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ユウイと誕生日(グレイ✕ユウイ)
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(ん?あれは、ユウイさん?)
それはある日の昼下がり。グレイはいつものように他の騎士と街を巡回していた。ふと見るとユウイがあたりを警戒しながらある店に入っていくのをグレイは見逃さなかった。
(あれではますます不審がられるような気がするんだが)
グレイは他の騎士たちに先に戻る様に伝えて、その店に入ってみた。なんの変哲もない普通の手芸屋である。ユウイはなぜあんなに周りを警戒していたのかますます疑問が残る。店を見ているとユウイが棚の前で悩んでいる場面に遭遇した。
「ユウイさん?」
「ふあ!」
後ろから声を掛けられたユウイは飛びあがった。やはり何かしようとしているらしい。
「ドレスの材料ですか?」
ユウイは目線を泳がせた。そしてユウイがちょいちょいと手招きするのでグレイは顔を寄せた。
「くまさんを作るんです」
「?くまさんですか?」
グレイにはなんのことだかさっぱり分からない。
「詳しくはお家で話します。俺がくまさんを作ることは周りの人には秘密ですよ?」
可愛らしくそう言われてしまえばグレイも頷かざるを得ない。
「騎士の誇りを賭けて誓いましょう」
「さすがグレイ様。ではあとで」
ユウイは会計を済ませるとすごい勢いで店を出て行った。
(くまさんか。ユウイさんが作るならきっと可愛いものが出来上がるんだろうな)
グレイもそっと店を後にした。訓練を終えたグレイは家に帰った。ユウイはいつものように食事を作ってくれている。
「ただいま、ユウイさん」
「あ、グレイ様。お帰りなさい。今お茶淹れますね」
「ありがとう」
ユウイが先ほど買ってきたと思われる店の紙袋が居間のソファに置きっぱなしになっている。
「先ほどは何を買っていたんですか?」
ユウイは内緒ですよと再び念を押してきた。
「もうすぐミユの誕生日なんですが、着せ替えできるくまさんのぬいぐるみを作ろうかと思ってて」
「さすがユウイさん。ミユ殿もきっと喜ばれるでしょう」
「今日徹夜して作ろうかと」
「無理をしない程度にしてくださいね」
「大丈夫です。俺、体力はあるんで」
ユウイがえっへんと胸をのけぞらせた。グレイとしては心配だったが、こうと決めたらユウイは絶対にやり遂げる。
「休憩しながら作業してくださいね」
「はい、約束します」
ユウイはふんすと鼻息を荒くした。
***
「ふああ、眠い。でももう少し」
ユウイはクマの体を作っている。顔は思っていたより可愛らしく作ることが出来た。
「良い感じに出来たなあ。やっぱり仕事以外でなにか作った方が気分転換になるんだ」
ユウイは作業を切り上げることにした。もうすぐ明け方だ。グレイの朝食を作る時間である。
「今日はなににしようかなあ。グレイ様ってば、なんでも美味しいって食べてくれるし作り甲斐はあるんだけどね」
久し振りに麺料理にすることに決めたユウイはお湯を沸かし始めた。
「おはよう、ユウイさん。本当に眠ってないんですね。大丈夫ですか?」
「おはようございます。はい、ご飯食べたら軽く寝ます。依頼もあるんですがまだ締切まで期間があるので」
「それがいいですね。ユウイさんが元気な方がいいですよ」
グレイの言葉はいつも優しい。ユウイはふふ、と笑った。朝食は先程湯がいたあっさりした味付けの麺料理だ。優しい味付けで寝起きにはちょうどいい。最近気が付いたことがある、食後のコーヒーは濃い目に淹れたほうがいいらしい。グレイはただでさえ激務だ。コーヒーが彼のスイッチをオンにさせるようだ。
「ユウイさんのご飯は美味しいですね」
おかずで焼いた目玉焼きをナイフで切り分け口に放るグレイにユウイは思わずニヤけていた。
「本当ですか?よかったれふ!」
目をハート型にしながらユウイは答えた。グレイが笑っている。今日も幸せだなとユウイは実感していた。
✢✢✢
「大変だ、急がなくちゃ」
ユウイは焦っている。くまのぬいぐるみをラッピングするのに手間取ってしまったのだ。可愛らしくラッピングをするのはなかなか難しく、ああでもないこうでもないと時間がかかった。
ミユの誕生日パーティーは彼女の自宅で行われている。ユウイはプレゼントを持って彼女の家に急いだ。
「さすが金持ち…俺の家とは随分違うなぁ」
ユウイは家を見ながら呟いた。城に勤めるためにはそれなりの家柄である必要がある。自分では場違いだなと思いながらユウイは中に入った。
「あ、ユウイ様ー!」
ミユが人々の中心にいて、楽しそうに笑っている。今日はいつもの地味な服ではなくお姫様のようだ。
(なんか、いいよな。ミユが幸せそうで良かった)
ユウイは頭を下げて彼らに近付いた。
「えー、このくまさん可愛い。このドレスが特に可愛い」
「いいなぁー、ミユ」
ミユは早速ユウイが渡したプレゼントを開封している。同じくらいの年頃の女の子がくまをじいっと見つめている。
「うちの娘にも作ってほしい…」
「あ!私も!!」
ユウイはもちろん喜んでと笑った。
✢✢✢
「ただいま戻りました」
夕方、ユウイはお土産を手に自宅に戻った。ミユの母親が焼いたケーキらしい。ミユの家でもご馳走になったが、しっとりとして美味しかった。
「ユウイさん、お帰り。楽しめたようですね」
「ふふ、お仕事の依頼、いっぱい頂いたんですよ」
「ユウイさんのお誕生日も何かしましょう」
「え!」
グレイが頷く。村にいた時もみんなに祝ってもらっていた。
「嬉しいです!もちろんグレイ様のお誕生日もですよね!」
「はは、そうですね」
ユウイはグレイに抱き着いた。なんだかこうしたかった。よしよしとグレイに頭を撫でられる。
「なんか家族っていいなって思ったんです。俺にはもうグレイ様だけだから」
「ユウイさん…」
「って、俺おかしいですよね!今お夕飯作りますね!」
ユウイはばたばたとエプロンを着けて夕飯の支度をし始めた。
おわり
それはある日の昼下がり。グレイはいつものように他の騎士と街を巡回していた。ふと見るとユウイがあたりを警戒しながらある店に入っていくのをグレイは見逃さなかった。
(あれではますます不審がられるような気がするんだが)
グレイは他の騎士たちに先に戻る様に伝えて、その店に入ってみた。なんの変哲もない普通の手芸屋である。ユウイはなぜあんなに周りを警戒していたのかますます疑問が残る。店を見ているとユウイが棚の前で悩んでいる場面に遭遇した。
「ユウイさん?」
「ふあ!」
後ろから声を掛けられたユウイは飛びあがった。やはり何かしようとしているらしい。
「ドレスの材料ですか?」
ユウイは目線を泳がせた。そしてユウイがちょいちょいと手招きするのでグレイは顔を寄せた。
「くまさんを作るんです」
「?くまさんですか?」
グレイにはなんのことだかさっぱり分からない。
「詳しくはお家で話します。俺がくまさんを作ることは周りの人には秘密ですよ?」
可愛らしくそう言われてしまえばグレイも頷かざるを得ない。
「騎士の誇りを賭けて誓いましょう」
「さすがグレイ様。ではあとで」
ユウイは会計を済ませるとすごい勢いで店を出て行った。
(くまさんか。ユウイさんが作るならきっと可愛いものが出来上がるんだろうな)
グレイもそっと店を後にした。訓練を終えたグレイは家に帰った。ユウイはいつものように食事を作ってくれている。
「ただいま、ユウイさん」
「あ、グレイ様。お帰りなさい。今お茶淹れますね」
「ありがとう」
ユウイが先ほど買ってきたと思われる店の紙袋が居間のソファに置きっぱなしになっている。
「先ほどは何を買っていたんですか?」
ユウイは内緒ですよと再び念を押してきた。
「もうすぐミユの誕生日なんですが、着せ替えできるくまさんのぬいぐるみを作ろうかと思ってて」
「さすがユウイさん。ミユ殿もきっと喜ばれるでしょう」
「今日徹夜して作ろうかと」
「無理をしない程度にしてくださいね」
「大丈夫です。俺、体力はあるんで」
ユウイがえっへんと胸をのけぞらせた。グレイとしては心配だったが、こうと決めたらユウイは絶対にやり遂げる。
「休憩しながら作業してくださいね」
「はい、約束します」
ユウイはふんすと鼻息を荒くした。
***
「ふああ、眠い。でももう少し」
ユウイはクマの体を作っている。顔は思っていたより可愛らしく作ることが出来た。
「良い感じに出来たなあ。やっぱり仕事以外でなにか作った方が気分転換になるんだ」
ユウイは作業を切り上げることにした。もうすぐ明け方だ。グレイの朝食を作る時間である。
「今日はなににしようかなあ。グレイ様ってば、なんでも美味しいって食べてくれるし作り甲斐はあるんだけどね」
久し振りに麺料理にすることに決めたユウイはお湯を沸かし始めた。
「おはよう、ユウイさん。本当に眠ってないんですね。大丈夫ですか?」
「おはようございます。はい、ご飯食べたら軽く寝ます。依頼もあるんですがまだ締切まで期間があるので」
「それがいいですね。ユウイさんが元気な方がいいですよ」
グレイの言葉はいつも優しい。ユウイはふふ、と笑った。朝食は先程湯がいたあっさりした味付けの麺料理だ。優しい味付けで寝起きにはちょうどいい。最近気が付いたことがある、食後のコーヒーは濃い目に淹れたほうがいいらしい。グレイはただでさえ激務だ。コーヒーが彼のスイッチをオンにさせるようだ。
「ユウイさんのご飯は美味しいですね」
おかずで焼いた目玉焼きをナイフで切り分け口に放るグレイにユウイは思わずニヤけていた。
「本当ですか?よかったれふ!」
目をハート型にしながらユウイは答えた。グレイが笑っている。今日も幸せだなとユウイは実感していた。
✢✢✢
「大変だ、急がなくちゃ」
ユウイは焦っている。くまのぬいぐるみをラッピングするのに手間取ってしまったのだ。可愛らしくラッピングをするのはなかなか難しく、ああでもないこうでもないと時間がかかった。
ミユの誕生日パーティーは彼女の自宅で行われている。ユウイはプレゼントを持って彼女の家に急いだ。
「さすが金持ち…俺の家とは随分違うなぁ」
ユウイは家を見ながら呟いた。城に勤めるためにはそれなりの家柄である必要がある。自分では場違いだなと思いながらユウイは中に入った。
「あ、ユウイ様ー!」
ミユが人々の中心にいて、楽しそうに笑っている。今日はいつもの地味な服ではなくお姫様のようだ。
(なんか、いいよな。ミユが幸せそうで良かった)
ユウイは頭を下げて彼らに近付いた。
「えー、このくまさん可愛い。このドレスが特に可愛い」
「いいなぁー、ミユ」
ミユは早速ユウイが渡したプレゼントを開封している。同じくらいの年頃の女の子がくまをじいっと見つめている。
「うちの娘にも作ってほしい…」
「あ!私も!!」
ユウイはもちろん喜んでと笑った。
✢✢✢
「ただいま戻りました」
夕方、ユウイはお土産を手に自宅に戻った。ミユの母親が焼いたケーキらしい。ミユの家でもご馳走になったが、しっとりとして美味しかった。
「ユウイさん、お帰り。楽しめたようですね」
「ふふ、お仕事の依頼、いっぱい頂いたんですよ」
「ユウイさんのお誕生日も何かしましょう」
「え!」
グレイが頷く。村にいた時もみんなに祝ってもらっていた。
「嬉しいです!もちろんグレイ様のお誕生日もですよね!」
「はは、そうですね」
ユウイはグレイに抱き着いた。なんだかこうしたかった。よしよしとグレイに頭を撫でられる。
「なんか家族っていいなって思ったんです。俺にはもうグレイ様だけだから」
「ユウイさん…」
「って、俺おかしいですよね!今お夕飯作りますね!」
ユウイはばたばたとエプロンを着けて夕飯の支度をし始めた。
おわり
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