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二人きりの結婚式③(大地✕翼)
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それから翼は、昼過ぎまで眠っていた。今朝方の作業が随分捗ったお陰でゆっくり眠れる。
「翼さん、寒くない?」
ウトウトしていたところに大地の声が聞こえて、翼はハッとなった。
「うん、寒くない。おはよう、大地君」
「まだ寝てれば?」
翼はしばらくごろごろしていたが起きることに決めた。今日は大事な日だ。
「大地君と一緒にいたい」
「翼さんは本当に可愛いな」
大地がベッドの縁に座ったので翼も隣に腰掛けた。
「とりあえずお昼食べようか?」
「うん」
今日の大地は夕食にかなり力を入れているらしい。ステーキだと聞いて翼は驚いた。牛肉が食べられる時点でかなりお祝いムードである。
「お昼はなんだろう?」
どうやらもう出来ているらしい。翼が食卓につくとラーメンが出てきた。
「わあ、タンメンだ」
「野菜が冷蔵庫にあったから全部入れてみました」
どうやら大地は冷蔵庫の掃除をしたらしい。
「嬉しい、野菜タンメン大好き」
向かいに座った大地が笑う。
「作業は順調そうだね」
「珍しくねえ」
翼が笑うとそう?と大地が首を傾げた。
「翼さんが作業に行き詰まってるのあんまり見たことないけどね?」
「大地君、俺は凡人なんだよ?行き詰まってばっかりなんだからね」
「それでも締め切り守れる翼さん偉い」
「ふふ」
ずるると温かいラーメンを啜るとふわりと塩の風味が広がる。
「うまーい」
「よかった」
「あのね、結婚式ってご馳走食べるだけ?」
「なにかしたいことがあるの?」
大地に問われて翼は頷いた。大地が笑う。
「翼さんのことだから可愛いことなんだろうね」
翼はスクラップブックのことを内緒にしている。大地が喜んでくれるかはまだ分からないが、ここで言ってしまうとサプライズではなくなってしまうので翼は黙っていた。
「えっと、楽しみにしていてね」
翼がそう言うと大地が笑って頷いてくれる。
「じゃあ仕事に戻るね。翼さんはゆっくりするんだよ、必要であれば揉むし」
「あとでお願いしようかな。なんか肩がイマイチで」
「そんな気がした。徹夜のダメージは結構大きそうだよね」
翼も頷いた。人間は老いる。それは誰もが経験することだろう。
「大地君、行ってらっしゃい」
大地に行ってらっしゃいのキスをして見送る。
翼はPCに向かった。イラストに不備がないか確認する。自分で撮った写真を眺めて「あ」と思いついた。
「俺たちのイラストを最後にスクラップブックに貼ってみようかな」
その方がまとまりがいい、翼はそう思い描き始めた。普段から翼は自分たちの似顔絵を描いている。少しディフォルメした可愛い感じだが、それがここに活かされそうだ。
手は既に線を覚えていてスラスラと形になっていく。
「うん、これでよし、と」
色を塗り終えて翼は印刷をした。スクラップブックに貼り付ける。
二人だけのスクラップブックだ。ずっと大事にしていきたいと翼は思っている。
「翼さん、おやつあるよー」
急に大地の声がして翼は慌ててスクラップブックを隠した。
「おやつ?」
「うん。越野が差し入れにって」
それは大きなマドレーヌだった。
「わああ、美味しそう」
「お茶淹れるね」
「ありがとう」
マドレーヌはふっくらと柔らかく、バターの風味がした。
「美味しすぎる」
大地が自分の料理より遥かに美味しいと凹んでいて翼は笑った。
***
その日の夜。
「じゃあ翼さん、やってみようか」
「うん」
二人はお互いを見つめ合った。結婚式といえば誓いのキスである。
「翼さんと俺、大地は一生の苦楽を共にし、死するまで共にいることを誓います。翼さんは?」
「誓います」
二人はキスをした。誓うという行為に慣れず、翼は緊張していた。
「大丈夫だよ、翼さん。そんなに固くならないで」
大地がそっと肩を撫でてくれる。
「今日も凝ってますね、お兄さん」
「ん!」
大地の指がツボに入ってしまった。
「翼さんがまたエッチな声を」
「エッチじゃないよ」
翼は慌てて否定したが、大地はそう思っていない。ぎゅっと翼を抱きしめてきた。
「翼さんは存在が天使だしなあ」
そのまま口吻られる。
「ん、ンン」
誓いのキスより、深いキスをされる。
「ん、っ・・・」
「可愛い。翼さん大好き」
ぎゅっと抱きしめられて耳元で囁かれる。それだけでゾクリとしてしまう。どうやら大地の声に弱いらしいということに翼は気がついた。
「翼さん、キーリング見る?」
「うん」
既に声が掠れてしまっている。翼はそのことに顔が熱くなっった。
「翼さん、いっぱい啼いてくれたもんね」
「言わないで、恥ずかしい」
翼が手で顔を隠したがもう遅い。
「はい、これ。翼さんの」
キーリングを渡されて翼は慎重に受け取った。
「ありがとう。嬉しい」
「二人で一緒に買い物するの久しぶりだね」
「うん、嬉しい」
キーリングの石を翼はじっと見つめた。青い石だ。大地という文字がローマ字で入っている。
「これがあれば大地君と一緒だね」
「出来れば俺がそばにいたいけどね」
大地が笑う。
翼はそこでハッとなった。
「あのね、大地君に見せたいものがあるの」
「わあ、なんだろう」
翼は先程隠したスクラップブックを取り出した。
「わあ、これ。俺たちの写真だ」
大地がぱらりとページを捲る。
「すごいね、翼さん。俺たちのことずっと覚えていられるね」
「うん、ずっと一緒にいたいから」
「俺もいたいよ。翼さん愛してる」
「うん、俺も」
二人は抱きしめあった。今日のことを翼はきっと忘れない。
おわり
「翼さん、寒くない?」
ウトウトしていたところに大地の声が聞こえて、翼はハッとなった。
「うん、寒くない。おはよう、大地君」
「まだ寝てれば?」
翼はしばらくごろごろしていたが起きることに決めた。今日は大事な日だ。
「大地君と一緒にいたい」
「翼さんは本当に可愛いな」
大地がベッドの縁に座ったので翼も隣に腰掛けた。
「とりあえずお昼食べようか?」
「うん」
今日の大地は夕食にかなり力を入れているらしい。ステーキだと聞いて翼は驚いた。牛肉が食べられる時点でかなりお祝いムードである。
「お昼はなんだろう?」
どうやらもう出来ているらしい。翼が食卓につくとラーメンが出てきた。
「わあ、タンメンだ」
「野菜が冷蔵庫にあったから全部入れてみました」
どうやら大地は冷蔵庫の掃除をしたらしい。
「嬉しい、野菜タンメン大好き」
向かいに座った大地が笑う。
「作業は順調そうだね」
「珍しくねえ」
翼が笑うとそう?と大地が首を傾げた。
「翼さんが作業に行き詰まってるのあんまり見たことないけどね?」
「大地君、俺は凡人なんだよ?行き詰まってばっかりなんだからね」
「それでも締め切り守れる翼さん偉い」
「ふふ」
ずるると温かいラーメンを啜るとふわりと塩の風味が広がる。
「うまーい」
「よかった」
「あのね、結婚式ってご馳走食べるだけ?」
「なにかしたいことがあるの?」
大地に問われて翼は頷いた。大地が笑う。
「翼さんのことだから可愛いことなんだろうね」
翼はスクラップブックのことを内緒にしている。大地が喜んでくれるかはまだ分からないが、ここで言ってしまうとサプライズではなくなってしまうので翼は黙っていた。
「えっと、楽しみにしていてね」
翼がそう言うと大地が笑って頷いてくれる。
「じゃあ仕事に戻るね。翼さんはゆっくりするんだよ、必要であれば揉むし」
「あとでお願いしようかな。なんか肩がイマイチで」
「そんな気がした。徹夜のダメージは結構大きそうだよね」
翼も頷いた。人間は老いる。それは誰もが経験することだろう。
「大地君、行ってらっしゃい」
大地に行ってらっしゃいのキスをして見送る。
翼はPCに向かった。イラストに不備がないか確認する。自分で撮った写真を眺めて「あ」と思いついた。
「俺たちのイラストを最後にスクラップブックに貼ってみようかな」
その方がまとまりがいい、翼はそう思い描き始めた。普段から翼は自分たちの似顔絵を描いている。少しディフォルメした可愛い感じだが、それがここに活かされそうだ。
手は既に線を覚えていてスラスラと形になっていく。
「うん、これでよし、と」
色を塗り終えて翼は印刷をした。スクラップブックに貼り付ける。
二人だけのスクラップブックだ。ずっと大事にしていきたいと翼は思っている。
「翼さん、おやつあるよー」
急に大地の声がして翼は慌ててスクラップブックを隠した。
「おやつ?」
「うん。越野が差し入れにって」
それは大きなマドレーヌだった。
「わああ、美味しそう」
「お茶淹れるね」
「ありがとう」
マドレーヌはふっくらと柔らかく、バターの風味がした。
「美味しすぎる」
大地が自分の料理より遥かに美味しいと凹んでいて翼は笑った。
***
その日の夜。
「じゃあ翼さん、やってみようか」
「うん」
二人はお互いを見つめ合った。結婚式といえば誓いのキスである。
「翼さんと俺、大地は一生の苦楽を共にし、死するまで共にいることを誓います。翼さんは?」
「誓います」
二人はキスをした。誓うという行為に慣れず、翼は緊張していた。
「大丈夫だよ、翼さん。そんなに固くならないで」
大地がそっと肩を撫でてくれる。
「今日も凝ってますね、お兄さん」
「ん!」
大地の指がツボに入ってしまった。
「翼さんがまたエッチな声を」
「エッチじゃないよ」
翼は慌てて否定したが、大地はそう思っていない。ぎゅっと翼を抱きしめてきた。
「翼さんは存在が天使だしなあ」
そのまま口吻られる。
「ん、ンン」
誓いのキスより、深いキスをされる。
「ん、っ・・・」
「可愛い。翼さん大好き」
ぎゅっと抱きしめられて耳元で囁かれる。それだけでゾクリとしてしまう。どうやら大地の声に弱いらしいということに翼は気がついた。
「翼さん、キーリング見る?」
「うん」
既に声が掠れてしまっている。翼はそのことに顔が熱くなっった。
「翼さん、いっぱい啼いてくれたもんね」
「言わないで、恥ずかしい」
翼が手で顔を隠したがもう遅い。
「はい、これ。翼さんの」
キーリングを渡されて翼は慎重に受け取った。
「ありがとう。嬉しい」
「二人で一緒に買い物するの久しぶりだね」
「うん、嬉しい」
キーリングの石を翼はじっと見つめた。青い石だ。大地という文字がローマ字で入っている。
「これがあれば大地君と一緒だね」
「出来れば俺がそばにいたいけどね」
大地が笑う。
翼はそこでハッとなった。
「あのね、大地君に見せたいものがあるの」
「わあ、なんだろう」
翼は先程隠したスクラップブックを取り出した。
「わあ、これ。俺たちの写真だ」
大地がぱらりとページを捲る。
「すごいね、翼さん。俺たちのことずっと覚えていられるね」
「うん、ずっと一緒にいたいから」
「俺もいたいよ。翼さん愛してる」
「うん、俺も」
二人は抱きしめあった。今日のことを翼はきっと忘れない。
おわり
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