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アシスタントデビュー
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「え…それって」
透花は戸惑いを隠せなかった。
姫華がある提案をしてきたのだ。
それは、『姫華の仕事を手伝う』事だった。
姫華の提案はもちろん、透花としては有り難い申し出だ。
だが、この世界について、何も知らない自分が急に割り込んでいいものかと後ろめたさも感じる。
透花としては、ウエイターとして店で働かせてもらえないかと聞こうとしていたので、こんなことは全く想定していなかった。
「透花くんはこれからも自力で食べていかなきゃいけないでしょう?
ウエイターさんだとぴゅあーずは勤務形態がパートしかないし、僕とお仕事したら時間は長丁場だけどお給料は弾みますよ」
透花の心はもう決まっていた。
姫華のそばにいたいと思う。
彼のことをもっと知りたかった。
「俺、姫華さんを手伝いたいです」
「ありがとう。透花くんはパソコンに触った経験は?」
「高校の時にちょっとだけ…」
「わかった。僕と一緒に勉強しようね」
「は…はい」
姫華がいくつか書類を出して、透花の目の前に置いた。
どうやら働くにあたっての誓約書や給料の振込先の書類など色々なものがあるようだ。
透花は今までバイトもしたことがない。
大事な書類やなんかは全てコーチに任せきりにしていた。
だがいつまでも周りの手を借りているわけにはいかない。
自分の大切な人生なのだから、自分の力で生きていかねばならないのだ。
「書くところは分かる範囲でいいから、お父さんたちにも相談してもらって」
透花が書くべきところを姫華がシャープペンシルで丸く囲ってくれる。
どうやら一度話を家に持ち帰るように言われているようだと透花は気付く。
透花としては、子供扱いをされているようでなんだか面白くない。
「俺、ここで書いていきます」
姫華がにこっと笑った。そして可愛らしい笑顔のまま言う。
「透花くんが立派な大人なのはよく知っています。
でもこの業界をよく思っていない方ももちろんいるんです。
だから僕はなるべくそれをクリアにしたい。
透花くんが働いている職場はしっかりした企業なんだって自信を持って、言って欲しいんです」
姫華の言葉にぐうの音も出なかった。
透花は書類を折れないようにクリアファイルに挟んで、いつものリュックにしまった。
「透花くん、コーヒーを飲んでいきませんか?」
姫華がコーヒーを淹れている。
その姿がなんだか色っぽくて、透花はつい見とれてしまった。
ぎゅっと抱き締めたいと思ってしまう。
だが、そんなことをしたら姫華がびっくりするだろう。
「透花くん、お砂糖とミルクは…」
姫華がこちらを見上げて小さく首を傾げた。
そして笑う。
「透花くん、そんな可愛い顔はずるいですよ」
姫華がマグカップを透花の前に置いて、自分の分を飲み始めた。
透花も慌てて飲み始めた。
姫華の淹れてくれたコーヒーはとても美味しい。なんとか飲み干して、透花は立ち上がった。
「か、帰ります」
「気を付けてね」
姫華が笑う。透花はぺこっと頭を下げてマンションから出た。
「可愛いのは姫華さんの方だろ…」
マンションから出て、ようやく言えた一言はこれだった。姫華の笑顔には毎回やられてしまう。
(俺、やばい人を好きになっちゃった気がする)
姫華のことをもっと知りたい。
透花は実家に帰ることにしたのだった。
透花は戸惑いを隠せなかった。
姫華がある提案をしてきたのだ。
それは、『姫華の仕事を手伝う』事だった。
姫華の提案はもちろん、透花としては有り難い申し出だ。
だが、この世界について、何も知らない自分が急に割り込んでいいものかと後ろめたさも感じる。
透花としては、ウエイターとして店で働かせてもらえないかと聞こうとしていたので、こんなことは全く想定していなかった。
「透花くんはこれからも自力で食べていかなきゃいけないでしょう?
ウエイターさんだとぴゅあーずは勤務形態がパートしかないし、僕とお仕事したら時間は長丁場だけどお給料は弾みますよ」
透花の心はもう決まっていた。
姫華のそばにいたいと思う。
彼のことをもっと知りたかった。
「俺、姫華さんを手伝いたいです」
「ありがとう。透花くんはパソコンに触った経験は?」
「高校の時にちょっとだけ…」
「わかった。僕と一緒に勉強しようね」
「は…はい」
姫華がいくつか書類を出して、透花の目の前に置いた。
どうやら働くにあたっての誓約書や給料の振込先の書類など色々なものがあるようだ。
透花は今までバイトもしたことがない。
大事な書類やなんかは全てコーチに任せきりにしていた。
だがいつまでも周りの手を借りているわけにはいかない。
自分の大切な人生なのだから、自分の力で生きていかねばならないのだ。
「書くところは分かる範囲でいいから、お父さんたちにも相談してもらって」
透花が書くべきところを姫華がシャープペンシルで丸く囲ってくれる。
どうやら一度話を家に持ち帰るように言われているようだと透花は気付く。
透花としては、子供扱いをされているようでなんだか面白くない。
「俺、ここで書いていきます」
姫華がにこっと笑った。そして可愛らしい笑顔のまま言う。
「透花くんが立派な大人なのはよく知っています。
でもこの業界をよく思っていない方ももちろんいるんです。
だから僕はなるべくそれをクリアにしたい。
透花くんが働いている職場はしっかりした企業なんだって自信を持って、言って欲しいんです」
姫華の言葉にぐうの音も出なかった。
透花は書類を折れないようにクリアファイルに挟んで、いつものリュックにしまった。
「透花くん、コーヒーを飲んでいきませんか?」
姫華がコーヒーを淹れている。
その姿がなんだか色っぽくて、透花はつい見とれてしまった。
ぎゅっと抱き締めたいと思ってしまう。
だが、そんなことをしたら姫華がびっくりするだろう。
「透花くん、お砂糖とミルクは…」
姫華がこちらを見上げて小さく首を傾げた。
そして笑う。
「透花くん、そんな可愛い顔はずるいですよ」
姫華がマグカップを透花の前に置いて、自分の分を飲み始めた。
透花も慌てて飲み始めた。
姫華の淹れてくれたコーヒーはとても美味しい。なんとか飲み干して、透花は立ち上がった。
「か、帰ります」
「気を付けてね」
姫華が笑う。透花はぺこっと頭を下げてマンションから出た。
「可愛いのは姫華さんの方だろ…」
マンションから出て、ようやく言えた一言はこれだった。姫華の笑顔には毎回やられてしまう。
(俺、やばい人を好きになっちゃった気がする)
姫華のことをもっと知りたい。
透花は実家に帰ることにしたのだった。
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