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異次元世界「ヴァーズ」
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「加那ちゃん!視線こっち!
そうそう!可愛いよ」
(なんでこうなっちゃったんだっけ?)
僕の名前は本田加那太。
大平高校の一年生だ。
入学の時に勧誘された新聞部に所属して、先輩方と一緒に毎月新聞を発行している。
そんなことをしていたら、あっという間に時は経って、10月になった。
この部活は新聞以外にカレンダーを毎年販売するとかで、その撮影を今している。
講堂を半分貸し切って作ったスタジオはなかなか本格的だ。
でもまさか、僕が被写体になるとは思わなかった。
しかも女装させられて。(とはいってもメイクくらいだ)
照明をこれでもか、と当てられてとても暑いし、何枚も写真を撮られて疲れてきた。
「加那くん、次の衣装はこれね!」
「え、部長。まだ撮るんですか?」
部長こと、今田真理先輩はにやり、と笑う。
「加那くん、あんた、文化祭のミスコンで優勝したわよね?」
「あれは!」
「違うとは言わせないわよ!
加那くんが出た大会は公式のもと行われたものだし、それが加那くんの実力なの!
あんたのカレンダー、みんな欲しいんだからね!」
そう言われるとなにも返せない。
「というわけでー」
真理先輩はぱちり、とウインクした。
「これに着替えてきなさいね!」
衣装を渡されて、僕は着替えるために家庭科室に向かった。
ここなら姿見がある、そういう理由からだ。
(うっわ)
前の衣装はまだよかった。
この学校のジャージだったからだ。
(男女とも同じデザインだ)
でも今回の衣装は。
(最悪だよ、なんだこれ)
太ももまでしかない赤いミニスカートに、黒いタイツ。
上は長袖のセーラーにクリーム色のセーターだった。
ブレザーはないらしい。
渋々着替えてはみたものの、絶対おかしい。
一歩間違えれば変態だ。
(これで写真撮るなんて、ほとんどエロ本じゃん!)
どうしようか僕は迷って、家庭科室を飛び出した。
とにかくこんな格好で写真なんか撮りたくない。
千尋は教室にいた。どうやら勉強しているらしい。僕は教室の中をうかがった。
奇跡的に他の生徒はいない。 良かった。
「千尋」
声をかけると千尋はようやく僕に気が付いたらしい。千尋は僕を確認するように見てきた。もう、恥ずかしいな。
「加那、なんだよ、その格好」
「僕だってできるならしたくないよ。お願い、千尋!一緒に来て断ってよ!」
「あの圧がやたら強い女部長にか?」
「だからだよ!」
千尋はしばらく黙って溜め息をついた。
「加那、とりあえずジャージ履け。スカート短すぎるよ」
「うん、そうする」
自分のジャージをスカートの下に履くと少しよくなった。
「加那、ほら行くぞ」
「千尋!ありがとう!」
講堂に向かうまでなんだかドキドキした。なるべく人とすれ違いたくない。知り合いだったらなおさらだ。
人が来たらそっと千尋の影に隠れることにして、僕らは無事講堂に戻ってこられた。
千尋の体が大きくて助かった。
「加那くん!遅いわよ!
スケジュールただでさえ押してんのに」
ぷりぷりしながら真理先輩が言う。
「えっと、部長?僕」
「先輩、加那が嫌がってるんでやめてやってください」
僕が怖気づいている間に千尋が言ってくれた。
真理先輩も千尋のことをイケメンだと思っているのは知っている。
イケメンってこういう時、得だよな。
「そうねえ、じゃあ千尋くんも一枚撮らせて頂戴!」
「はぁ?」
真理先輩は笑う。
「加那くんが撮れないなら、仕方ないわよね?」
この人は本当にただじゃ起き上がらない。
「加那」
ボソリ、と千尋は言う。
僕も頷いた。
こうなったら。
「逃げるぞ!」
僕たちは一斉に駆け出した。
「なぁ、加那」
「なに?」
追っ手が来ないか、確認していたら千尋が声をかけてきた。
「この廊下、こんなに長かったか?」
「え、何言って」
確かに先は見えているのに、いつまでも向こう側に辿り着かない。僕たちは変わらず走り続けている。
「おかしいね」
「だろ?」
ゴト、と不吉な音がした。
ギィと足元の床が抜ける。
当然僕たちは下に落ちていた。
「えぇえっ?!」
「加那!」
千尋が落ちながらも僕の服を掴んでくれた。
運動神経がいいとそんなこともできるのか。
落ちるスピードは止まない。
一体僕たちはどこに来ちゃったんだろう?
「加那、見ろよ」
千尋が見つめている方を見ると惑星が見えた。あれは?
地球に見えるけれど、そんなわけないよな。
辺り一面に星空が広がっている。
「ここって宇宙じゃないよね?」
「まぁそうだよな」
僕たちはまだ落ちている。
これ、着地の時に死ぬんじゃないかな。今になって怖くなってくる。
「千尋、僕たち、このまま死んじゃうのかな?」
「加那」
ぎゅ、と千尋が抱きしめてくれる。少し落ち着いた。
こうして死ねるなら悪くないのかもしれない。
でももっと千尋と生きていたかった。
―勇者たちよ―
突然頭の中で男の人の声がした。
千尋も同じことを感じたようで、僕を見つめる。
―勇者たちよ、異次元世界ヴァーズへようこそ―
こういう始まり方をするゲームは何度もやったことがある。
まさか自分が実際に体験するとは思わなかった。
「あなたは?」
僕が尋ねると彼は笑った。
―私はヴァーズの案内人。そなたらをこの世界に導いた―
どうやら彼は、ゲームで言うところのチュートリアルになるらしい。僕があまり使用しないツールではある。
「なんで俺達を?」
千尋の疑問は最もだ。
彼はまた面白そうに笑う。
―勇者たちよ、自分を救え―
そう声が響いたかと思うと、風を切り裂く音に変わる。
「着いたみたいだな」
突然、落ちるスピードが緩む。
僕たちは無事に地面に着地できた。
周りには木がみっしり生い茂っていて暗い。
空も見えなかった。
これじゃ方角もわからない。
困ったなぁ。
「加那、なんか変なことになっちまったな」
「困ったね、スマホもないし」
「そういやそうだな」
僕たちはとりあえず歩いてみることにした。
遭難したときは動かないのがセオリーだけど、それは救助が来る前提での話だ。
この森はなんだか暖かいし、地面がふわふわしている。
あとは凶暴な動物(例えば熊やイノシシ)がいないことを願うばかりだ。
「加那」
千尋に引っ張られて草の茂みに隠れる形になる。
「どうしたの?」
「あれ、なんだ?」
千尋が示したもの、それはピンクのまぁるいぬいぐるみみたいなものだった。
しかもいっぱいいて、誰かを取り囲みながら踊っているように見える。
取り囲まれている誰かは人間のようだ。
「襲われてるわけじゃないみたいだけど」
「行ってみるか?」
今は一つでも手がかりが欲しい。僕たちは立ち上がって歩きだした。
そこだけはスポットライトが照らされているように明るい。
そこから見える空は青かった。
まだ昼間で安心した。
「すみませーん」
そういえば言葉が通じるかもわからない。
その人は僕たちに気が付いたようだ。顔には銀色の仮面を付けている。身長や体つきから女性であることがわかった。僕たちが彼女に近付こうとすると、何かが飛んでくる。
僕の足元に刺さったそれは、ナイフだった。
「ひぇ」
僕は思わず尻餅をついた。
「姫に近付くな」
彼女と僕たちの間にその人は立ち塞がった。僕たちはその人の顔を見て固まるしかなかった。
彼もまた驚いている。
「貴様、その顔は一体?」
その人は千尋にそっくりだった。
そうそう!可愛いよ」
(なんでこうなっちゃったんだっけ?)
僕の名前は本田加那太。
大平高校の一年生だ。
入学の時に勧誘された新聞部に所属して、先輩方と一緒に毎月新聞を発行している。
そんなことをしていたら、あっという間に時は経って、10月になった。
この部活は新聞以外にカレンダーを毎年販売するとかで、その撮影を今している。
講堂を半分貸し切って作ったスタジオはなかなか本格的だ。
でもまさか、僕が被写体になるとは思わなかった。
しかも女装させられて。(とはいってもメイクくらいだ)
照明をこれでもか、と当てられてとても暑いし、何枚も写真を撮られて疲れてきた。
「加那くん、次の衣装はこれね!」
「え、部長。まだ撮るんですか?」
部長こと、今田真理先輩はにやり、と笑う。
「加那くん、あんた、文化祭のミスコンで優勝したわよね?」
「あれは!」
「違うとは言わせないわよ!
加那くんが出た大会は公式のもと行われたものだし、それが加那くんの実力なの!
あんたのカレンダー、みんな欲しいんだからね!」
そう言われるとなにも返せない。
「というわけでー」
真理先輩はぱちり、とウインクした。
「これに着替えてきなさいね!」
衣装を渡されて、僕は着替えるために家庭科室に向かった。
ここなら姿見がある、そういう理由からだ。
(うっわ)
前の衣装はまだよかった。
この学校のジャージだったからだ。
(男女とも同じデザインだ)
でも今回の衣装は。
(最悪だよ、なんだこれ)
太ももまでしかない赤いミニスカートに、黒いタイツ。
上は長袖のセーラーにクリーム色のセーターだった。
ブレザーはないらしい。
渋々着替えてはみたものの、絶対おかしい。
一歩間違えれば変態だ。
(これで写真撮るなんて、ほとんどエロ本じゃん!)
どうしようか僕は迷って、家庭科室を飛び出した。
とにかくこんな格好で写真なんか撮りたくない。
千尋は教室にいた。どうやら勉強しているらしい。僕は教室の中をうかがった。
奇跡的に他の生徒はいない。 良かった。
「千尋」
声をかけると千尋はようやく僕に気が付いたらしい。千尋は僕を確認するように見てきた。もう、恥ずかしいな。
「加那、なんだよ、その格好」
「僕だってできるならしたくないよ。お願い、千尋!一緒に来て断ってよ!」
「あの圧がやたら強い女部長にか?」
「だからだよ!」
千尋はしばらく黙って溜め息をついた。
「加那、とりあえずジャージ履け。スカート短すぎるよ」
「うん、そうする」
自分のジャージをスカートの下に履くと少しよくなった。
「加那、ほら行くぞ」
「千尋!ありがとう!」
講堂に向かうまでなんだかドキドキした。なるべく人とすれ違いたくない。知り合いだったらなおさらだ。
人が来たらそっと千尋の影に隠れることにして、僕らは無事講堂に戻ってこられた。
千尋の体が大きくて助かった。
「加那くん!遅いわよ!
スケジュールただでさえ押してんのに」
ぷりぷりしながら真理先輩が言う。
「えっと、部長?僕」
「先輩、加那が嫌がってるんでやめてやってください」
僕が怖気づいている間に千尋が言ってくれた。
真理先輩も千尋のことをイケメンだと思っているのは知っている。
イケメンってこういう時、得だよな。
「そうねえ、じゃあ千尋くんも一枚撮らせて頂戴!」
「はぁ?」
真理先輩は笑う。
「加那くんが撮れないなら、仕方ないわよね?」
この人は本当にただじゃ起き上がらない。
「加那」
ボソリ、と千尋は言う。
僕も頷いた。
こうなったら。
「逃げるぞ!」
僕たちは一斉に駆け出した。
「なぁ、加那」
「なに?」
追っ手が来ないか、確認していたら千尋が声をかけてきた。
「この廊下、こんなに長かったか?」
「え、何言って」
確かに先は見えているのに、いつまでも向こう側に辿り着かない。僕たちは変わらず走り続けている。
「おかしいね」
「だろ?」
ゴト、と不吉な音がした。
ギィと足元の床が抜ける。
当然僕たちは下に落ちていた。
「えぇえっ?!」
「加那!」
千尋が落ちながらも僕の服を掴んでくれた。
運動神経がいいとそんなこともできるのか。
落ちるスピードは止まない。
一体僕たちはどこに来ちゃったんだろう?
「加那、見ろよ」
千尋が見つめている方を見ると惑星が見えた。あれは?
地球に見えるけれど、そんなわけないよな。
辺り一面に星空が広がっている。
「ここって宇宙じゃないよね?」
「まぁそうだよな」
僕たちはまだ落ちている。
これ、着地の時に死ぬんじゃないかな。今になって怖くなってくる。
「千尋、僕たち、このまま死んじゃうのかな?」
「加那」
ぎゅ、と千尋が抱きしめてくれる。少し落ち着いた。
こうして死ねるなら悪くないのかもしれない。
でももっと千尋と生きていたかった。
―勇者たちよ―
突然頭の中で男の人の声がした。
千尋も同じことを感じたようで、僕を見つめる。
―勇者たちよ、異次元世界ヴァーズへようこそ―
こういう始まり方をするゲームは何度もやったことがある。
まさか自分が実際に体験するとは思わなかった。
「あなたは?」
僕が尋ねると彼は笑った。
―私はヴァーズの案内人。そなたらをこの世界に導いた―
どうやら彼は、ゲームで言うところのチュートリアルになるらしい。僕があまり使用しないツールではある。
「なんで俺達を?」
千尋の疑問は最もだ。
彼はまた面白そうに笑う。
―勇者たちよ、自分を救え―
そう声が響いたかと思うと、風を切り裂く音に変わる。
「着いたみたいだな」
突然、落ちるスピードが緩む。
僕たちは無事に地面に着地できた。
周りには木がみっしり生い茂っていて暗い。
空も見えなかった。
これじゃ方角もわからない。
困ったなぁ。
「加那、なんか変なことになっちまったな」
「困ったね、スマホもないし」
「そういやそうだな」
僕たちはとりあえず歩いてみることにした。
遭難したときは動かないのがセオリーだけど、それは救助が来る前提での話だ。
この森はなんだか暖かいし、地面がふわふわしている。
あとは凶暴な動物(例えば熊やイノシシ)がいないことを願うばかりだ。
「加那」
千尋に引っ張られて草の茂みに隠れる形になる。
「どうしたの?」
「あれ、なんだ?」
千尋が示したもの、それはピンクのまぁるいぬいぐるみみたいなものだった。
しかもいっぱいいて、誰かを取り囲みながら踊っているように見える。
取り囲まれている誰かは人間のようだ。
「襲われてるわけじゃないみたいだけど」
「行ってみるか?」
今は一つでも手がかりが欲しい。僕たちは立ち上がって歩きだした。
そこだけはスポットライトが照らされているように明るい。
そこから見える空は青かった。
まだ昼間で安心した。
「すみませーん」
そういえば言葉が通じるかもわからない。
その人は僕たちに気が付いたようだ。顔には銀色の仮面を付けている。身長や体つきから女性であることがわかった。僕たちが彼女に近付こうとすると、何かが飛んでくる。
僕の足元に刺さったそれは、ナイフだった。
「ひぇ」
僕は思わず尻餅をついた。
「姫に近付くな」
彼女と僕たちの間にその人は立ち塞がった。僕たちはその人の顔を見て固まるしかなかった。
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