大好きなお姉ちゃんとモンスター喫茶店、始めました!

はやしかわともえ

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十話・プリンセス

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1・「☓☓☓ちゃん、探したのよ。何処に行っていたの?」

ドレスを着たお姉ちゃんが目の前にいて、驚いた。あたしもまたドレスを着ている。ナニコレ、どうゆうこと?もしかして、あの子が言っていた過去の世界に来ちゃったの?つまりあの子がお姫様?しかもあたしの名前と思われる部分だけ雑音が入って上手く聞き取れない。多分、お姫様が記憶を失ってるせいだと思うんだけど。お姉ちゃんがあたしの顔を覗き込んでくる。いつの時代でもお姉ちゃんは美人さんだな、じゃなくて。

「お姉ちゃん、あたしね!」

「急にどうしたの?ほら、お父様たちが待っているわ。行きましょうか」

お姉ちゃんがあたしの腕を優しく掴んだ。

「きっと、疲れちゃったのよね」

よしよし、と頭を撫でられる。駄目だ、ちゃんと話を聞いて貰えそうにない。お姫様はどんな子だったんだろう?さっき会って話した限りでは、あまり明るい子ではなかったのかなって思った。なんだか感情が薄くて、少し仄暗さのある女の子。あたしはその子の生まれ変わり?うーん、良く分からなくなってきた。

「☓☓☓ちゃん、こっちよ」

お姉ちゃんに手を引かれるまま歩く。そこにいたのは立派な体躯をした男性と綺麗な女性が立っていた。まさか、この人たち…。

「お母様、お父様、お待たせ致しました」

お姉ちゃんが声を掛ける。両親が美男美女!もう耐えられない!

「☓☓☓、また龍と話していたのかな?」

にっこりと男性が笑いながら甘い低い声であたしに言う。なにこれ、やっっば。とりあえず情報を得ないとね。

「え、えーと、龍と話していたような、いなかったような…そもそもあたしはなんで龍と話してるんですかね?」

うっわ、あたし、情報探るの下手すぎか。テンパったら余計怪しまれる。気を付けないと。

「☓☓☓は龍と友達だと言っていたじゃない」

お母様、と呼ばれていた女性が言う。

「あ、そう、お友達!その通りですわ!オホホ」

あれ?なんかいまいちキャラが違うような。みんな、あたしをしらっとした目で見ている。まあ普通そうなるわな。

「☓☓☓ちゃん、大丈夫?」

お姉ちゃんに気遣わしげに言われて、あたしは汗をだらだらさせながらも頷いた。駄目だ、あたしにはお姫様キャラなんて分からない。せいぜい分かっても今時流行りの悪役令嬢くらいなもんだ。そこならしっかり履修してるからね。どうやればうまく処刑を免れられるか、よく知っている。

「とにかく城で休みなさい。きっと久しぶりに出掛けて疲れたんだろう」

あ、あれか、もしかしたらあたしは普段引きこもりなのかも。名探偵だからね、あたしは。もう辛いからそう言い聞かせるしかない。
ラディア城に戻ると、あまりのピカピカ具合にあたしは小さく悲鳴をあげてしまった。豪華絢爛とはまさにこのこと。ラディア王室がいかに力のある王室だったかがよく分かる。

お姉ちゃんはあたしをお姫様のものである部屋まで連れて行ってくれた。よかった、一人じゃ自分の部屋がどこか、とても分からなかったから。なんせ城が広すぎる。こんなに立派だったお城が今では空っぽなんてやっぱり不思議だなぁ。

「☓☓☓ちゃん、なにかあったんでしょう?」

「!」

部屋に入るなり、お姉ちゃんが心配そうに言う。やっぱりこういう時に頼りになるのはお姉ちゃんなんだよね。あたしは正直に事の顛末を話した。

「そう、サリアちゃんは未来から」

「原理はよく分からないんだけど、気が付いたらここにいて」

「☓☓☓ちゃんは私たちに心を閉ざしているの。自分の力が怖いって、ずっとこの部屋に閉じこもっていたのよ」

「今日はどうして外に?」

引きこもっていたなら部屋から外に出るのはかなり勇気が要るはずだ。

「龍と会いたいからって☓☓☓ちゃんは言っていたけど」

その龍とお姫様は親しいのかもしれないな。あたしは心に刻んだ。もしかしたらそこから何か分かるかもしれない。

「ねえ、お姉ちゃん。あたし、これからどうしたらいいのかな?お姫様はあたしに何かをして欲しいみたいなの」

お姉ちゃんがうーんと唸って、ぽむ、と手を打った。

「それなら明日、私とクエストに行ってみましょうか?龍さんも明日までなら近くにいるみたいだし」

お姉ちゃん、一応お姫様なのに戦えるんだ。素敵。
そうだ、あたしの武器は…。

「サリアちゃん、弓は使える?」

どうやらお姫様もあたしと同じ弓使いらしい。お姉ちゃんが渡してくれたのは、かなり軽い弓だった。あたしの使っているものよりパワーは劣る。その代わり毒を付与する特殊能力付きのレアリティの高い弓だ。お姫様もなかなか強いらしいな。

「どうかしら?」

「うん、これでバシバシ敵を毒にしてあげる!」

「サリアちゃんは頼もしいわね」

「お姫様は違うの?」

あたしの言葉に、お姉ちゃんは少し考えて言った。

「☓☓☓ちゃんが龍と話せるようになったのはまだ最近のことなの。偶然龍の涙の結晶を手に入れて、龍と話すことにのめり込んだわ。私やお父様、お母様も公務だったりであの子に構ってあげられなかったせいもあると思う。きっと、寂しかったのよね」

「そっか…じゃあお姉ちゃんたちの気持ちをお姫様に伝えればいいわけね!」

「サリアちゃんは思いきりがいいわね」

ふふ、とお姉ちゃんが笑う。とりあえず龍さんと話して、お姫様のこともっと知らなくちゃ!あたしはふとエミリオのことを思い出していた。危ない目に遭っていなければいいけれど。あたしにできることはそれを祈ること。エミリオともう一度会ったら頬を引っ叩いてやるんだから。あたしはそう決意している。

「さ、今日はもう遅いし休みましょうか」

「お姉ちゃん…」

お姉ちゃんがなあに?とあたしの顔を覗き込んでくる。

「あたしのこと、信じてくれてありがとう」

お姉ちゃんが笑った。

「大事な妹ですもの。当たり前じゃない。おやすみなさい、サリアちゃん」

「うん、おやすみなさい」

あたしはベッドに寝転がった。あれ?と思う。お姉ちゃんが言っていたお姫様の力ってなんだろう。
龍と話す以外のことなんだろうか。あぁ、なんかすごく疲れた。寝よう。あたしは目を閉じた。

2・「ふあっ!お店!!」

あたしは叫びながら飛び起きた。あれ?ここ何処?辺りを見回して、自分の状況をようやく把握する。そうだ、あたし、過去の世界に来ていたんだっけ。って落ち着いている場合じゃない。あたしは絶対に元の世界に帰るんだからね。
お姫様なんてあたしに務まるわけないじゃない。

「お姫様、服借りるわ。ちゃんと洗濯するから許してね」

昨日の夜もパジャマを拝借した。あたしとお姫様は背格好も似ているらしい。服はぴったりだった。
とりあえず動きやすそうな服をタンスから探し出す。お姫様の服ときたら、ほとんどがドレスだった。
こんなヒラヒラしたもの、あたしが着られる訳ないでしょ! とりあえず着替えも終わったし、装備を整える。背中に弓を背負って完了。

「サリアちゃん」

コンコン、と部屋をノックされた。あたしは返事をする。よし、クエストにいくぞー!

2・クエストに出てから、あたしはしまったーと思った。ラディアでクエストに出るのはこれが初だ。地形なんて当然頭に入っていない。どうしよう。

「サリアちゃん、こっちよ。私についてきて」

「お姉ちゃん…」

お姉ちゃんが嬉しそうに笑う。

「お姉ちゃんなんて、久しぶりに呼ばれたわ」

「お姫様はそう呼ばないの?」

あたしは走りながら尋ねた。

「最後に話したのはいつだったかしら」

お姉ちゃんの横顔が翳る。そんな寂しい話ある?あたしは驚きと衝撃でしばらく何も言えなかった。しばらく走ると、大きな龍がいる。あれ?なんだか見覚えあるな。

「マクベスさんじゃない!!」

「知っているの?」

あたしたちが龍に近付くと、彼は人の姿になった。

「お嬢、また来てくださったのですね」

「あ、えーと…」

さて、一体どう事情を説明したものか。
お姉ちゃんが進み出る。

「この子はサリアちゃんよ。☓☓☓ちゃんとは別人で…」

マクベスさんの表情が驚きに変わる。そりゃあそうなるわよね。

「サリア嬢は私を知っておられる?」

「あなたはあたしのいる世界でも存在しているから」

龍は長命だ、おかしな話じゃない。

「お嬢になにかあったのでしょうか?」

「あたしが知りたいくらいよ。お姫様に急に呼ばれたの。そしたらこの世界にいて。お姫様は周りの人に心を閉ざしてるみたいだし?なにがあったのかなって」

マクベスさんの表情が曇った。なんか知っているみたいね。ここはよく聞いておかないと。

「お嬢と知り合ったのはつい最近のことです。彼女は龍の涙の結晶を手に入れて、周りを警戒していた私に話し掛けてきてくれました」

「それって、これ?」

それはエミリオがくれた石だ。いつの間にか持ってきていたみたいだ。不思議だよねー。分かったことといえば、龍の姿だとヒトと話せなくなるみたいね。

「はい。お嬢は自分の力で悩んでいるようでした」

「お姫様の力ってナニ?」

あたしは二人を交互に見つめた。お姉ちゃんもマクベスさんも困ったという顔をしている。

「☓☓☓ちゃんの力はもうないの」

「え?」

あたしはますます訳が分からない。お姫様の力がもうない?どうゆうこと?お姉ちゃんが続ける。

「☓☓☓ちゃんの力はある組織によって奪われたわ。そう、それは生命を与える力。ずっと王室で継承されてきた力よ。でも拐われて、奪われた。☓☓☓ちゃんはそれで感情を…」

ぎゅ、とお姉ちゃんが拳を握る。苦しそうな表情にあたしも苦しくなった。

ライアット…。その名前があたしの中を過る。そうだ、やつらは名前を変えてずっと悪さをしてきているんだった。きっとお姫様を拐ったのも。

「サリア」

ふと気が付くとあたりが暗くなっている。最初にお姫様と鏡越しに会った場所だ。

「サリア、もう過去は変えられない。王室が滅びたのは、生物兵器のせい。あなたは近付いちゃいけない。あいつは人に取り憑く。私の力で生物兵器は生まれたの。全部私のせいなの」

「どうしたら倒せるの?」

「神龍の血を飲ませること。誰も神龍に敵わなかった…」

「お姫様、あなたはずっと苦しんできたのね。あたし、その神龍を探すわ」

「サリア…駄目よ」

「大丈夫。エミリオも必ず探し出してやるんだから」

あたしが拳をぐっと握るとお姫様はきょとん、として柔らかく笑った。

「なんだ、あなた笑えるんじゃない。王室は滅びたかもしれない。でもあたしとお姉ちゃんは今もここにいるのよ!絶対に大丈夫!」

お姫様にギュッと抱き着かれた。あたしは彼女の背中に手を回す。

「サリア、ありがとう」

あたしが気が付くと自分のベッドの上だった。不思議な体験だった。そうだ、エミリオを探すんだったわね。
外はもう明るくなっている。あたしは自分の部屋を出た。
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