらえませんか?俺、ハムスターって飼ったことないから」

「本当?」

「はい」

リッカさんに注意点を聞いて、メモをした。ハムスターは適温で育てないとすぐ死んでしまうから気を付けてあげないといけない。

帰り道、マオ君がぴょこぴょこ跳ねている。

「しょうやと一緒!幸せ!」

「あぁ」

マオ君の言葉にレオ君が頷く。

「お、俺も二人といられて幸せだよ」

「本当!!」

「こら、マオ。翔也がびっくりする」

「はーい」

ハムスターのこともあって、俺たちは部屋に入ってすぐさまクーラーを入れた。生きてるかな?心配になってケースを見ると、顔を覗かせて俺を見ている。

何か言いたげだな。

「姫様!あぁ姫様!!そのような野蛮な者たちと」

ん?この声はハムスターから聞こえてる?

「あー!メノウ久しぶりー!」

マオがメノウと呼ばれたハムスターにひらひら手を振っている。え、姫様ってもしかして俺のことなの?俺はどうしたものかと固まることしか出来なかった。
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