8 / 16
3
翼の姉③(大地✕翼)
しおりを挟む
温泉にゆっくり浸かった二人は沢山の料理に囲まれている。
「これ、全部試作なの。今、料理の新しいコースを考えていて」
「へー、美味しそうですね。これ、テリーヌですか?」
「そうなの!大地さん、さすが!なんちゃってフレンチ目指したの!」
「フレンチはお洒落ですね」
「姉さん、色々大変だねぇ」
「翼に言われたくないー」
翼はワインの入ったグラスを持った。大地は飲めないのでノンアルコールのビールだ。
「じゃあ翼さん、乾杯する?」
「なんの乾杯?」
「そうだねえ、お姉さんの商売の成功とか?」
「本当に成功して欲しい」
姉が呟く。
今、宿を新しくリホームして都心部の若い人たちの集客を狙っているらしい。宿自体は老舗で有名なのだが、レビューに設備が古いと書かれたと姉は言っていた。それが与えたショックは大きかったらしい。
「トイレとか水回りが綺麗ってやっぱり大事なのよね」
「そういう所って本当に気を付けないとすぐ汚れますもんね」
流石大地は経営者なだけある。視線が高い。
「そうなの。私一人じゃどうしようも出来なくて。かといって若い人はどんどん都会に出ちゃうでしょ?従業員もどんどん年を取るし」
「うーん、一回都会の便利さを知っちゃうとなあ」
翼は二人の話に頷きながら料理を口に入れてみた。
「あ、ウマ」
「良かった」
「翼さん、どれ食べたの?」
「そのテリーヌってやつ」
大地も頬張っている。
「うん、本当だ。美味しい」
他にもあれやこれや食べてみたが鹿肉のすき焼きで締めるのに二人はびっくりした。
「いや、美味しいけども材料費が凄そう。手間もかかりそうだし」
大地が素直に感想を述べる。
「そうなのよねえ。宿っていえば海鮮っていうイメージが強いから、山の方だとどうしても天ぷらとかすき焼きになるのよね。お刺身もそれなりにいいものを用意してるんだけど」
「キノコの天ぷら美味しかったよ?」
翼がそう言うと本当?と姉が顔を輝かせる。
「サクサクしてましたね。家じゃ、ああはいかないよな」
大地も頷いている。翼は姉に向き直った。
「姉さん、せっかく長野で宿をやってるんだし、長野ならではのご飯を食べたいってお客さんは思うんじゃないかな。リホームさえすれば今のままでもやっていけるよ。調べたけど、ここの評判悪くないじゃない」
「翼・・そうね。でも時々フレンチコースやってみようかしら」
「それは楽しそう」
大地がほんわか笑う。
「あのテリーヌすごく美味しかったし鹿肉のローストとか良い感じ」
「待って、メモする」
姉は翼たちから意見を聞けてかなりホッとしてくれたらしい。改装が終わるのは今月いっぱいのようだ。
リニューアルオープンまでもう間近だ。
「姉さん、本当に宿泊費払わなくていいの?」
「大丈夫よ。むしろ泊まってもらって有難いわ」
「翼さん、今度はちゃんと予約して来よう」
「うん」
「また予約してくれるのを待ってるわね」
***
二人は布団に横になっている。
「ああ、久しぶりだね。こんなにゆっくりしたの」
「うん。大地君は特にゆっくりしないと」
「それは翼さんもでしょ?」
「俺は大地君のお陰でゆっくりしてるよ」
「肩痛いんでしょ」
ギクッとなってしまった翼である。
「なんで分かるの?」
焦りながら問うと、大地がそりゃあね、と笑った。
「翼さん肩痛いと手でさするし」
「あ・・・」
翼はそれに自分で気が付いた。大地がやってきて翼を助け起こしてくれる。
「軽く解すね」
大地が指で肩を押す。
「ふあっ」
「翼さんが毎回エロイ」
参ったなあと大地が溜息を吐く。
「わざとじゃないよ?」
「だから余計困ってるんでしょ」
しばらく指で念入りに肩を解される。だんだん翼はウトウトしてきた。
「翼さん、楽になって来た?」
「ん、気持ちいい」
「良かった。ゆっくり眠ってね」
「ありがと」
翼はそのまま眠ってしまった。気が付くと朝だ。大地の姿がない。どこへ行ってしまったのかと思っていたら、大地はしばらくして帰って来た。
「いやあ、長野の朝好き」
「走って来たの?」
「うん、空気が美味しい。すごく澄み渡っているというか」
大地は感動しているらしい。二人は帰る前にもう一度温泉に入ることにした。
「ふああ、気持ちいい」
「朝から熱いお風呂最高だね」
「ね」
湯船の中、二人でふふと笑い合う。
「大地君、一緒に来てくれて、ありがとう」
「こっちこそありがとう」
二人は軽くキスをした。
こうして旅行にまた来られたらいいなと翼は密かに思ったのだ。
おわり
「これ、全部試作なの。今、料理の新しいコースを考えていて」
「へー、美味しそうですね。これ、テリーヌですか?」
「そうなの!大地さん、さすが!なんちゃってフレンチ目指したの!」
「フレンチはお洒落ですね」
「姉さん、色々大変だねぇ」
「翼に言われたくないー」
翼はワインの入ったグラスを持った。大地は飲めないのでノンアルコールのビールだ。
「じゃあ翼さん、乾杯する?」
「なんの乾杯?」
「そうだねえ、お姉さんの商売の成功とか?」
「本当に成功して欲しい」
姉が呟く。
今、宿を新しくリホームして都心部の若い人たちの集客を狙っているらしい。宿自体は老舗で有名なのだが、レビューに設備が古いと書かれたと姉は言っていた。それが与えたショックは大きかったらしい。
「トイレとか水回りが綺麗ってやっぱり大事なのよね」
「そういう所って本当に気を付けないとすぐ汚れますもんね」
流石大地は経営者なだけある。視線が高い。
「そうなの。私一人じゃどうしようも出来なくて。かといって若い人はどんどん都会に出ちゃうでしょ?従業員もどんどん年を取るし」
「うーん、一回都会の便利さを知っちゃうとなあ」
翼は二人の話に頷きながら料理を口に入れてみた。
「あ、ウマ」
「良かった」
「翼さん、どれ食べたの?」
「そのテリーヌってやつ」
大地も頬張っている。
「うん、本当だ。美味しい」
他にもあれやこれや食べてみたが鹿肉のすき焼きで締めるのに二人はびっくりした。
「いや、美味しいけども材料費が凄そう。手間もかかりそうだし」
大地が素直に感想を述べる。
「そうなのよねえ。宿っていえば海鮮っていうイメージが強いから、山の方だとどうしても天ぷらとかすき焼きになるのよね。お刺身もそれなりにいいものを用意してるんだけど」
「キノコの天ぷら美味しかったよ?」
翼がそう言うと本当?と姉が顔を輝かせる。
「サクサクしてましたね。家じゃ、ああはいかないよな」
大地も頷いている。翼は姉に向き直った。
「姉さん、せっかく長野で宿をやってるんだし、長野ならではのご飯を食べたいってお客さんは思うんじゃないかな。リホームさえすれば今のままでもやっていけるよ。調べたけど、ここの評判悪くないじゃない」
「翼・・そうね。でも時々フレンチコースやってみようかしら」
「それは楽しそう」
大地がほんわか笑う。
「あのテリーヌすごく美味しかったし鹿肉のローストとか良い感じ」
「待って、メモする」
姉は翼たちから意見を聞けてかなりホッとしてくれたらしい。改装が終わるのは今月いっぱいのようだ。
リニューアルオープンまでもう間近だ。
「姉さん、本当に宿泊費払わなくていいの?」
「大丈夫よ。むしろ泊まってもらって有難いわ」
「翼さん、今度はちゃんと予約して来よう」
「うん」
「また予約してくれるのを待ってるわね」
***
二人は布団に横になっている。
「ああ、久しぶりだね。こんなにゆっくりしたの」
「うん。大地君は特にゆっくりしないと」
「それは翼さんもでしょ?」
「俺は大地君のお陰でゆっくりしてるよ」
「肩痛いんでしょ」
ギクッとなってしまった翼である。
「なんで分かるの?」
焦りながら問うと、大地がそりゃあね、と笑った。
「翼さん肩痛いと手でさするし」
「あ・・・」
翼はそれに自分で気が付いた。大地がやってきて翼を助け起こしてくれる。
「軽く解すね」
大地が指で肩を押す。
「ふあっ」
「翼さんが毎回エロイ」
参ったなあと大地が溜息を吐く。
「わざとじゃないよ?」
「だから余計困ってるんでしょ」
しばらく指で念入りに肩を解される。だんだん翼はウトウトしてきた。
「翼さん、楽になって来た?」
「ん、気持ちいい」
「良かった。ゆっくり眠ってね」
「ありがと」
翼はそのまま眠ってしまった。気が付くと朝だ。大地の姿がない。どこへ行ってしまったのかと思っていたら、大地はしばらくして帰って来た。
「いやあ、長野の朝好き」
「走って来たの?」
「うん、空気が美味しい。すごく澄み渡っているというか」
大地は感動しているらしい。二人は帰る前にもう一度温泉に入ることにした。
「ふああ、気持ちいい」
「朝から熱いお風呂最高だね」
「ね」
湯船の中、二人でふふと笑い合う。
「大地君、一緒に来てくれて、ありがとう」
「こっちこそありがとう」
二人は軽くキスをした。
こうして旅行にまた来られたらいいなと翼は密かに思ったのだ。
おわり
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。



もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる