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悶々

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(やっちまった…)

透花は自分のベッドに静かにうつ伏せになっていた。窓から夕日が射し込んできているがカーテンを閉める気にもならなかった。
つい二時間程前までメイド喫茶「ぴゅあーず」で楽しく遊んでいたとは思えない。

出来る事なら、過去の自分を自慢の蹴りで吹き飛ばしたい。
だが、そんなことは無理なのである。

(なんで姫華さんをデートに誘っちゃうかなぁ、俺は)

あの時の、姫華の困惑したような表情をまざまざと思い出して、透花は思わず呻いた。
まだ彼と距離を詰めるには時尚早だったらしい。
正直に言って、透花は人付き合いが下手な方である。
この世で、透花が心を許せる人は家族やコーチ、和真くらいなものだ。

「あーあっ」

透花はごろんと寝返りを打って仰向けになった。
ピコン、と脇の机に置いたスマートフォンが鳴る。
メールの着信音だ。

「なんだよ、コーチかな?」

透花は起き上がってスマートフォンを手に取って操作した。
メールの送り主は姫華からだった。
これから出てこられないかと書かれている。
透花は慌ててメールを返信した。
もちろん「了承」の方だ。

透花は慌てて支度をして家を飛び出した。

✢✢✢

「あ、透花くん、こっちですよ」

待ち合わせ場所に指定された駅前でキョロキョロしていた透花に声を掛けてきたのは黒髪の眼鏡を掛けた青年だった。
青いポロシャツに細身の白のパンツ姿だ。

だが、顔立ちから姫華だとすぐわかる。
透花は彼のそばに駆け寄った。

「ひ、姫華さん!」

「ふふ。待っていました」

にっこりと姫華が笑う。

「行きましょうか!」

姫華にぐい、と腕を掴まれて引っ張られる。
小柄だが力強い。
透花は慌てて彼と歩調を合わせた。

姫華に連れられてやってきたのは高層ビルの一室だった。
この階全て姫華の持ち物らしい。

広い室内にソファとテレビ、アイランドキッチンまである。
奥には寝室があるのか両開きの扉があった。

「す…すごい」

姫華がテレビを点けながら笑う。

「あんまり帰ってきてなくて放置ばかりです」

社長という職業の忙しさに透花は気が遠くなりそうになった。
姫華が温かいお茶を淹れてくれる。
カフェインが入っていないという姫華特製のお茶らしい。

「あ、美味しい」

こきゅ、と一口お茶を飲んで感想を述べると、姫華が笑った。
こうして姫華が笑ってくれるのが嬉しい。

「透花くんはもう、お夕飯を食べましたか?」

透花は首を横に振った。
姫華にフラレたと思いこんで、そのまま不貞寝するつもりだったとはさすがに言えない。

「低カロリーで高たんぱくなものなら食べられるんでしたよね?」

今日透花が話した内容を姫華はちゃんと覚えていてくれたらしい。
冷蔵庫から取り出したのは、豆腐だった。
そして鶏の挽き肉。

「ハンバーグ、好きですか?」

「は、はい」

「すぐに作ります。少し待っていてください」

透花に出来ることは今は無さそうだ。
姫華が玉ねぎをリズミカルに刻む音が響く中、大人しく待つことにした。
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