大好きなお姉ちゃんとモンスター喫茶店、始めました!

はやしかわともえ

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三話・喫茶モンスターついに開店?!サリアのお手伝い

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1・もう次の日になっている。あたしたちはウインディルムの湖社に招待されていた。昨日の夜、急に社長秘書を名乗る女性から電話が来たのだ。お店の開店前に、あたしたちに見せたいものがあるのだと彼女は言った。お姉ちゃんはのほほんと簡単に了承していたけど、本当に大丈夫かな?店まで迎えに行くと言われて待っていたら、高そうな車で迎えに来られた。これ、もしかしてヴァンツじゃない?と思わず呟いたら、たかしが頷いていた。そんな車が目立たないわけがない。町のみんながポカンとした顔でこちらを見ていて、ちょっと恥ずかしかった。絶対に噂になる。いや、既に噂にはなってるけどね。新しい喫茶店はモンスターの素材を使った料理を出す変わった店だって。いい意味でも悪い意味でも噂は広まるものだ。しょうがない。湖社は思っていたより小規模な建物だった。いや、正しく言うとしたら、会社の建物は小さいけど、持っている土地はめちゃくちゃ広い。
湖の周りのほとんど全てが、湖社が所有する土地なのだそうだ。そんな広い土地で何をしているか。そう、それは競馬場だ。競馬というのは馬獣を走らせて順位を当てる大人のゲームだ。お金を賭けるという部分が面白い部分らしい。正直に言って、あたしにはその面白さがよく分からない。出迎えてくれた社長秘書さんはパンツスーツで決めた綺麗なお姉さんだった。眼鏡がより知的さをアピールしている。

「社長、お客様をお連れいたしました」

湖社の最上階に社長室はあった。こんなところ、滅多に入れない。椅子に座っていたのはこの間のおじいちゃんだった。以下、社長さんと呼ぶことにする。隣にある応接間にあたしたちは案内された。

「よく来てくれたね」

「この度はお招き頂いてありがとうございます」

お姉ちゃんが頭を下げたので、あたしたちも倣う。
秘書さんが冷たいお茶をあたしたちの前に置いてくれた。喉が乾いていたから嬉しい。あまりぐびぐび飲むのもどうかと思って、一口だけにした。スッキリして美味しい。

「君たちの店はキッチンカーでの出店を考えていないのかね?」

どうやらズバリ本題らしい。お姉ちゃんは少し考えて答えた。

「そうですね、お店もまだ開店前ですし、キッチンカーを購入する予算もなくて」

「試しに一度ここで出してみないかね?」

「え?」

本当にえ?だよね。あたしもびっくりしてしまった。社長さんが言うにはキッチンカーを貸してくれるとのことだった。しかも出店料も無料にしてくれると。

「ですが、そこまでして頂く理由が…」

あのお姉ちゃんが慌てている。社長さんが笑った。

「老人の気まぐれだと思ってくれたらいい。
シチューとコーヒー、とても美味かった」

お姉ちゃんは社長さんの胃袋をがっちり掴んだようだ。

「もし、キッチンカーを出すなら出店はいつになりますか?」

「明日だ」

ひえ、明日?準備間に合うかなぁ?

「分かりました、よろしくお願い致します」

お姉ちゃん、引き受けちゃうの?
大丈夫かな?

「楽しみにしているよ」

社長さんが笑う。お姉ちゃんはどんなメニューをキッチンカーで作るつもりなんだろう?

2·またあの高そうな車に乗せられて、あたしたちは店に戻ってきた。

「さ、サリアちゃん、たかしくん。これから明日の準備をするわ。手伝って頂戴」

「はーい」

お姉ちゃんに指示されたのはお遣いだった。そう、キッチンカーで必要なのは使い捨ての皿やスプーンたちだ。環境問題がとか言われているけれど、もうなくてはならない必需品になりつつある。今はほとんど紙で作られているみたいだけど、やっぱり少し値が張る。
たかしと行ったのは、日用品を専門に扱うお店だ。
ウインディルムの開拓はまだまだこれからも進んでいくんだろうな。楽しみ。でももちろん自然も大事。
店内に入ると目的の物はすぐ見つかった。

「これかな?」

「そうだね。紙コップもいるよね?」

たかしとあれこれ言い合いながら商品をカゴに入れていく。料理を出せても、100が限界とお姉ちゃんに言われたので、余分に150個ずつ買った。

明日の出店に関しては湖社が急遽宣伝してくれることになった。ドキドキする。
でもやることはいつもと変わらないよね。
店に戻ると、お姉ちゃんが明日必要な食材を確認していた。

「お姉ちゃん、明日は何を作るつもりなの?」

お姉ちゃんがふんわり笑う。

「明日はエッグバーグマフィンよ。お肉をこれからミンチにしてハンバーグの形に成形するの」

「あたしもやる」

「俺も手伝うよ」

「助かるわ、二人共」

お姉ちゃんがモンスターから獲った生肉を包丁でどんどん細かくする。粗めのひき肉って美味しいからね。それを秤で量りながらハンバーグの形に成形。よし、まずは一個目。たかしはこういうの得意だからな。あたしより綺麗に成形してる。負けてられない。
なんとか100個出来た。

「お姉ちゃん、後は?」

「マフィンは多めに仕入れたから明日の朝届くわ。あとは卵ね」

「あの小麦粉をくれた人から買ってこようか?」

「助かるわ。お願いね」

お姉ちゃんからお財布を預かる。たかしも一緒に行ってくれることになった。心強いって思ってしまう。 
たかしはあたしの中でかなり大きな存在になってきてしまっている。記憶が戻ったらサヨナラなのかな?そんなの絶対に嫌だ。でもたかしの気持ちを尊重してあげなきゃいけないのも分かっている。あたしはどうやって気持ちに折り合いをつければいい?たかしを見たら優しく笑われた。そういうところよ。

麦畑に到着した。
やっぱりキラキラしてる。風が吹いていて気持ちいい。ざあっと麦たちが擦れ合う音がたまらない。

「サリアちゃん、卵は何個くらい買うの?」

「そうね、これも150ぐらいでいいと思うけど」

大きなお家の呼び鈴を鳴らすと、あのエルフさんが出てきてくれた。あたしは言う。

「あの、明日卵が必要で、買いたいんですけど」

「いくつ欲しいの?」

「150ほど」

「分かった。明日の朝届くように送るから住所教えて」

前にも思ったけど、このエルフさん、結構ぶっきらぼうだな。でも悪い人ではなさそうだ。

「結局あの小麦粉は何に使ったの?」

「パンケーキにしました」

あたしが答えるとエルフさんが笑う。

「今度食べに行くよ。聞いたけど、開店前に明日キッチンカー出すんでしょ。いい宣伝になるといいね」

や、優しいー。このエルフさん、ギャップ萌えじゃん。しかも既にキッチンカーの宣伝をしていることも知っていてくれた。いいビジネスパートナーになれそうかも。
卵はキッチンカーに直接持ってきてもらえるようにお願いした。

「お金は届いた時に引き換えでいいよ」

「あ、ありがとうございます!」

これで卵もオッケーかな。
そうだ、とエルフさんが笑う。

「ちょっと見てかない?」

なにを見るんだろう?とあたしは思った。エルフさんに手招きされてついていく。ぐるりと回りこみ牛舎に彼は入っていった。こんな所にあったんだ。あたしたちも後ろをついていく。わ、牛獣がいっぱいいるー。

「ほら」

「わ、赤ちゃんですか?」

牛獣の赤ちゃんがこてん、と体を横にしている。可愛い!

「ミルクをあげてみない?」

「え!いいんですか?」

「いいよ」

あたしたちはミルクをあげてみた。ゴクゴクとすごく飲んでいる。どうやら女の子みたいだ。この子も大きくなったらミルクを出してくれるようになる。

「すごいね、たかし」

「お母さんになったみたいだよね」

確かにその通りだ。あたしもいつかお母さんになれるのかな?って、待って。まだお相手すらいないんだから気が早すぎるっての!たかしが空になった哺乳瓶を赤ちゃんから離そうとすると咥えたまま離さない。もしかしてお腹いっぱいになってない?

「この子、すごく食いしん坊さんだから」

そんなところも可愛い。エルフさんが赤ちゃんの頭を撫でて哺乳瓶を口から離していた。

「でね」

あれ、まだ何かあるの?あたしたちはエルフさんを見つめた。

「ここの手伝いをしてくれたら素材代も安くできるよ。基本的にこの村の人だけでここをやってるから手伝ってもらうと、すごく助かるんだよね」

「やらせてください!」

あたしは飛び付くように言っていた。だって新鮮な食材を安く調達できるなんて素晴らしいことだ。

「俺もやります」

たかしもそう申し出てくれた。

「ありがとう。君たちみたいな人になら安心して任せられる」

エルフさんがそう言ってくれてよかった。よし、まずはキッチンカーだ。

2·次の日、早朝になっている。いざキッチンカーとは言ってもやっぱり車は車だ。中は狭い。居られても二人が限界だ。たかしには外で注文の品をお客様に届ける作業をしてもらうことにした。あたしはお姉ちゃんのサポートと飲み物を担当することになった。お姉ちゃんはひたすら調理と盛り付けだ。店を出せるのは夕方4時まで。競馬をしに来るお客様がここを利用する。他のお店も当然ある。お酒はうちの店にはないから少し不利かもしれないな。どこに行ってもビアの文字が書かれているし。
材料も無事に届いている。良かった。たまごも丈夫な入れ物に入って届けられた。よかった。

「サリアちゃん、たかしくん、今日は頑張りましょうね」

「うん、頑張ろう」

たかしが手を差し伸べた。お姉ちゃんがその手の上に手を重ねる。

「目標は完売よ。頑張るわ」

あたしも二人の手の上に自分の手を重ねた。

「えいえいおー!」

なんだかチームみたいで楽しい。さあ、始まるわよ。

昼前になってようやくお客様がぱらぱら現れるようになった。どうやら1レース目が今、終わったみたいだ。喉も乾いたしというところだろうか。

「お、コーヒーもあるんだ」

お客様の一人がウチの看板を見て声を上げた。

「火山地域の特産の豆を使用しています。いかがでしょうか」

すかさず声を掛けたらお客様が近づいてメニューを見に来てくれた。今日のメニューもシンプルにエッグバーグマフィンとアイスコーヒーとカフェオレだ。

「エッグマフィンいいね。二つ貰おうかな。あとアイスコーヒーもブラックで」

「かしこまりました」

お客様来たー!!レジでお金の精算をする。アイスコーヒーはキンキンに冷えている。

「コーヒーになります」

たかしがコーヒーを運んでくれた。エッグバーグマフィンは注文を受けてから作るからどうしても時間がかかるのよね。でもさすがお姉ちゃん。凄まじいスピードでマフィンを作ってしまった。

「お待たせいたしました」

「うわあ、うめえ」

一口噛り付いたお客様が思わずといった様子で声を上げる。もちろん周りのお客様にもこれが聞こえているわけだ。
さくらみたいだけどこういうの大事だよね。ぱらぱらと店を利用し始めるお客様が増えている。3レース目が終わってお昼を食べようというお客様が多くなってきた。いつの間にかあらゆる店に行列が出来ている。あたしたちも当然忙しい。

「たかしくん、次でマフィンが切れるわ」

お姉ちゃんがふうと息を吐きながら言う。気が付いたらもう午後だった。ここまで早かったなあ。
こうしてキッチンカーの出店は無事終わることが出来たのだった。

「今日の売り上げはー」

夜、家に帰ってお姉ちゃんが早速お金を数えている。

「42000ダラーでした」

「やったあ」

お店のチラシも大分配れたし、今回の出店は大成功って思っていいのかな。お店の開店の日もお客様が集まってくれれば嬉しいけれど。

キッチンカーを出した翌日、あたしたちは再び湖社にいる。もちろんお土産を持ってだ。
熱魔法のかかったエッグバーグマフィンとブラックのキンキンに冷えたアイスコーヒーである。

「おお、嬉しいねえ」

社長さんと秘書さんも食べ始めてくれた。

「うーん、やっぱり美味いなあ」

「美味しいです」

「今回は本当にお世話に・・」

お姉ちゃんの言葉を社長さんが手で制す。

「また出来る時は店を出してほしい。君たちの店はかなり評判が良かったよ」

そう言って貰えて嬉しい。お姉ちゃんも頬を緩ませている。

「開店日にはまた行かせてもらう。楽しみにしているよ」

「ありがとうございます」

こうして合間に畑のお世話をしたり、エルフさんのお手伝いをしたり、お姉ちゃんのメニュー試食会をしたり、採集クエストを受注したりしているうちに開店初日になっている。ここまであっという間だった。
今日の為にあたしたちはかなり頑張った。今日だって頑張るぞ!

「お姉ちゃん、そろそろ開店時間だよ」

「ちょっと待って。お砂糖がなくなりそう」

な、なんだって?

「お姉ちゃん!どうするの?」

「大丈夫よ、交易で取り寄せてもらってるし」

そういえばそうだった。

「俺が取りに行くよ」

たかしがエプロンを外しながら言う。

「待って、あたしも行く」

「サリアちゃん、開店まで5分しかないからここにいてあげて?」

たかしに諭されるように言われてあたしは頷くことしか出来なかった。たかし、帰ってくるよね?あたしは不安だった。このままたかしがいなくなったらあたしはすごく傷付くと思う。たかしがあたしを見て屈んだ。頭を撫でられる。

「サリアちゃん、心配要らないよ」

「あ、あたしだってあんたを信頼してるんだからね!」

「ありがとう。アリアちゃん、すぐ戻るからね」

「気を付けていってらっしゃーい」

たかしの大きな背中が小さくなるのを見守っていたら、お姉ちゃんにも頭を撫でられた。

「さ、開店よ!」

そうだ、今日は大事な開店初日だ。あたしは店の外に出てみた。すごい。行列が出来ている。あまりお待たせさせないように上手くさばかないとね。

「お待ちのお客様、ご案内致します」

あたしは順番にお客様を店内に誘導した。
オーダーを取って、お姉ちゃんに伝える。コーヒーとカフェオレを合間に淹れてテーブルに運んだ。

「ただいま」

たかしが裏口から入ってくる。彼の表情が固い。どうしたんだろう?

「なんかすごい量もらった…」

たしかにその通りだ。この間の袋の2倍はある。 

「あらまあ。リンカさん張り切ってくれたのね。私もこれから注文のパンケーキを焼くわ。二人共頑張りましょう」

お姉ちゃんに励まされると、すごく頑張ろうって思えるな。

「たかし、外でお客様の誘導頼める?あたしは店内でさばくから」

「了解」 

たかしがいてくれて本当によかったな。あたしとお姉ちゃんだけだったら多分、ここまで来れてない。

今日の最後のお客様は社長さんだった。本当に来てくれたんだ!嬉しい!エルフさんも様子を見に来てくれた。

「今日のおすすめは?」

社長さんに尋ねられてあたしは考えた。お姉ちゃんの作るものは何でも美味しい。

「社長さんには特別メニュー出しちゃう」

お姉ちゃんがそう言って笑う。特別メニュー?ってなんだろう?

厨房に向かうと、お姉ちゃんはフライパンを振るっていた。これは。

「ナポリタン?」

「お店の味を引き継ぐ約束ですもの」

お姉ちゃんは秘伝のレシピを教わったらしい。社長さんは相変わらずがつがつ食べた。

「うん、美味いね。メニューに加えないのかい?」

社長さんにお姉ちゃんが笑いかける。

「いずれ加えようかと」

「ああ、それがいいね」

ナポリタンを作るならピーマンや玉ねぎ、ソーセージも必要だ。なにより肝心なのはトマト。
ウインディルムにあるお店じゃ、なかなか新鮮な野菜は手に入らないから、ナポリタンはレアなメニューになる。お姉ちゃんはパスタの麺を小麦粉から作ったらしい。
大変だったと言っていた。今度からは手伝おう。

ついに「喫茶・モンスター」は開店したのだ。
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